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【小説・ヴィーナス症候群】(703)ストーカーや性犯罪者にはGPSを付けろ!

白ホリの端で、戸頭紬は立っている。
フリーの「トルソーさん」である紬は、この日、ガーリー系ブランドclematis & nestの撮影に呼ばれていた。

だが、視線は、スタジオの隅のテレビの国会中継に集まっていた。

「次に、神園委員」

──衆議院法務委員会。

「……法務大臣」

神園ましろが立つ。

スタッフの一人がぼそっと言う。
「この人、関西のタレント出身の人でしょ」
「そうそう。大阪で強いあの党の」
「改革新党だっけ」

誰も詳しくはないが、だいたいの輪郭は知っている。
“テレビでよく見た人が、そのまま国会にいる”
その程度の認識。

画面の中の神園は、少し静かに入り込む。
「この前のストーカー殺人事件、被害者の方……めちゃくちゃ怖かったと思うんですよ」

議場が少し静まる。

「警察に何回も相談してたんでしょ?それでも止められへんかった。……なんでですか?」

最初は、問いだった。
法務大臣は通常の調子で答弁に入る。

「委員ご指摘の事件につきましては、現在詳細を精査中でございますが、関係機関が連携し、現行法に基づき対応していたと承知しております」

「でも止まってないやん。人、亡くなってますねんで? それで、“適切”なんですか?」

空気が少し張る。

「個別の対応については、今後検証が必要でございますが──」

「ほな、どうしたら止められるんですか?性犯罪者にはGPSでもつけたらええんちゃいます?なんでできひんの!」

議場がざわつく。
法務大臣が一瞬だけ間を取る。

そして、表情がわずかに変わる。
――この人は、そこを理解していない

トーンを落とす。
「……神園委員、少し順番にご説明します」

紙から目を上げる。
「まず、“刑罰を終えた人”は、法律上は一般の国民と同じ扱いに戻ります」

「いやでも危ないやん!」
「はい。そのお気持ちは理解できます」

一拍。

「ただし、“危ないかもしれないから監視する”ということを全員にやると、それは“もう一度罰を与える”ことになります」
「……え?」

大臣はさらに砕く。
「刑務所を出た人に対して、“ずっと監視します”“どこにいるか全部把握します”というのは、自由をもう一度制限することになります。つまり、“刑罰が終わっていない状態”になります」

「……それがあかんの?」
「原則としては、“あかん“のです」

議場が静まる。

「これを認めてしまうと、“疑わしい人はずっと監視していい”という社会になります」

神園は一瞬黙るが、すぐに食い下がる。
「そやけど、韓国とかやってますやん!」

ここで大臣は完全に説明モードに入る。
「はい。やっている国もあります」

指を折る。
「ただし、“全員”ではありません。“特に危険と判断された人だけ”です。そして期間も限定されています。また、裁判所の判断が入ります。つまり、“危ないから全員につける”ではなく、“この人は危険だから、この条件で、この期間だけ”という制度です」

神園が少し考える。
「……ほな、日本でもできるんとちゃいますの?」
「その形であれば検討は可能です。ただし、①誰を対象にするのか②誰が危険と判断するのか③どのくらいの期間にするのか④誤りがあった場合にどうするのか。これを全て決めないと、制度にはなりません」

神園が息を吐く。
勢いが少し落ちる。

「……でも」

ぽつりと出る。
「それ考えてる間に、また起きますやん」

最初と同じ言葉。
大臣は、すぐには返さない。

「ですから、現行制度でできることを最大限行いながら、必要な制度については、憲法との関係を整理して検討していくことになります」

神園は黙る。
納得はしていない。
だが、最初の“なんでできひんの!”ではない。

テレビの前で、スタッフが言う。

「すごいおばさんだよね」
「でも大阪じゃめっちゃ人気あるんでしょ、あの人」
「まあ……言ってることは分かるしね」

紬は、そのまま立っている。

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