【颯草たちの微笑3️⃣】ナガミノヒナゲシ 長実雛芥子 ケシ科ー虞美人や 春野に一途の 炎(ほむら)立つー
南風(はえ)に乗りて、安房の渚より武蔵の野辺へと流れ着きたるは、薄紅の残り火にも似た長実雛芥子の花なり。そのたおやかなる姿、古の覇王に殉じたる虞美人の面影を宿せど、その内に秘めたる情念はあまりに深く、凄烈なり。
あの日、音もなく降って湧いたるごとくに一斉に咲き揃いしこの花は、触れんとする者の指先を拒むがごとく、手折れば自ら花弁を散らして土に還る。その潔き落花は、他者の情けを排する気高き矜持か、あるいは叶わぬ恋への絶望か。「慰め」という花言葉の裏には、癒えぬ傷を抱きしまま永劫を彷徨う孤独が潜みおる。
細き茎の先に結実したる「長実」は、かつてその名の由来となりし「盲目の目」のごとく、光亡き空をじっと睨み据えたり。一花に宿る数万の種子は、愛執の化身なり。路傍を駆ける車の震動にさえ身を震わせ、微かなる揺らぎを機として、呪詛のごとき種を地へと零し落とす。
その執念は、路側帯を、民の庭を、瞬く間にオレンジ色の海へと変え、寄り添う他草を悉く駆逐して独り咲き誇る。それは、愛した人の足跡を、自らの血の色で塗り潰さんとする狂おしき独占の情に似たり。
道端に溢るるこの美しき侵略者は、今も風に吹かれ、届かぬ想いを抱いて増殖を止めず。荒れ野を埋め尽くす橙の群生は、誰にも分かたれぬ悲恋の墓標にして、地を這い、時を越えてなお愛を求め続ける、恐るべき執念の証左なり。
