毎週ショートショート「雨乞い難民」
その年は、酷い水不足だった。
最初に雨乞いを始めたのは、佐伯という男だ。
動画配信の画面越しに、彼は真剣な顔で祈っていた。
「誰かがやらなきゃいけないと思って」
その姿は瞬く間に拡散された。
「勇者だ」「感動した」という声と、無数の「いいね」が集まる。
やがて本当に雨が降った。
偶然かもしれない。
だが、人々は佐伯を信じ熱狂した。
それから数年、干魃は訪れなかった。
佐伯は雨乞いをする必要がなくなり、
投稿につく「いいね」は三桁を越えなくなった。
SNSにはときどき、過去を懐かしむコメントが書き込まれる。
「あの頃は熱かった」
「もう一度、あの奇跡を見たい」
佐伯はコアなファンのコメントに対して、
自嘲気味に「#雨乞い難民」とつけて返信した。
やがて数年ぶりに、深刻な干魃がやってきた。
佐伯は、フォロワーに呼びかけて雨乞いライブを開始した。
以前より多くの視聴者が集まった。
佐伯が、祈りの言葉を熱く唱える。
だが、彼が気にしていたのは空模様ではなく、SNSのコメントと「いいね」の数だった。
祈りながら、佐伯は一瞬だけ空を見上げだ。
雨は当分、降りそうにない。
今週も以下の企画に参加させていただきました。
