毎週ショートショート「文学茶釜」
「こちらの品は、中国より伝わった“文学茶釜”。
これで淹れた茶を飲めば、文学的で深遠な語彙が噴き出しまする」
怪しげな骨董商にそう言われて、高名な大学教授・柏崎は茶釜を購入した。
今日も講義の前に茶をすすった柏崎は、学生たちに向けて大演説を行った。
「若者は腐敗している! 先人の文化的で高尚な香りを理解せず、凡庸な嗅覚で排除するとは。これは、文化的闘争だ!」
聴衆は息を呑んだ。
柏崎が言う「闘争」が、自身の体臭を理由に教え子のマサコから距離をおかれた個人的怨恨だ、と知る者はいない。
研究室で茶釜を洗っていたマサコは、底銘に凍りついた。
「えっ、"文学“しゃなくて、"文革"茶釜!?」
それは、私憤を糾弾の言葉に変換する危険な代物だった。
マサコは茶を淹れて一気に飲み干す。
その瞬間、胸の奥で何かが爆ぜた。
彼女は教場へ駆け込み、柏崎を押しのけた。
「柏崎先生の思想は、加齢臭という物質的事実を否認する“反省なき修正主義”です。批評の装いをした自己批判なき私怨の再生産に他なりません」
ざわめきとともに、全ての視線がマサコへと集中した。
その瞬間、新たな「紅の批評の旗手」が誕生した。
柏崎は顔を真っ赤にして、ただ立ち尽くすしかなかった。
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今週も、以下の企画に参加させていただきました。
よろしくお願いします。
