【量子通信③】衛星通信ネットワークが必須だった!?量子通信実現への壁を超える|5分で読める最新テクノロジーあれこれ
最新のテクノロジーに関することを中心にお送りする本シリーズ。
宇宙開発、AI、量子技術から科学全般の話題まで、エンジニア視点で解説。
「理系の難しいことは苦手でちょっと。。。という人でも5分でスッと理解できるように」というコンセプトでお届けしています。
「量子通信」解説シリーズの3回目。
前回は、量子通信が注目されてるのは「絶対安全」な量子鍵配送という技術が実現できるからだよ~、ってことについて解説しましたね。
これからの社会では、必要不可欠な技術になるかもしれない。
そんな量子鍵配送ですが、実は実用化に向けては大きな問題があります。
いったいどんな問題があって、どうやって解決しようとしているんでしょうか。
今回はそのあたりについて、解説していきます。
🧱 量子鍵配送に立ちはだかる壁は?
量子鍵配送を使えば、理論上は絶対に盗聴が不可能な通信が出来る。
これは、今現在でも続く「情報を盗む側と盗まれたくない側のイタチごっこ」とも言える人類の歴史を振り返って考えれば、実はとてつもないメリットがあることです。
特にこれから量子コンピュータが実用化されれば、従来の暗号技術は使い物にならなくなる可能性があるので、量子鍵配送が不可欠になるかもしれません。
そんな量子鍵配送ですが、実用にあたっては大きな壁があります。
それが「距離の壁」です。
いったいどういうことでしょうか?
🔦 量子鍵配送は光子を使用
前回までに説明したように、量子鍵配送では素粒子のペアを「量子もつれ」の状態にしてペアの一方をデータの届け先に送っておく必要があります。
使用する素粒子は光子です。
え?光子って何??
「光子」とは光の粒子のことで、簡単に言うと光です。ここで詳しく解説すると長くなるので省きますが、私たちが普段「光」と認識しているものは、光子がたくさん集まったものだと思ってください。
💻 光子を送るなら光ファイバーが最適!?
ところで光でデータを送ると言えば、何かを連想しませんか?
そうです、光回線です。
「フレッツ光」とか「ドコモ光」、「au光」など、光回線サービスはいろいろありますが、今はほとんどの家庭で光回線を利用してインターネットに接続してるんじゃないでしょうか。
この光回線というのは、光ファイバーの中を通る光でデータを送受信する回線のことです。
インターネットが出はじめの頃は、銅線で出来た電話回線(メタル回線)が普及していて、データ通信にも利用されていたわけですが、光ファイバーの登場で一気に入れ替わりが進みました。
そして、現在では光ファイバーネットワークは、国内はもとより、海底に張り巡らされた光海底ケーブルで世界中とつながっています。
なんと、世界中の光海底ケーブルの長さを合計すると、地球30周分以上にもなるんだとか。
光ファイバーの何がいいかっていうと、いろいろあります。
大量のデータを一度に流せるとか、ノイズの影響を受けにくいとか、ケーブルが細くて軽いとか。
そしてより遠くにデータが送れる。
とにかく良いこと尽くしなんですね。
そんな光ファイバーとは光に変換されたデータを送るための管(くだ)なわけなので、「光そのもの」である光子を送るにも最適なはずです。
💡光ファイバーでは遠くに送れない
太平洋の向こうのアメリカとだって通信できちゃう光回線。
それなら、量子通信の光子だって問題なく届けられそうですが、そう簡単ではありません。
いくら優秀な光ファイバーケーブルといっても、距離が長くなれば信号は少しづつ弱くなっていきます。
実はそのままで届けられるのは、数百キロメートルくらいが限界。
そのため、ケーブルの途中に信号を増幅する中継器をいくつも設置することで、数千キロ以上もの遠距離の通信が可能になっています。
だったら、中継器を使えば大丈夫じゃん!
って思いますが、量子通信の場合はそれが出来ないんです。
何で?って思いましたね?
量子通信で送るのは、光子という素粒子です。「距離が長くなって信号が弱くなる」とは、つまり素粒子レベルで考えると、たくさんいた「光子ちゃん」がどんどん少なくなっていくということ。途中で脱落してしまった光子ちゃんたちは、どこかに行ってしまって戻ってくることはありません。
さらに、一つ一つの光子ちゃんは「量子もつれ状態のペアの一方」ということになり、ちょっとでも観測されると状態が変わってしまうので、コピーすることもできない。
つまり、途中で光子の数を増やすことが出来ないんです。
ということで、量子通信では途中で中継器で増幅することができない。
光ファイバーを使っても、頑張って100キロくらい先までしか送れないんです。
🛸 宇宙空間なら光は減衰しない
この距離の壁をどう超えるか?
じつは、中継器で増幅する方法では無理ですが、中継する方法がまったくないわけではありません。
ただ、その方法の実現にはまだまだ時間がかかりそう。。
そこで注目されたのが「宇宙」です。
光は真空中ではほとんど減衰しません。
それに宇宙であれば、地上と違って障害物もなく、何千、何万キロの彼方でも、直線的に進む光を届けることが出来る。
というわけで、人工衛星による量子通信ネットワークを、宇宙空間に作ってしまおうというわけです。
もちろん、衛星ネットワークを使う方法にも、いろいろと乗り越えなければいけない壁が存在します。
例えば、衛星との通信では光子を細いレーザーに乗せて送ることになりますが、何百キロ以上という距離になると、どうしてもビームが広がってしまって光子が拡散してしまう。
地上と衛星を結ぶ直線には大気が存在するので、光が減衰したり散乱してしまう、などなど。
それでも、量子通信において「宇宙」は超重要なキーワードになってるんです。
🛰️ 衛星ネットワークで世界中で量子鍵配送が可能に!?
人工衛星を利用した量子鍵配送。
実は、だいぶ前から実証試験も行われています。
2017年には中国の「墨子号」という実験衛星が、量子もつれの光子のペアをそれぞれ、1200キロも離れた別の地点に送ることに成功。
なんと8年も前のことです。
中国に遅れまいと世界中の国や企業で、衛星による量子通信の研究が進んでいます。
直近の話題では、2025年5月に量子コンピュータを開発しているIonQという米国の会社が、小型衛星ネットワークの構築を進めているCapella Spaceを買収。
日本でもNICT(情報通信研究機構)が中心となって、ソニーやスカパーJSATなどと協力して実証試験などを進めています。
これらの研究が進んで、地球全体をカバーする「量子通信衛星ネットワーク」が構築できれば、距離の壁を超えて世界中どこでも絶対安全な通信が実現できる。
これが、量子通信には衛星通信ネットワークが必要と言われる理由です。
📝 まとめ
3回に渡ってお伝えしてきた量子通信。
量子通信で実現する「絶対安心な通信」の価値は、長い人類の歴史を考えれば計り知れないものになるかもしれません。
そんな絶対安全な通信は、衛星ネットワークを利用してはじめてどこでも使えるようになる。
つまり量子通信実現への鍵は、宇宙にあるということです。
これからのテクノロジーの発展には「宇宙」は欠かせない要素と言ってよさそうですね。
ということで今回は、量子通信で絶対安全な通信が実現できるかも、というお話でした。
