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平凡でリッチなかぼちゃプリン

完全に燃え尽きた。つい先日社会人3年目デビューを果たしたばかりだが、毎日がつまらなくて仕方ない。

憧れの会社に入ったはずだった。2年前に設定したOutlookのプロフィール画像に映る私は、瞳がキラキラと輝いている。肌もピッカピカだ。入社半年で東京から広島に異動になったときだって、県土全てのお好み焼きを食い尽くしてやろうとワクワクしていた。

染めるのを辞めて半分地毛になった髪を縛りながら、鏡に映る顎ニキビを見てため息をついた。頭の中で、肌ピカ新入社員が肩をぶんぶん回しながら「2年後にはシゴデキなお姉さんになる!」とほざいている。力を込めてニキビを潰した。

ごめんね。お姉さんはシゴデキになれなかった。3年目になった今、完全にルーティン化された業務を無心でこなすだけの日々を送っている。ルーティンの中には、朝の挨拶周りでお局に捕まり30分間愚痴を聞く、営業の外回りで得意先のパートさんに捕まり30分間愚痴を聞くなどが含まれている。キラキラした先輩として憧れられる予定だったが、広島にはいっこうに新入社員がやってこない。

同期が何人か出世して、違う仕事を任され始めた。私と同じように残っている同期と「残業増えるから出世したくないよね~」などといってなれ合う。本当はめちゃくちゃ出世したい。

特別嫌なことがあるわけではないのに、なぜか猛烈に会社に行きたくなくて、ソファに座り込んだ。スマホを手に取り、Googleで「社会人3年目 つまらない」と検索してみる。するとGeminiが颯爽とトップに現れて「典型的なあるあるです」と言い残した。ええい、うるさい。

私は、どこまでも平凡だ。渾身の読書感想文は選ばれないし、たくさん勉強して入った大学の偏差値は55だし、美容に対して呪われたように努力してもモデルや女優になれない。

平凡な社会人3年目であることは分かっている。でも、鉛のように重たい足を引きずって歩く会社までの道とか、不安につぶされて早くなる鼓動とか、「あるある」では片付けられないのだ。じんわりまぶたが濡れた。それでも出勤の時間はやってくる。両足をぶんっと振って立ち上がった。

定時を1時間過ぎたオフィスには、まばらに人が残っている。死んだ魚の目をしながらポチリと退勤ボタンを押した。ふと3つ向こうのテーブルに目をやると同期が同じ顔をしていて、ちょっと可笑しかった。彼女とはちょこちょこ一緒に夜ご飯を食べながら傷を舐めあう仲だが、最近話しているとどうやら同じ悩みを抱えているらしい。Geminiの「あるある」が肯定されたことに気がつき、心の中でしゃくれた。

「なにしゃくれてるの」

いつのまにか近くにいた同期の声に目を見開く。どうやら本当にしゃくれていた。そうっと顎を戻しながら話を逸らす。

「私たち今日も働いてえらいからさあ、おしゃれイタリアンでも食べに行こうよ」

仕事の疲れを高くて美味いものに吸収させるというのは、この2年間で唯一身に着けた術と言っていい。早々に限界を迎えた月曜日の夜に、2人でおしゃれイタリアンへ向かった。

ぼんやりとした照明に、ずらりと並んだワイングラス。あまおうと生ハムの盛り合わせ、鯛のカルパッチョ、自家製ハンバーグステーキ……金髪をぴちっと1つにまとめたお姉さんが、ささやくように料理の説明をしてくれる。実におしゃれな空間だ。しかし我々は「え~超おしゃれなんですけど~東京って感じ~(in広島)」「サイゼと全然違うな!」などとうだうだ言いながら食べるから、多分おしゃれじゃない。

おしゃれを胃袋にパンパンに詰めたあと、「頑張ったから」を免罪符にデザートを選び始める。メニュー表に「バスクチーズケーキ」「瀬戸内レモンシャーベット」「ガトーショコラ」……とたくさん並んでいてワクワクした。どんどん見ていくと下の方に、「リッチなかぼちゃプリン」がいた。なぜ、君だけ、リッチ。「かぼちゃプリン」だけでは戦えないというのか。分からないが、猛烈に惹かれて注文した。だってリッチだもん。横で同期が「単純かよ」と言って笑っている。

静かに到着したそれは、確かにリッチだった。かぼちゃプリンの上にとろりとしたクリームがかけられて、オレンジとミントがちょこんと乗っている。見た目だけでワクワクして、特別だ。いいなあ、リッチって感じ。

スプーンで小さくすくって、ゆっくりと口に運ぶ。口の中でふわあっとかぼちゃの香りが広がって、実家のちゃぶ台を思い出した。

母が作ってくれたかぼちゃプリンに似ていた。甘さ控えめで、ざらっとした舌触りで、幼いころはあまり好きでなかったけど、大人になってからたまに食べたくなる味。要するに、ほっとするほど平凡な味だった。

ぽんぽんのお腹を抱えて、おしゃれイタリアンの外に出た。お腹は重たいが、心は少しだけ軽くなった気がする。信号待ちの間に、会社を出たときよりも晴れやかな顔で「お疲れ!」と手を振る同期を見送った。こんな時間があるから、また働いてやるかという気になる私は、やっぱり平凡な会社員だ。

それでも、毛布にくるまって思い出す、実家のキティちゃんスプーンやおしゃれイタリアンの小さなスプーンですくったそれは、舌の上で特別甘くとろりと溶けた。


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