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ヒーロー、縁の下の妻

会社では“気が利く部長”と言われる。
でも、家の中では大事なことに気づけていなかった。

俺は会社で部長をしている。
部下の相談に乗り、トラブルに先回りし、段取りを組む。

そんな毎日だ。

家に帰れば、妻と二人の息子、
そして愛犬がいる。
正直、家でもそれなりにやっているつもりだった。

ゴミ出しはする。
頼まれれば買い物にも行く。
犬の散歩だって、気が向けば行く。

だから妻が「家事は大変」と言っても、
どこかで思っていた。

『そこまでか?』『仕事の方が大変だろ』と。

妻は週三回のパート。
俺はフルタイム勤務。
自然と、家のことは妻が回す形になっていた。
息子たちも、それを当たり前だと思っている。

夕食が出てくる。
風呂が沸いている。
洗濯が乾いている。
風呂に入れば新しいタオルがある。
トイレットペーパーは補充されている。

それが、我が家の普通だった。


ある日、妻が熱を出して寝込んだ。

会社から帰った俺に
「ごめん、今日は無理」とだけ言い、
寝室に戻っていった。

その瞬間、家の時間が止まった。

まず、夕食がない。

「ご飯まだ〜?」と息子たち。
とりあえず冷蔵庫を開けたが、
何から手をつければいいのか分からない。

ラーメン?パスタ?
どこにあるんだ。

長男が言う。「パパ、体操服、明日も使う」
次男が言う。「給食袋どこ?」

ちょっと待て。
パパは今、ご飯をどうするか考えてるんだ。
一度にそんなに言われても無理だ。

インスタントラーメンを見つけて、夕食は決定。
鍋に水を張り、お湯を沸かし始めた。


洗濯機の前で、俺は固まった。

洗剤はどれだ。柔軟剤は?
入れる場所は?
コースって何だ?

とにかく体操服を入れてボタンを押したが、
洗濯機は動かない。
電源は入っているのに動かない。

「壊れてるのか……?」

お湯が気になったので、
ひとまず洗濯機のふたを閉めた。

ガコン、ガラン。
突然、洗濯機が動き始めた。

なんで動くんだよ。

急いでキッチンに戻る。
麺を入れ、どんぶりを探し、
もやしを入れるか迷い、
先に、ゆで卵を作るべきだったかと後悔する。

足元では犬が散歩の時間だと訴えるように鳴いている。


そこで、ようやく気づいた。


妻は『家事』をしていたんじゃない。
家族全員が困らないように、
毎日すべてを管理していたんだ。

誰の予定も、足りないものも、必要な段取りも。
問題が起きないように、先回りして動いていた。

俺が会社でやっていることを、
妻は家で、毎日、無言でやっていた。
しかも、誰にも評価されずに。


寝室をのぞくと、妻が申し訳なさそうに言った。

「ごめんね」

その瞬間、胸の奥がズキッとした。

違うだろ、、、、、。

謝るのは、、、
今まで全部を当たり前みたいに任せていた
俺たちの方だ。


次の日から、俺はゴミ出しと犬の散歩を積極的にやるようにした。

長男には洗濯物を畳ませ、
次男には麦茶作りを任せたりした。

家族で役割分担を決めた。

最初は全部ぐちゃぐちゃだった。

洗濯物はシワだらけ。
麦茶は薄い。
洗面所のゴミを出し忘れる。

それでも、妻が座っている時間が増えた。

それだけで、家の空気が少し変わった。

ある夜、妻がぽつりと言った。

「誰かが気づいて、手を貸してくれるだけで、全然違うね」

たぶん、俺はずっと勘違いしていた。
家事って、料理や洗濯のことだと。

でも、家事の本質は、
家族が普通に暮らせるように、
なんてことない日常を繰り返せるように、
見えないところを支え続ける仕事だったんだ。

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