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万病の元と言われる「脳疲労」を50日間ケアしてみた

夏至あたりから、わりと真剣にやっていたことがある。脳疲労の回復だ。
きっかけはオンラインイベントでの、脳科学者の毛内拡先生との対談だった。例によって例のごとく緊張芸人としてのポテンシャルを最大限に発揮していた私をご覧になって、毛内先生は破顔してこうおっしゃった。
「脳って特別視されていますけど、ただの臓器ですから!緊張だって臓器の反応に過ぎませんから、リラックスしていきましょう」

た だ の 臓 器 !

インパクト大のパワーワードに思わず笑って緊張がほぐれ……はしなかったのだが(ご厚意が台無しである)、臓器としての脳というものを考えるきっかけになった。そして胃腸や肝臓をいたわるように、脳もまた疲労を適切にケアすることが必要であると思い知ったのだ。
ちなみに毛内先生はいつも「心は存在しない」とおっしゃっている。心理学部出身としては「Oh」と思ってしまうのだが、『心は存在しない』(SBクリエイティブ)を読んでなるほどと思った次第である。

毛内先生のご本『脳と免疫の謎』(NHK出版新書)によれば、慢性的な脳疲労は万病の元であるそうだ。仕事を頑張りすぎたり、人間関係でおかしな人に辟易させられたり、といった「精神疲労」ばかりが脳を疲れさせるわけではない。ダイエットをして食欲を我慢し続ける、鉄の意志で禁煙をする、絶えずスマホに通知が来る……こういったことも、常に脳をフル回転させて「自然消耗」に至るというのだ。どえらいことである。喫煙はしないが、その他すべて思い当たるふしがある。

私の脳は疲労困憊なのかもしれない……!

対談で毛内先生から伺ったお話によれば、脳疲労の回復に効くのは下記の3つであるそうだ。

①ワクワクすることをする
②新しくて面白い体験をする
③誰かのために行動する

①と②は脳のグリア細胞のうち、アストロサイトが活性化されることで脳疲労改善につながるという。アストロサイトはホロスコープ上で惑星がどのエリアに散らばっているかを見るもので──というのは真っ赤な嘘で、星の形をした細胞だ。これを最適化することで栄養供給や老廃物除去が行われ、脳疲労が解消されるそうだ。

③は利他的な行動を取ることによって、オキシトシンが分泌されることがカギとなる。オキシトシンとは、いわゆる「幸福ホルモン」と呼ばれるもの。幸福感や安心感を高めてくれる。過去、ともに成功体験をした人と夢を語れば、神経伝達物質のドーパミンが分泌されやる気が高まるともいう。

①と②で脳を整え、③でアゲていく。
果たして脳疲労を回復できるのか!?

50日間やってみた所感をまとめてみる。

①ワクワクすることをする
私がもっともワクワクすること、それは「物語に触れること」である。子ども時代から一貫して、ワクワクし続けてきた。普段はつい仕事関連の専門書ばかりになりがちなところを、「目的意識から離れる」という意味で小説を山ほど読んだ。正確にいえばオーディブルで「聴いた」のだが、日課としている運動中、移動中、料理中などとにかくよく聴いていた。

もとより文学はなんでも好きである。純文学に古典、詩歌などもいいが、脳疲労回復のためと考えて、大衆文学のうちストーリーに謎やアップダウン、「どういうこと!?」が多そうなものをを積極的に選んでいった。『お梅は呪いたい』『復讐は合法的に』『マカン・マラン』『あなたの人生、片付けます』『ランチ酒』『先祖探偵』『ランチのアッコちゃん』シリーズ、『侠飯』シリーズなど1日1冊ペースで聴いていたら逆に脳が疲れた気がしたので(愚かである)ときどき音楽に切り替えた。「大豆田とわ子と三人の元夫」「MIU404」「アンナチュラル」など大好きなドラマの主題歌でワクワクを喚起するようにした。ちなみに『ちいかわ』既刊8巻、panpanyaさんの全作品も再読した(暇なのか)。人類学の本も少し。

どの本も面白くて、本当に出会えてよかった!
脳疲労の回復を促すには「感情移入する」ことも大事なのだとか。特に胸がふるえるような感動を覚えたのはこの2冊かな……

伊吹有喜『彼方の友へ』(実業之日本社)
戦前、戦中、戦後に少女向け雑誌『乙女の友』を作り続けた編集者たちの物語が当時と現代を行き来するかたちで展開されていく。始めのほうでは主人公が自転車で人気作家をかっさらったり、セクハラ画家を撃退したりと痛快な場面も多いものの、ひとりふたりと招集され始め世の中を覆う影はだんだんと濃くなっていく。編集者たちも決して一丸となっていたわけでもなく、若い女性である主人公へのやっかみや嫌がらせもあった。それでも「全国の友たちへ、最上のものを」と繰り返し語られる情熱は、物書きとして共感する部分ばかりだった。中原純一を表紙に起用した「少女の友」は実業之日本社さんだったな……この哲学が「マイバースデイ」に受け継がれたのだな……などと思いながら物語を追いかけた。後半はずっと涙が止まらなかった。東京大空襲で灰燼に帰した東京のうえで今、ものを書いて生きている。平和への思いを新たにした。

町田そのこ『宙ごはん』(小学館)
大事なことはいつも隠されていて、子どもであるがゆえにままならないことも多くて、でも人生はやっていかなくちゃいけなくて、ごはんを食べて生きていく。いびつな守られ方のなか成長していく主人公のひたむきさ、そのまわりにいる人たちのそれぞれにまっすぐな思いの数々。人間の数だけ「真実」はあるのだと、改めて感じる。

うんとワクワクすることで、発想力が豊かになった気がする。やる気も出た!

②新しくて面白い体験をする
毛内先生のご本『健康脳活』によれば──この本の読書体験そのものが②の実践につながる構成である──これは何も、特別にすごいことばかりでなくとも良いようだ。
「初めて行く居酒屋で『いつもの』と言ってみる」「竪穴式住居に住む」なんてことを選ばなくても、「行ったことのない街を散策する」「利き手と逆の手で生活する」といったことでOKとのこと。

6月から7月は新たなプロジェクトが動き始めるなどなかなか身動きのできない日々だったが、それでも打ち合わせで外出したときは2〜3駅、知らないエリアを散策するようにした。料理では新しいレシピをどんどん試し、電気圧力鍋の使ったことのない機能を使ったりもした。料理は好きなのでとっても楽しい。

目新しいことをすれば何かしら発見はあるもので、ルーティンで毎日を回しているときのような「ぼんやりとした疲れ」がなくなってよかった。しかし猛暑のなか彷徨っていたら倒れそうになった笑

③誰かのために行動する
書き連ねれば品がないし「あれは脳疲労回復のためだったのかwww」と相手にバレるのも気まずいので詳細は列挙するのはやめておく。ただ、ちょっとした親切をどんどんしたり、「何をすれば相手は嬉しいだろう」「どうすれば相手の助けになれるだろう」などと考えながら行動するのはほんとうに心が平らかになる良い時間だった。
こうしたものは、感謝や笑顔、金品など見返りを求めるとろくなことにならない。しかし「我がオキシトシンよ!湯水のごとく湧け!!」などと思って動けば自分のなかで行動と報酬のサイクルを回していける。相手から感謝されたときなどは「脳疲労を回復できたのに、お礼まで!?!?!?!?良いのですか!?!?!?」と驚いてしまったくらいである。我ながらチョロすぎるのだが、本当にそういう気分になった。これが……オキシトシンの力!?

というわけで夏至以降、約50日ほどを脳疲労回復を意識して過ごしてみた。オーディブルを活用しすぎた疲労を差し引くとプラマイゼロな気もするが、この新たなチャレンジもまたきっと、脳に良い影響をもたらしたのではないかと思っている。


本書は毛内拡先生のお話をベースに、毛内先生のご著書も参考に書いた。なかでも、脳科学にあまり馴染みがなくてもわかりやすい本をご紹介する。

『健康脳活』(池田書店)
本というプロダクトそのものが①と②を実践できるようになっている非常にユニークな作りの本。電子もあるけれど、おすすめするのは断然紙の本。この本のポテンシャルをフルに味わうことができるはず。

『自分をつくる脳のしくみ』(オレンジページ)
4コマ漫画+文章で、脳のしくみを解説しながら才能や感情、やる気を生み出すヒントを書いた本。「やる気が出ない」「感情に振り回される」といったことを感じたときに根性や性格のせいと自分を責めず、「臓器の状態」ととらえてみることを勧めてくれる。4コマ漫画キャラクターの名前が「脳くん」とそのものズバリすぎるところも個人的に大好きである。



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