【テレビ】NHKで「1970’s グラフィティー A to Z」がひっそり放送、掘り出し物
年度末3月25日の慌ただしい深夜、テレビをつけたら思わぬ「掘り出し物」に出会った。NHKでひっそりと放送された『1970’s グラフィティー A to Z』という、あの頃の空気感を閉じ込めたような1時間番組。ヒット曲と当時の貴重なアーカイブ映像が交差する、ノスタルジックで刺激的な時間旅行の記録を綴ってみよう。
1.時代を読み解く「A to Z」という贅沢なアーカイブ
番組の構成はタイトル通り、アルファベットのAからZまでの頭文字をキーワードに、1970年代の象徴的な出来事と楽曲をリンクさせていくものだ。90年代にフジテレビで放送されていた伝説的番組『19XX』や、NHKの名曲クリップ集『MUSIC BOX』を彷彿とさせる、ナレーションを排した硬派な作りが心地よい。ラインナップは以下の通り。
【Part1】
amazing…タイムトラベル(原田真二さん)→高層ビル建築
beautiful…魅せられて(ジュディ・オングさん)→ファッションの流行
cruel…神田川(かぐや姫)→オイルショックと狂乱物価
dreamy…夢で逢えたら(吉田美奈子さん)→晴海のモーターショーとスーパーカーブーム
educational…青春時代(森田公一(さん)とトップギャラン)→過熱する受験戦争
fast…戦争を知らない子供たち(ジローズ)→開店間もないコンビニエンスストア
gastronomic…およげ!たいやきくん(子門真人さん)→たいやきの行列に並ぶ人達など
hazardous…圭子の夢は夜ひらく(藤圭子さん)→よど号ハイジャック事件
innovative…銀河鉄道999(ゴダイゴ)→Walkmanの流行、自動車電話の出現など
joyful…セクシー・バス・ストップ(Dr.ドラゴン&オリエンタル・エクスプレス)→ディスコやスキー場のレジャーなど
kinetic…心の旅(チューリップ)→リュックサックを背負った若い旅行者(カニ族)
lost…また逢う日まで(尾崎紀世彦さん)→都電の廃止
magnificent…Blue Lagoon(高中正義さん)→成田空港開港、本州四国連絡橋の工事など
【Part2】
nostalgic…あの日に帰りたい(荒井由実さん)→最後の集団就職列車東京へ
opaque…時代(中島みゆきさん)→キューポラのある町の変わる風景
peaceful…ひとりじゃないの(天地真理さん)→日中国交正常化とパンダのランラン・カンカン
queasy…翼をください(赤い鳥)→大気汚染、公害
rapid…なごり雪(イルカさん)→新幹線が博多まで開業
sensational…タイムマシンにお願い(サディスティック・ミカ・バンド)→モナ・リザ日本公開
tense…傘がない(井上陽水さん)→あさま山荘事件など
unknown…夢前案内人(山口百恵さん)→海洋から引き揚げられた未確認生物
vivid…どうにもとまらない(山本リンダさん)→ミニスカートブームとウーマンリブ運動
worried…いちご白書をもう一度(バンバン)→物価高や雇用安定を求める争議
xenial…俺たちの旅(中村雅俊さん)→1970年の大阪万博
youthful…暑中お見舞い申し上げます(キャンディーズ)→海水浴が人気のレジャーに
zealous…TOKIO(沢田研二さん)→インベーダーブーム
まずはPart1のラインナップを振り返ってみよう。
冒頭の1曲目は原田真二の『タイムトラベル』だった。
“amazing”というキーワードで始まるこの曲は、まさにこれから始まる10年間への時間旅行を象徴する、これ以上ない幕開けである。
続くラインナップも実に巧妙だ。ジュディ・オング『魅せられて』に合わせて流れる当時のファッションの流行、かぐや姫『神田川』に重なるオイルショックと狂乱物価の映像。ガソリンスタンドに並ぶ車や、トイレットペーパーを奪い合う人々の姿を見ていると、昨今の情勢で石油価格が高騰している現状とどうしても重ね合わせてしまう。当時の「狂乱」に比べれば、今の状況はまだマシなのだろうか、それとも。
興味深いのは、固有名詞の扱いだ。森田公一とトップギャラン『青春時代』では過熱する受験戦争が描かれ、ジローズ『戦争を知らない子供たち』では、開店間もないコンビニエンスストアが登場する。字幕では「セブンイレブン」の名こそ出ないが、その独特の外観と看板を見れば、誰もが「第1号店だ」と気づくだろう。ゴダイゴ『銀河鉄道999』では、ウォークマンが「ヘッドホンステレオ」という一般名詞で紹介されていた。他にも、Dr.ドラゴンの『セクシー・バス・ストップ』で映し出されるスキー場のレジャー風景や、尾崎紀世彦『また逢う日まで』で綴られる都電廃止のノスタルジーなど、単なる音楽番組を超えた資料的価値がそこにはあった。
2.都会の歌声と集団就職、対比が描く「70年代の影」
Part2に突入すると、構成はさらに深みを増していく。特に印象的だったのは、荒井由実『あの日に帰りたい』から中島みゆき『時代』へと続くシークエンスだ。
“nostalgic”として紹介されたユーミンの都会的で洗練された歌声に乗せて流れるのは、最後の集団就職列車で東京へ降り立つ15歳の少年少女たちの姿だ。希望と不安が入り混じった彼らの表情のすぐ後に、『時代』が流れる。映像は“opaque(不透明)”というキーワードとともに、かつて『キューポラのある街』として栄えた工場の廃止と、変わりゆく街並みを映し出す。1970年代の光と影、ニューミュージックの二大女王を立て続けに出し、都市の華やかさと地方の哀愁を対比させる演出には、制作サイドの並々ならぬ「狙い」を感じざるを得なかった。
もちろん、70年代特有の「熱量」もしっかりと網羅されている。天地真理『ひとりじゃないの』での日中国交正常化とパンダブーム、サディスティック・ミカ・バンド『タイムマシンにお願い』でのモナ・リザ来日、そして山本リンダさん『どうどうにもとまらない』でのミニスカートとウーマンリブ運動。個人的には、女性のホットパンツやミニスカートが詳しく紹介された一方で、ベルボトムやサイケデリックな柄シャツといった男性ファッションの変遷があまり触れられなかったのは、少し残念ではあったが。
3.最後に放たれた「時代のアイコン」
この番組が面白いのは、いわゆるオリコン1位を獲得した曲ばかりを網羅するのではなく、山口百恵『夢先案内人』に未確認生物の映像をぶつけたり、高中正義の『Blue Lagoon』で成田空港開港や本州四国連絡橋の壮大な工事を見せたりと、中々マニアックな選曲と映像のリンクを楽しませてくれる点にある。
クライマックスに向かうにつれ、社会の不安を映すバンバン『いちご白書をもう一度』や、1970年の大阪万博を振り返る中村雅俊『俺たちの旅』を経て、最後を締めくくったのは沢田研二(ジュリー)の『TOKIO』だった。パラシュートを背負い、電飾を纏って歌うジュリーは、まさに70年代という激動の10年を総括し、次の80年代という「記号化された都市」の時代へと橋渡しをするアイコンそのものである。
全編を通して、ナレーションを排したミニマルな作りが、逆に映像と音楽のメッセージ性を際立たせていた。
これだけ充実した内容なら、ぜひとも「洋楽版」や「世界のニュース版」も見てみたい。ビートルズ解散からハードロックの台頭、パンクの衝撃といった音楽史と、ベトナム戦争の終結や東西冷戦といった世界の近現代史をA to Zで綴ってもらえれば、これほど優れた歴史教材はないだろう。
世界史と洋楽を愛するNHKのスタッフの方、ぜひ続編の検討をよろしくお願いします。
※本文中の団体や建物名等は敬称略です。
