短編小説【イタズラ好きの彼女】 #一枚の写真から文芸賞
僕の彼女はすごく変わっている。
彼女は僕が困っているところや、驚いているところをを見るのがとても好きなのだそうだ。
例えば、やったことのないサバゲーに無理矢理参加させられたり、僕の携帯のパスワードを解除して、勝手に新たなパスワードを設定してみたり、待ち合わせの時も、音も無く近づいてきて、ワッと驚かしてきたり、デートの約束をメッセージでする時に、謎の暗号文を送ってきたり、突然ランチの約束のはずが山登りになったりと様々で、他にも沢山あった。
そしてその色んな事に巻き込まれる僕を見て、彼女は幸せそうな表情を浮かべていた。
奇抜というより、もはや変態の域だった。
そしてある日、彼女からのメッセージに画像が添付されて送られてきた。
こんにちは
これだけで
わたしにたどり着けるかな?
もし来てくれたら
大事な話をしたいと思います。
待ってます。
そして添付されていた画像には、眺めの良い窓辺の席に座っている、彼女の後ろ姿が写っていた。手元には、グレープジュースのようなドリンクと、彼女のスマホ。
いつもの彼女らしくない文面だった。
そして気になる大事な話・・・・・・。僕の頭の中には結婚の二文字が大きく思い浮かんでいた。
そりゃそうだ。あんな彼女の性癖に文句も言わず付き合えるのは僕以外あり得ない。
そして僕も彼女と結婚がしたかった!
彼女と添い遂げたい!
早く彼女に会いに行かなければ!
僕はさっそく彼女の居場所を推理し始めた。
まず画像から彼女の居場所を特定するのは難しいだろう。メタデータなんてわかりやすい痕跡、彼女が残しているわけなかった。
それにしても画像の窓の向こうの景色、どこかで見たことがあるような気がするが、どこだろう。
僕は彼女と外食した時は必ず写真を残していた。写真を次々と見返すもその画像の景色を思い出すような写真は出てこなかった。
時間がもったいない。
見たことあるような、なんて不確定な要素はとりあえず置いておくことにした。
次は彼女の送ってきた文章に着目する。
不自然な改行は恐らくミスリードを誘っているだろう。縦読みも疑ってみたが、そんな簡単にわかるような事を彼女はしない。携帯のパスワードを勝手に変えられた時は、一週間も掛かった。
あの時は本当に困った。だが、現在の僕は違う。
彼女は今まで百通以上の暗号文を送ってきていた。そして僕はその度にそれを解読してきた。
僕は彼女の作る暗号文の傾向を研究し、完全に把握すると、オリジナルの暗号キーを作成することができたのだ。
さっそく、彼女の文章にその暗号キーを使用する。
すると彼女の文章はどこかの住所に変換された。それはなんと彼女の家の住所だった。
僕は急いで彼女の家に向かった。
彼女の部屋のインターホンを押すと、どうぞ、と彼女の声がした。どうやら僕の答えは合っていたようだ。
ドアを開けると、彼女の部屋には、あの画像の景色の絵が飾られていて、その前に窓枠や長テーブルが置かれていた。
だからこの絵に見覚えがあったのか。
「ねえ、たどり着いたよ」
僕がそう声をかけると、彼女はくるりとこちらを振り返った。
「おめでとう」
彼女は小さく拍手しながらそう言った。
「ありがとう」
「思ったより早くここにたどり着いて驚いたわ。数日はかかるかなって覚悟していたのに。あなたの目覚ましい成長に本当にすごく感動している」
「それより、大事な話ってなんだい?」
「ねえ、私のこと愛してる?」
彼女の眼差しが僕を射抜く。
「もちろんさ」
「ずっと一緒にいたい?」
「もちろん」
僕の頭に結婚の二文字が浮かんだ。
「じゃあ私と同じ様に、我が国の諜報員となって、ずーっと一緒に、国の為に戦いましょう」
「え?」
僕は彼女の言葉に呆気にとられた。
「私はあなたの事をとても愛しているの。だけど私がこの仕事をしている以上、いつかは一緒にいられなくなるのはわかっていた。だけど諦められなかった。だから私は、あなたの事を諜報員になれるように鍛えることにしたの」
「じゃあ今まで君のイタズラは、全てこの為に?」
「その通りよ。サバゲーでは戦闘技術を、私が気配を消して驚かしたりしてたのは、ステルス技術を、パスワードや、暗号文は、暗号解読技術を。そしてあなたは全て、合格基準を遥かに上回る実力を手に入れたわ」
「まさかそんな思惑があったなんて」
「あなたには色々と迷惑を掛けたとは思ってるの。だけどそれはあなたとこれからもずっと一緒にいる為だったのよ」
「ありがとう」
僕はそんな彼女に感動していた。
「私こそありがとう。それで、これからも私と一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ! もうあのイタズラが無くなってしまうのは少し寂しいけどね」
「あら、これからもするつもりよ。あなたの困った顔、すごくチャーミングだから」
(了)
《1994文字》
