第40回(2025)京都賞 先端技術部門を受賞した、甘利 俊一博士(数理工学者)による記念講演
第40回(2025)京都賞 先端技術部門を受賞した、甘利 俊一博士(数理工学者)による記念講演
こんにちは、makokonです。
甘利先生の講演動画が公開されていたので紹介します。
甘利俊一博士が語る「幸運なるわが人生」
甘利俊一博士の講演内容に基づき、学問的功績と社会的提言を客観的に構造化したものです。
京都賞記念講演:甘利俊一博士の「幸運なる人生」と数理的知性の探究
エグゼクティブ・サマリー
本資料は、数理工学および情報幾何学の世界的権威である甘利俊一博士による、70年に及ぶ研究生活の回顧と、人工知能(AI)が支配する未来社会への提言をまとめたものである。甘利氏は、自らの人生を「幸運」と称し、航空工学の廃止から生まれた「数理工学」という未開の分野で、自由な発想を武器に研究を続けてきた。
博士は、脳の仕組みを数理的に解明する「数理脳科学」や、統計学に革新をもたらした「情報幾何学」の創始など、数多くの金字塔を打ち立てた。しかし、現代のAI技術の急速な進展に対しては、深い懸念を表明している。AIが思考を代替することで人間から「思考する苦しみと喜び」を奪い、人類が「家畜化」されるリスクについて強い警鐘を鳴らしている。教育の役割を「希望を語ること」と定義し、苦難を乗り越えて働くことの中にこそ人間の幸福があると説いている。
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1. 数理工学への道:偶然と幸運の始まり
甘利博士の研究生活の根底には、幼少期から培われた数学への純粋な好奇心が存在する。
数学への情熱と「1本の鉛筆」
思考の原体験: 高校時代、東京大学の学園祭で提示された数学の問題(x^y = y^x を満たす有理数を探す問題)に数時間没頭し、帰宅後も考え続けて解いたことで、1本の鉛筆を手に入れた。この「自力で解を見出す喜び」が博士の原点となった。
「幸運」な進路選択: 東大進学時、当時の人気学科(物理や数学)に進むには成績が不足していたが、新設されたばかりの「数理工学コース」に滑り込むことができた。定員5名に対し志望者が少なく、点数が問われなかったことが、後の世界的権威を生むきっかけとなった。
数理工学の精神
航空工学からの転換: 戦後、航空工学の研究が禁止された際、軍事技術に代わる「数理的な目」で世の中を捉える学問として数理工学は創設された。
自由な研究環境: 既成の学問体系に縛られず、教官が学生に「わしの手助けはいらん、お前らも自分の学問をせよ」と突き放すほどの自由な気風が、独創的な研究を育む土壌となった。
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2. 理論の確立:機械学習と情報幾何学
博士の研究は、既存の枠組みを破壊し、新たな視点を導入することで進展してきた。
脳と機械学習への挑戦
温泉でのひらめき: 九州大学時代、九重山の麓にある温泉に浸かっている際、不完全だったパーセプトロン(神経回路モデル)の学習方法を改良する「確率的勾配降下法」のアイデアを閃いた。
天空の学問: 医学部の脳研究者から、自らの研究を「天空の学問(地に足がつかない抽象的な議論)」と揶揄されることもあったが、博士は「数理脳科学」という理論的アプローチの必要性を信じ続けた。
情報幾何学の創始
異分野の融合: 制御理論の解析学、情報理論の確率論に対し、欠落していた「幾何学(幾何的な構造)」を情報分野に導入することを決意した。
停滞期の覚悟: 新しい理論を構築するため、1年半から2年の間、一切の論文を書かずに沈思黙考した。この「論文を書かなくても許された自由な時代」が、後に統計学の大家デヴィッド・コックスに絶賛される「情報幾何学」の誕生を支えた。
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3. 国際舞台とAIブームの変遷
博士は、日本のバブル期以前から世界と渡り合い、日本のAI研究を牽引した。
英語より内容: 1970年頃、家族を連れて渡米。当初は英語が全く理解できず苦労したが、「学者同士の対話に必要なのは語学力ではなく研究の内容である」という度胸を身につけた。
日本の独自性: アメリカでAI研究が「冬の時代」を迎え、予算がカットされていた頃、日本には元々予算がなかったためにカットされることもなく、医学部と工学部の連携によって自由な研究が継続された。これが、後の第二次ニューロブームにおける日本の優位性につながった。
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4. 現代社会への警鐘:人類の「家畜化」とAIの危うさ
講演の終盤、博士は現代のAIブームに対し、極めて鋭い批判的考察を展開している。
思考の放棄と民主主義の危機
利便性の罠: AIは文章作成や翻訳において驚異的な能力を発揮するが、それに頼りすぎることは、人間から「思考する楽しみ」と「思考する苦しみ」を奪う行為である。
人類の家畜化: 自ら考えることを止めた人類は、知らぬ間にAIに管理され、思考力を減退させる「家畜」のような存在に成り下がるリスクがある。
ポピュリズムの温床: 思考力が低下した社会にはポピュリズムが入り込みやすく、現代文明の根幹である自由、平等、民主主義が脅かされ、独裁者の出現を許す可能性がある。
AIの負の側面
軍事と格差: AIは自律型殺人兵器などの軍事利用や、国家間の派遣争い、一部の資本家による富の独占の道具として使われており、社会の格差を拡大させている。
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5. 結論:これからの教育と人間の幸福
博士は、AI時代における教育の在り方と、人間の本質について強いメッセージを残している。
教育の本質的役割
知識を超えて: 知識はAIから得られる時代だからこそ、教育の場(大学、中学、小学校)は「先生の生き様を学ぶ場」や「異なる意見を持つ仲間と議論し、相手を尊重することを学ぶ場」へと変貌しなければならない。
ルイ・アラゴンの言葉: 「教えるとは共に希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」という言葉を引き、教育の本質を定義した。
真の幸福とは
「働くこと」の再定義: AIが生産を担い、人間が遊んで暮らす世界は「幸福な楽園」ではない。人間は本質的に「働くこと」を好む存在である。
苦しみの先の喜び: プロの専門家としてだけでなく、アマチュアとして農業や芸術に携わる「働く楽しみ」を持つこと。苦しみを乗り越えて成果を得るプロセスこそが、人間が持つべき真の幸福である。
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