【小説・ヴィーナス症候群】[531]雪だるま
雪だるまがこんな大都会の真ん中で作れるなんて、熊本にいた頃は思ってもいなかった。
両腕のない子ども――この世界では「ヴィーナス児」と呼ばれる――が一万人に一人の割合で生まれてくることは、もはや珍しい話ではない。アパレル業界では、そうした身体的特徴を活かして服を引き立てる仕事があり、着用モデル、通称「トルソーさん」という職業もすっかり定着している。
ドレスブランド・Feliceで「トルソーさん」を務める武隈莉子の今回の仕事は、札幌のデパートで行われるブライダルフェアだった。
空港からホテルに荷物を置き、そのまま会場へ向かう途中、大通公園を横切る。
公園では、子どもたちがしゃがみ込み、手袋越しに雪を丸めている。大きな玉、小さな玉、それを重ねて、目をつけて――立派な雪だるまができあがっていく。
それを見ていると、莉子のテンションも自然と上がった。
〽️僕らは呼ぶ〜 あふれる胸に〜 あの星たちの間に〜
気づけば、鼻歌がこぼれている。冷たい空気が肺に入るたび、身体の奥が妙にすっきりしていく。
デパートの裏口から中に入った瞬間、空気が変わった。
暖かい、というより、これはもう暑い。
エレベーターで催事場フロアの事務室に上がると、スタッフが机の周りでアイスを食べていた。
「あ、武隈さん、飛行機遅れませんでした?」
「おかげさまで、どうにか」
北海道じゃ、暖房をガンガン焚いてTシャツでアイスを食べてるって噂――本当だったんだ、と莉子は内心で思う。
控室でコートを脱ぎ、用意されたドレスに着替える。肩に固定していた義手を外し、静かに所定の位置に置く。
そして何事もなかったかのように、売り場へ出る。
外では雪だるま。
中では、真っ白なドレス。
どちらも、この街の冬の風景なのだと、莉子は背筋を伸ばして立った。

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