【小説・ヴィーナス症候群】[540]かわいいライトを買ったよ〜
生まれつき両腕のないヴィーナス児に多い職業のひとつに、アパレル産業で服を着用するモデル、いわゆる「トルソーさん」がある。
ダンスウェアブランド・Confeitoで「トルソーさん」として働く高野美恵も、その一人だった。
昼はConfeitoのアトリエでレオタードやトップスを着せ替えられ、撮影やフィッティングに立ち続ける。
一方で美恵には別の夢があった。
将来はダンサーとして身を立てたい。
そのために、夜になると自分のアパートでスマホを立て、TikTokにダンス動画を投稿していた。
だが現実は厳しい。再生数は伸びず、「いいね」もほとんど付かない。
画面を閉じるたびに、胸の奥に小さなため息が溜まっていった。
そんな美恵が最近買ったのが、イチゴの形をしたルームライトだった。
都内にある栃木県のアンテナショップで、スタンプカードがある程度以上に達した人だけが手に入れられる限定品だ。
美恵はその店に行くたび、とちおとめのいちごオレを何本も買っていたので(第352話)、条件は自然と満たしていた。
ライトが届いた日、ローテーブルの上で赤くやさしく光るイチゴを見て、美恵は思わず笑った。
これ、かわいい。ダンス動画を撮る前に、何気なくスマホを手に取る。
「かわいいライトを買ったよ〜」
そう一言添えて、イチゴのライトを映した短い動画をTikTokにアップした。
その結果は予想外だった。
通知が次々と鳴り、これまでにない数の「いいね」が付いていく。
「かわいい〜!」「私も栃木だけど欲しかった〜」「そのライトどこで買ったの?」
コメント欄は見知らぬ人の声で埋まっていった。
美恵はスマホを見つめたまま、少し困ったように笑った。
「何だっぺ。ダンスよりも、ライトがそんなにいいのか」
イチゴの形の明かりは、静かな部屋で変わらずやさしく光り続けていた。

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