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ヤツと同居する家

 ヤツの事を話すと大概「またまたぁ、オカルト好きなんですかぁ?」
というリアクションをもらう。
世の中の森羅万象「全て科学で解明できる」というのが信条の私としては、はなはだ心外ではあるが、こればかりはなかなか証明できない。
しかし、間違いなくヤツは存在して、その事実は私の居なくなった後に住み始めた住民も同じ経験をしたということからも明らかだ。
ヤツと私が出会ったのは、おそらく一九八四年秋〜一九八六年の事だ。

2軒長屋(印刷用)

 当時私は沖縄県宜野湾市長田にある2軒長屋に住んでいた。
隣の部屋は低学年の時に同じ学生寮に住んでいた人物で、面識はあったが親しいわけでは無かった。
どちらが先に入居したのか記憶に無いが、時々顔を合わせると会釈し合う程度の仲だった。
私は当時、出家の旅から挫折して沖縄に舞い戻り傷心の中で暮らし始めたのだが、新しい仕事に就いてある程度ヤル気も出始めていた。
あの頃の若者にありがちな、ギターをかき鳴らしてフォークソングなど作って歌っていたのだが、そんなある日のこと。

当時の間取り

 寝室で寝ていると、居間の方から足音が聞こえる。
こんな貧乏な家に泥棒でもないだろうけど、好き勝手されては気分が悪い。とは言え、泥棒と鉢合わせして怪我でもしたら損だと思い、大きな声で「オイッ!」と言うと、足音がピタッと止まった。
こちらの様子をうかがっているような気配で、嫌だったのでさらに大きな声で「ここには大したもん無いだろう、出て行けよ」
けれど反応が無い。
「出ていかないとこっちから行くぞ!」
とは言うものの体は及び腰。
「今から行くぞ!」
わざと大きめに足音を立てて居間に行くと誰もいない。
窓もドアも内側からカギがかかっていた。
「あれ?」隣の音が自分の部屋と重なって聴こえたかな?
何か拍子抜けで寝室に戻ろうとしたその時。
足音が後ろからやって来て、私を追い越し、台所から壁を通り抜けて居間へ、居間から台所へ、ぐるぐる回りはじめた。
もう・・・こっちはパニック。
居間と台所を隔てる壁に背を付けながら立ちすくむ。
そのまわりを、動物園のクマが檻の中を移動するようなあんばいでぐるぐるぐるぐる回っている。
しかし、考えてみると、ただ歩き回っているばかりで、私に危害を加える気配は無い。
そうは言っても、気味が悪いのは間違いないので立ち尽くしているうちに夜が明けて、やがて足音は静かになった。
その後、幾晩か足音がする事があって、私は念のために隣人に聞いてみると、彼は十日ほど八重山に現地調査に行っていて留守だったそうだ。
彼が言うには「ここは屋根が低いから裏の道路から悪ガキが時々屋根に乗ってきたりする、それじゃないか?」との事だったが、はたして午前四時ごろに小学生の悪ガキが登って来るものだろうか?
いや、それより、確かに私のまわりをぐるぐる回っていたではないか・・・

 モヤモヤしたまま数日が過ぎ、ある日。
サバ缶と魚肉ソーセージをつまみに泡盛の水道水割りを飲みながら曲を作っていたらなんだかとても良い曲ができた。
今でもお気に入りの曲で、誰かに聞かせたくてしょうがない。
とは言え夜中にそんなことに付き合ってくれるやつもいないし、当時は携帯どころか学生が電話を持つことも無かったから連絡しようも無い。
何回か曲を奏でながら仕上がった嬉しさと泡盛の酔いも手伝って、勢いで「オイッ」呼んでみた。
すると・・・一拍おいて、トントントンと床をかかとでたたくような音がした。
これは、ヤツに違いない。
酔っぱらった勢いで「なぁ、いい曲ができたんだ、ここにきて聴いてくれよ。今から歌うから」
すると居間の窓際から足音がトントントントントン、と私の前にきて止まった。
わたしはなんだか嬉しくなって、ギターを鳴らして歌った。
歌い終わると、ヤツは床をトントントン、とたたく。
わたしは調子に乗って、以前作った他の自信作も披露すると、曲が終わる度にヤツはトントントン、と合図をくれた。
高揚と興奮とアルコールが混じって、その後の記憶は無い。

 眼が覚めたら、トイレでサバ缶臭いゲロと一緒に眠っていた。
夢だったのか、変な物でも飲んだのか?気にはなっていたが、だんだん仕事が忙しくなって、帰って来てはすぐ寝て、起きて仕事行ってを繰り返すうち、だんだんヤツの存在は薄れていった。
社長(といっても個人商店のオヤジだ)が「これから仕事が遅くなることが多いし、付き合いもふえてくるから近くに引っ越したらどうだ」と言うので、それまで通っていた宜野湾市から職場のある那覇市へ引っ越した。
わたしが引っ越すというので、当時同棲生活を送っていた友人が「ここなら二人でも十分だ」と即座に後釜に座った。同じ敷地内に大家の家があったので、挨拶だけで簡単に済んだ。
友人の引っ越しの手伝いを終えて、一応伝えておいた方が良いかもと思い「あのな・・・、この家な、なんか棲んでるヤツがいるみたいでな、歩き回ることがあるけど、気にしなくていいよ。悪いヤツじゃなさそうだから。」
伝えると「またまたぁ~」笑っていたが、数日後に訪ねると青い顔をして「なんで最初に言ってくれなかったんだ!」「そうよさこうくん酷いじゃない」なんて二人して責めるから「いや言ったでしょ。」
「冗談だとおもうだろ!」
「まぁ、ふつう信じないよな」笑うと睨まれた。
「いや、前にも言ったけど危害を加えるような悪いヤツじゃないから大丈夫だよ」
「ベッドの脇を通るんだぞ。」
「おまえら寮のオレの部屋でも平気でヤッてたじゃないか」
「恥ずかしい事言わないで」
そんなこんなでそれ以来ヤツには合っていないのだが・・・
懐かしくなってグーグルアースで見てみると、区画整理で跡形も無くなって、今では大きな道路が通っているあたりと思われる。
ヤツは友人たちが引っ越した後どうしたんだろうか。そしてあの家が取り壊されるとき泣いたのだろうか。

#なんのはなしです家

本田すのう編集長、よろしかったら、こちらを掲載いただけないでしょうか?
前回提出の分は引っ込めたいと思います。

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