『個人ランドリー』 #シロクマ文芸部
「洗濯機のお届けです」
ドラム式でも大容量でもないが結構いい。ワンルームの玄関脇にわずか5分で設置された新品の全自動洗濯機は、真っ白な輝きを放っていた。
新井クマ子はうれしかった。
「初めての私の洗濯機。私のためだけの洗濯機。この子は私の服だけを洗ってくれる。」
父の水虫の靴下も兄の強烈な汗臭のシャツも、忘れてしまいたいほど最悪だった。ウラ若きクマ子のブラと一緒にあの汚物を洗濯機へ突っ込んでいた母の悪行は、今思えば耐えがたい仕打ちだった。あのガサツさは何だったんだろう。
「私は違う」
夫の洗濯物と徹底抗戦する覚悟があった。まずは、夫の洗濯物だけ分けて別に洗濯することにした。それでも気になるから、次に漂白剤に夫の洗濯物を一晩漬け込んでから分けて洗濯してみた。たまに漬け込んだ洗濯物を手袋をはめた手で予洗いしてから洗濯機を回した。けれども同じ洗濯機を使うしかないのが悩みだった。仕方なく洗濯槽の洗浄もマメにやった。洗濯にこんなに時間かける令和の女がいるだろうか。クマ子は自分が面倒になったけれど、意地でも分け洗いを続けた。
ある日、クマ子は限界を知った。しつこい加齢臭が乾燥の後の浴室に充満していた・・・
「私の洗濯機を買わなければいけない」
アルバイトを増やし、部屋を探して近所に古いワンルームマンション借りた。そして3日目に、ネットで目星をつけたこの子を新居にお迎えしたのだ。一台の洗濯機と出会うための長い道のりに思いを馳せた。
試運転にバスタオルを洗ってみた。洗濯機は元気よくグワァ〜グワァ〜とモーター音を立てている。静かなほうとは言えないその音を聞きながら、クマ子はうたた寝してしまったらしい。
インターホンの音で目覚めた。妹のウサ美が立っていた。
「ふうん、まだ何もないんだ。それにしても、お姉ちゃんが別居とは思いきったね。」
「別居するなんて決めてないよ。外付けの私の部屋みたいなもの」
「住まないの?」
「行ったり来たりする。夜は自宅かなぁ」
「何それ」
「自分の洗濯機がほしかったんだ」
「はぁ?個室の専用コインランドリーってこと?贅沢すぎる〜」
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