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ゆめはるストーリーズ第7話 ジャックの宝物/スノードーム 3/3

第7話 ジャックの宝物~スノードーム~


── キング視点 ──


 ジャックの休憩室には、スノードームが置いてある。沈んだ海賊船、歌う人魚。船と人魚を囲むように泳いでいる、数匹の魚。ジャックは一日に何度か、その小さな世界に光を降らせた。それはまるで儀式のように見える。

「クイーンに聞いたぞ。お前には3つ宝物があると。名前、ペンダント……もう一つはそれか」
「うん、そうだよ」

 ジャックはスノードームを見つめたまま答えた。

「これは、母さんが最期にくれた……プレゼントなんだ」
「……そうだったな」

 ジャックの誕生日は、フルール様の命日。

「あの日、母さんは……僕に誕生日プレゼントを渡す前に死んだ。母さんの部屋で見つけた。本当はね、僕は自分の部屋に置いておきたいんだけれど。母さんがもし僕の部屋に用があって来たとして……このスノードームを見たら、つらいかもって思って」
「それはどうして」

 ジャックは俺の方を向いた。

「だって、思い出すでしょ。自分が死んだ日のこと……。僕なら、つらくてたまらないよ」

 彼の声は、今にも消え入りそうだった。




……
………
…………



 ジャックの誕生日の数か月前、フルール様は、息子へのプレゼントを必死に考えていた。

「シャルルがね、お母様のことが知りたい。それを見たい、って言うんだ。どうしたものかと考えて……世界を閉じ込めることにした」

 閉じ込める。
 その意味は、すぐにわかった。
 でもまさか、ご自身で製作されるとは思ってもみなかったけれど。
 フルール様は、人魚と人間との間に生まれた。海に入ると、人魚になれる。時折、海に還りたいと言っていたな……。懐かしい。

「誰も私を知らない、遠くの国へ行ってみたい。自分の出自を誰にも咎められず、自由に生きたい……」

 海賊船は当時、自由と希望の象徴だった。
 彼女の言葉に、俺は何も言えなかった。

「ああ、ごめん。今の生活が苦しいってわけじゃないんだ。シャルルがいて、シャンスや君がいる……。確かに自由はないけれど、希望はある」
「フルール様……」
「このスノードームには、僕の自由と希望を閉じ込めた。シャルルには、自由で希望に満ちた人生を歩んでほしい。母の想い、あの子に届くだろうか」

 彼女の微笑みは、とても優しい、母の顔だった。
 届くはずです。俺は、それだけを答えた。
 フルール様は、わかっていたのだ。そろそろ、自分を【誰かが殺しに来る】と。彼女は息子に託したのだ。自分の【希望】を。


――シャルルを頼んだ。


 彼女は最期、そう笑って逝った。




……
………
…………



「それはどうだろうな」
「え?」
「フルール様に聞いてみろ」

 ジャックは眉間に皺を寄せた。

「でも」
「お前の母ちゃんは、そんなに弱い女だろうか」
「……いや、」

 そんなことない、と首を振るジャック。彼はスノードームを手に、ありがとう!と、笑顔と仕事を残して颯爽と帰宅した。


―― ジャック視点 ――


 家に帰ると、母さんはソファで本を読んでいた。どんな内容なのかはわからない。ただ分厚くて、真っ黒い本。絶対に難しいやつだ。

「ただいま、母さん」
「お帰り、シャルル……。って、それ……」

 僕の持っているスノードームを見て、母さんは目を丸くした。

「僕の宝物……なんだ」

 僕の誕生日、母さんが死んだ日。手渡されることのなかった、プレゼント。

「持っていたのか。てっきり……捨てられたものかと」
「ずっと持ってた。でも……母さん、思い出しちゃうかなって……思って。ずっと、職場に置いてたんだ……母さんの目に入らないように」
「思い出す……?」

 母さんは首を傾げた。
 しばらく考え込んだ後、笑い始めた。
 彼女が笑っている理由が、僕にはわからない。でも、スノードームは【嫌な思い出】ではない、というのは理解できた。
 呼吸困難になるんじゃないかと心配になるくらい、笑う母さん。母さんがこんなに笑うなんて、初めて見た。いや、正確には……ペンダントの写真の次に、か。

「持っていてもいいの?」
「いいに決まってる。そのスノードームには、私の自由と希望を埋め込んだ。君に、託したかったもの。シャルルが持ってなきゃ、意味がない」

 母さんの温かい手が、僕の頭を撫でた。
 心の奥が、ギュッとなった。




……
………
…………



 母さんの料理は、どれも美味しい。一番美味しいのは僕の好物のカレーライス、って言いたいところなんだけれど。ハンバーグも、ホワイトシチューも、グラタンも、アクアパッツァも、ピザも、パスタも……一番を決めかねている。
 決めなくてもいいじゃないか、って?
 決めた方がよくない?誰かに聞かれるかも知れない。「お母さんの好きな料理は?」って。すぐに答えられないと、母さんに失礼だ。

「……誰に聞かれるんだか」

 母さんは、苦笑った。

「備えあれば憂いなし!大好きな人の、好きなところ言いたいじゃん!!!!」


――バァアアン!!!


 思わず、勢いで机を叩いてしまった。
 母さんは一瞬驚いた顔をして、眉を歪め、涙が頬を伝った。
 泣き笑い……?とは、違う。
 でも、悲しい……とも、違う。

「ごめん、違うんだ。シャルルが……あいつと同じこと言うから……」

 あいつ。
 父さんのことだ。

「母さん、僕が……母さんの笑顔、護る」
「なんだよもう~……」

 今度は、そう言って僕を思いっきり抱きしめた。
 こういう時は、照れ隠しだ。恥ずかしがり屋だから。

「成長したな~……。我が息子ぉ~……。泣かせるじゃないか……」

 僕を包む、柔らかい体温。母さんからは、金木犀の香りがした。

 僕の世界には、僕と母さんと、広大なカボチャ畑。
 小さな世界に閉じ込めるなら、
 母さんの笑顔と、彼女からの愛情……かな。

 ずっと職場にあったスノードームは、
 僕の寝室のベッドサイドが定位置になった。


ー 8月へ続く ー


7月のゆめはるストーリーズはいかがでしたか?

来月は
第8話 シエルの宝箱
8/26、27,28 に小説版を
8/29 の18時に朗読版を公開します!
※予定です※


お楽しみに!

皆様に良きフラワーライフを。


藤代真実

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