見出し画像

ほんわか台風 #毎週ショートショートnote

 台風はいずれ『消滅する』というが、これは正確ではない
 厳密には、台風は風鈴草(カンパニュラ)に姿を変え、花として命を終える

 台風5号は平凡な台風として赤道付近で生まれ、本州を北上し、秋田付近で淡青の風鈴草となった
 そこは草木が多い田舎の一本道で、のどかな光がさしていた
 台風5号は、ほんわかした空気を気に入り、荒々しい台風であったことを忘れ、のんびりと余生をおくっていた

 しかしある日――
 ちいさな女の子が目の前を通りすぎた寸刻後にのっそりと熊が現れた
 その熊が女の子を狙っているのは明らかであった
 思想のない台風5号に世の理や人の生死などどうでもいいことだ
 だが、惨劇は見るに忍びない
 5号は力をすべて使い、風を起こした 
 全盛期の半分以下、つむじ風程度の威力しかなかったが、熊を退散させるには十分であった

 力を使い果たした5号は静かにその花弁を散らした

 5号のいない世界に、5号の愛したほんわかした風景が広がっている――

(412文字)

◆◇田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しました◇◆


いいなと思ったら応援しよう!