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【小説・ヴィーナス症候群】(672)炎上系の女性議員

アトリエHARUKAのスタジオは、その日だけ少し空気が違っていた。
ジューンブライド向けの合同展示会。白や生成りのドレスが壁一面に並び、光の反射まで計算されたような静けさがある。

生まれつき両腕のない「ヴィーナス児」に多い職業として、アパレルの着用モデル――いわゆる「トルソーさん」という仕事がある。Feliceはその代表格で、今日も専属の三人が呼ばれていた。

「何か緊張するよね〜」

檜皮谷奈緒が小さく言う。
武隈莉子と夜久野由美も頷いた。

控え室にはHARUKAのモデルやスタッフが行き来している。鏡の前ではメイクが進み、ハンガーラックには色とりどりのドレスが整然と並ぶ。
他社のトルソーがいれば自然と挨拶を交わすところだが、今日はFeliceだけだった。

三人はすでに義手を外し、スタンバイモードに入っている。

壁掛けのテレビから、ニュースの音声が流れる。

「——“福祉を受ける側は悔しさを感じるべき”と発言し、波紋が広がっています——」

莉子が顔を上げる。
「え?誰?」

由美がスマホを見ながら答える。
「河田祥子だって。”マーガレットさっちゃん”とか呼ばれてるみたい」

奈緒が「ああ」と思い出したように言う。
「聞いたことある。確か四国。改革新党」

莉子が少し考えてから、わざとらしく肩をすくめる。
「じゃ何?私たち義手つけるたびに『キーッ!悔しい〜!』とか思えばいいわけ?」

由美が即座に返す。
「腕ないせいで悔しい思いなんて、いくらでもしてるっての」

奈緒がふと笑う。
「あ、思い出した!トルコミで書いてた人!なんか土浦のサイボーグセンター見に来たんだって。で、“サイボーグは戦争に使え”とか、“傷痍軍人記念館なんか無くせ”とか」(661

莉子が目を丸くする。
「無茶苦茶やん」

由美が肩をすくめる。
「炎上系なのかな。YouTuberみたいな」

そのとき、控え室のドアが開く。
「Feliceさん〜 本番よろしくお願いしま〜す」

三人は同時に顔を上げる。

「は〜い」

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