見出し画像

【小説・ヴィーナス症候群】(515)振袖を量産する元旦

元旦の朝。
赤坂にあるドレスブランドFeliceの本社は、まだ外が白みきらない時間から灯りが入っていた。

トルソーの三人――莉子、奈緒、由美は、揃って「出勤」している。
仕事始めというより、年が変わったことの確認に近い。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
莉子は、少し寝ぼけた目のまま頭を下げた。

「はいはい、あけましておめでとう〜!」

着付け師の藤原は、すでにエンジンがかかっている。

「さあ、どんどん作業してくわよ!」

「……こんなに早起きしないとダメですか?」

莉子が小さく文句を言うと、藤原は即座に返した。

「朝のうちにやっとかないと、赤坂氷川神社混むわよ」

それで納得してしまうのが、この会社だった。

藤原は、三人のトルソーに流れ作業のように着付けを進めていく。
肩の義手を外し、肌着を整え、振袖を掛け、襟を決め、帯を締める。
一切の迷いがない。

「おお……」

由美が、自分の姿を見て声を上げた。

「振袖姿が量産されてく」

「そりゃそうよ」

藤原は帯を締めながら、さらっと言う。

「私たち、ブライダル産業よ」

三人並ぶと、赤、緑、生成りの振袖がきれいに揃った。
派手なのに、騒がしくない。
着せられることに慣れた身体が、そのまま形になっている。

仕上がったところで、カメラマンが呼ばれる。

「はい、じゃあここで一枚撮ろうか。こっち向いて〜」

シャッター音が、まだ静かなアトリエに響いた。

そのまま三人は、振袖姿で外へ出る。
目的地は、会社からほど近い赤坂氷川神社だ。

出発前、誰かがふと思い出したように聞いた。

「藤原先生、正月明けはまた温泉ですか?」

「そうねえ」

藤原は手を止めずに答える。

「花巻の大沢温泉にでも、湯治に行こうかしら」

「大沢温泉!」

奈緒が声を弾ませる。

「宮沢賢治も行った所ですよね」

「あら、詳しいじゃない」

藤原は少しだけ笑った。

そうして、元旦の朝は動き出す。
仕事と私事の境目が曖昧なまま、
Feliceの新しい一年が、静かに始まった。

#AI小説 #小説 #ヴィーナス児 #ヴィーナス症候群 #近未来小説
#武隈莉子 #檜皮谷奈緒 #夜久野由美

いいなと思ったら応援しよう!