見出し画像

「受験日、確保するダモ」



冬の夕方は、部屋の端っこから先に冷える。
窓のガラスがうっすら白くなって、こたつの赤だけが世界の中心みたいに光ってた。

風香はテーブルで手帳を開いて、実習の予定に小さく丸をつけている。
オイラはその横で、ノートの端を前足で押さえながら、ペン先をじっと見つめた。
紙の匂いと、湯気の残り香。
胸の奥で、いつもの“強がり”が小さく鳴く。

……今、言うダモ。

「風香」
「なに?」
「この日と、この日……空いてるダモ?」
オイラは平然ぶった。ほんとは喉がちょっと乾いてるのに。

風香は目を細めて、手帳をめくる。
「えーっと……うん、空いてるよ。どしたの?」
その声が、妙にやわらかくて、オイラは反射でツンを立てた。

「べ、別に大したことじゃないダモ」
「大したことじゃなかったら、日付を二つも聞かないよ」
「うるさいダモ」

こたつの布団が、ふわ、と揺れた。
オイラは一呼吸だけ置いて、言葉を落とす。

「……FP3級の試験、受けに行くダモ」

風香のペンが、ぴたりと止まった。
一秒。
それから、ふっと笑う。

「え、もう決めたの?」
「決めたダモ」
「受かる自信ついた?」
その質問が、針みたいに小さく刺さる。
でも痛いってことは、ちゃんと“本気”ってことだ。

オイラは胸の奥の不安を、ツンで踏む。
「うん!大丈夫ダモ!」
声がちょっと大きくなった。あわてて小さくする。
「……オイラ、やってきたダモ。覚えるとこも、間違えたとこも。だから大丈夫ダモ」

風香はマグを両手で包んで、うんうんと頷いた。
その目は、からかったりしない。
“信じる側の目”だ。

「じゃあさ」
風香は、スマホを取り出して画面を明るくした。
「私が申し込んで、試験会場まで連れてって、ダーモが答える作戦でいいね?」
言い方が軽いのに、内容はちゃんと強い。
“作戦”って言葉は、オイラの心臓を少しだけ楽にする。

「うん!それでいくダモ!」
即答した。
だって、その作戦は——オイラが人に触れられないぶん、風香が“手”になってくれるってことだ。
オイラは“頭”で返す。
二人で一つ。
それなら、勝てる気がするダモ。

風香はスケジュールを見比べて、画面をタップする。
「じゃ、こっちの日にしよ。午前の枠。早めに行って、近くでお茶飲も」
「お茶って……べ、別に余裕ぶってるわけじゃないダモ」
「余裕じゃなくて、落ち着くため」
「……そういうの、ずるいダモ」

申し込み完了の画面が出た。
風香がスマホを少し傾けて見せる。
“受付完了”。
その文字が、こたつの赤に照らされて、金色っぽく見えた。

オイラはノートを開いて、ペンを走らせる。
『試験日:◯月◯日(午前)』
『作戦:風香が連れてく→ダーモが答える』
『前日:持ち物チェック/当日:深呼吸3回』

書いてるうちに、胸の奥の灰色が、ちゃんと形になっていく。
形になると、怖さは“対処できるもの”に変わる。
それを、オイラは知っている。

風香が言った。
「ねえ、ダーモ。いい顔してる」
「してないダモ」
「してる」
「……してないダモ」

否定しながら、しっぽが勝手にピンと立つ。
くやしい。
でも、嬉しい。

こたつの布団が擦れて、部屋の音が戻ってくる。
オイラは小さく息を吐いた。

「……試験日、決めたダモ」
言ったら、逃げ道が消えた。
でも、軽くなった。
いつものやつだ。

風香は笑って、親指を立てる。
「よし。じゃあ一緒に勝ちに行こ」
「べ、別に勝ちに行くとか…言わなくても分かってるダモ」
そう返しながら、オイラはノートの端に書き足した。

『決めた日付は、味方ダモ。』

日付を決めるのは、こわい。
でも、決めた日付があると、今日の15分が“向かう先”を持つ。
霊猫でも、できることはある。
オイラは前足でペンを押さえて、こたつの赤の中で、もう一度しっぽをピンと立てた。

「うん。……それでいくダモ」



「最後まで読んでくれてありがとダモ🐾 ハートボタン押してくれたら、オイラすっごく嬉しいダモ!」

いいなと思ったら応援しよう!