「警察回りはなぜ大事なの?」26年春入社の内定者が「追跡 公安捜査」の社会部・遠藤記者に直撃インタビュー
「夜討ち朝駆けをしてきた数なら、誰にも負けない」。そう言い切るのは、警視庁公安部の違法捜査の実態に迫った連載「追跡 公安捜査」で、2024年度の新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞した社会部東京グループの遠藤浩二記者です。「真偽不明の情報が飛び交う今だからこそ、新聞社の存在意義、調査報道の価値が高まっている」という遠藤記者に、2026年4月に入社予定の内定者がインタビューしました。
内定者たちが遠藤記者から学んだ「記者の仕事の面白さ」「敏腕記者になるための秘訣」とは――。
スポーツトレーナーになるつもりだった
―― 私たちは、新聞記者になりたい、または新聞社に入ることを検討している、という学生に向けて、遠藤さんのインタビュー記事を書きます。「人間・遠藤浩二」に迫りたいと思っているので、よろしくお願いします。
遠藤 よろしくお願いします。何でもどうぞ(笑)。
―― 今では、誰もが認める特ダネ記者である遠藤さんですが、もともと新聞記者になるつもりはなかったそうですね?
遠藤 最初は早稲田大学の人間科学部(スポーツ科学部)に入学して、スポーツトレーナーを目指してたんですよ。
いろいろあってトレーナーになるのをやめて、3カ月で早稲田を中退した。そのあと慶応大学の総合政策学部に入り直して、アラビア語を勉強しました。2001年9月11日、ちょうど浪人時代に映像で見た世界同時多発テロの衝撃が脳裏に焼き付いてて、イスラムについて知る必要があると思ったんだよね。
中学生の頃から筋トレをやってて、高校時代にTBSの「SASUKE」(スポーツ・エンターテインメント番組)に出場したことがあったから、「TBSなら入れるんじゃねえか」と思ってたんだけど、1次面接で速攻、落とされて、「やばい、就活しなきゃ」とようやく焦りだして。だからOB訪問もしてないし、会社説明会にも行ってない。記者になりたいという強い思いなんてこれっぽっちもなかったんです。
―― 就活を経て、2008年に毎日新聞社に。最初は外信部志望だったとか。
遠藤 アラビア語を勉強してたから、特派員として紛争地域に行ってみたいと思ってたんだよね。でも入社と同時に結婚して、家庭を顧みないわけにはいかなくなって。事件は国内でも起きるし、国内でやっていこうと。

人生を変えた「鳥取連続不審死事件」
―― そんな遠藤さんが「事件記者」へとかじを切ったのは、何がきっかけだったのですか?
遠藤 入社2年目の2009年に鳥取支局で、鳥取県警史上最大の事件といわれる「鳥取連続不審死事件」(元スナックホステスに男性2人が睡眠薬を飲まされ、溺死させられた事件)にぶち当たって、記者人生が変わったね。半年間休まず、夜討ち朝駆けをした。
その後は事件一筋。社内で路上に立っていた時間は誰にも負けない。
注:夜討ち朝駆けとは、朝・夜に警察官などの取材相手の自宅を訪れたり自宅前で待ち構えたりして非公式に接触し、公表されていない情報を得る取材手法です。もともとは、早朝や夜間に敵に不意打ちの攻撃をしかける、という戦国時代の戦術を指す言葉だといわれています。
―― 寒い中、ひたすら相手を待ってるのはしんどいですよね。その間は何をしてるんですか?
遠藤 携帯電話をいじってるかなあ。大阪府警担当の頃は、スマホでゲームをやってた。意識の高いヤツは、英語の勉強とかしてるらしいけど。
朝はいいんだよ、出勤まで時間がだいたい決まってるから。でも夜は午後7時ごろから相手の帰宅を待って、遅いと終電まではいくからね。ほんとに孤独でさ。「無」になるしかないんだよね。
取材相手が話してくれたときの喜び
―― 取材相手に怒られたり、拒否されたりすることってありますか?
遠藤 基本は、拒否だよ。「あっち行け」「二度と来んな、ふざけんじゃねえ」っていうのは結構ある。でも、そんなことでいちいち落ち込んでたら、メンタルが持たない。だからメンタルの強さは重要だと思う。
電話すれば答えてくれるような取材は、RPG(ロールプレーイングゲーム)でいえばレベル1みたいなもの。ラスボスレベルの「話してくれない人の口をどう開かせるか」にこの仕事の面白さがある。
こっちが何回も足を運ぶことで、全く話してくれなかった相手が話してくれたときはさ、アドレナリンっていうのか、ドーパミンっていうのか、そういうのが出てきて。「あー、やってて良かった」って思える。
それが社会にとっていい話なら、世の中が変わるような話なら、なおさらだよね。だから二度と来るなって言われても、通い続けるんだよね。それがないと、つらいだけで終わっちゃうよ。
若いヤツらには、そういう小さな成功体験を積み重ねていってほしい、って話してるんだけどね。

―― 話を引き出すコツは、何かあるんですか?
遠藤 そのとき限り、ただ一言、二言しゃべってもらえればいいっていう相手には、「あなたがしゃべってくれたら、もう二度と来ませんから」とか言ってみたりさ。「お時間ないと思うので、この一点だけ教えてください」とかね。結局、聞くのは一点だけじゃないんだけどさ(笑)。そういうのを繰り返すことで、自分なりの方法が見つかってくるわけよ。それがハマりだしたら結構、聞けるようになる。
特に、初めて当たる相手に対しては、最初の一言が重要でさ。「毎日新聞の遠藤です」ってまず名乗って、「○○事件のことを聞きたいんです」とかいうと、「もういい」とか言って追い払われちゃうわけよ。人によっても違うけど、こっちが聞きたいことじゃなくて、逆に相手が一番聞きたそうなことから切り出したりする。だから、その人がいま一番気になってることは何か、っていうのを、十分にリサーチしておかなきゃいけないんだよね。
あとは、熱意。『追跡 公安捜査』でも書いたけど、警視庁公安部の体制をおかしいと思ってる内部の人たちにどう口を開かせるか、という時にさ、「本当に公安部を解体させましょうよ、絶対許せないですよ、やりましょうよ」っていう自分の気持ちを何度も伝えたんだよね。やっぱり熱意なんだよ。こいつなら話しても大丈夫かな、って思ってもらうには。
注:『追跡 公安捜査』(毎日新聞出版)は2025年3月に出版された遠藤記者の著書。警視庁公安部による違法捜査が問題となった化学機械メーカー「大川原化工機」の冤罪(えんざい)事件、真犯人が名乗り出て、それを裏付ける客観証拠があったにもかかわらず、立件せずに公訴時効を迎えた「警察庁長官狙撃事件」、この二つの事件に共通する「警察組織による失敗の本質」に迫っています。
―― 警察官の住所は、どうやって割るんですか?
遠藤 いろんな技があって、それは入社したらまた教えるけど(笑)。それを複合的に組み合わせてヤサが割れてくるんだよね。でも本当にわからない時は、追うしかない。尾行するしか。
昔、後輩が取材相手を追っかけて、「いま居酒屋に入りました」とか電話してきてさ、俺も面白いから参戦して、店の前で待ってたんだけどね。相手が出てきた途端、いきなり走り出してさ。多分、尾行がバレちゃったんだよね。追いかけてったら、駅のホームで突然消えてさ。
でもさ、こういう非日常があるから、やめられないのよ、記者の仕事は。
―― 大変な仕事ですが、辞めようと思ったことはありませんか?
遠藤 大阪府警担当時代に、家庭が崩壊しそうになったことがあってね。夜中2時に帰宅して早朝5時に出勤するような異常な働き方をしてたから。ちょうど2番目の子どもが生まれた頃で……。そのとき初めて、まずいかな、仕事辞めようかなと思った。
大丈夫。いまは働き方改革が進んで、そんなことは絶対にないし、月の残業時間が80時間を超えたら休めって言われるから。
―― そのとき、辞めなかったのはなぜですか?
遠藤 苦しい思いをしたら、その先ちょっとは楽になるかなって思った。同じ状態がずっと続くわけじゃないから。みんな、辞めようと思ったことは1、2回はあると思う。けど、なんかさ、周りにいい先輩がいたりしてさ。俺も結構、先輩にはよくしてもらったから。

体育会系、酒飲み、喫煙者は有利??
―― お話を聞いていると、遠藤さんは「体育会系」って感じがするんですが、学生時代はスポーツをしていたんですか?
遠藤 中学、高校と野球をやってたんだけどケガをしてやめて、大学時代はサークル活動でアメフトだけやってた。
―― やっぱり、スポーツとか筋トレとかで培われた資質もあるのでしょうか。
遠藤 それはあると思っててさ。中学時代に腕立て20回×5セットから始めて毎日やってたの。そしたら1年後に200回×5セットになってたからさ、人間ってすげーな、って思って。毎日コツコツやることの重要性を筋トレを通じて学んだね。
夜回りもさ、毎日コツコツやると相手に響いていくってところがある。あ、でも体育会系じゃなくても気合のあるヤツはいるよ。いまの時代はあまり「気合だ、気合だ」って言い過ぎると怒られちゃうけどね。
―― 鳥取支局時代に書かれた記事も読ませていただいたんですが……。当時詰めていた県庁が全面禁煙になって、喫煙者の遠藤さんは「(それでも)私は、雨にも風にも負けず吸い続けるだろう」と地方版のコラムに書かれていました。かなりのヘビースモーカーですよね。
遠藤 サツ(警察)回りをする人は、タバコを吸えると実は結構有利だよ。なぜなら喫煙所へ行けば、他社の記者がいない状況で副署長や課長クラスと一対一になれるから。これが、すごく重宝するのよ。
一時期、「わかば」とか「エコー」とか安いタバコをあえて吸っていたことがあるんだけど、そうすると警察官が「いいタバコ吸ってるな」って話しかけてくるのよ。相手もわかばやエコーを吸っていたら、それだけでもう、友達になれる。
今、喫煙者って虐げられてるじゃない。だからなおさら、吸ってるだけで距離が縮まる。別に今から吸い始める必要はないけど(笑)、あえてやめる意味もないかなと。

―― では、お酒はどうですか。やっぱり飲めたほうがいいですか?
遠藤 飲めないよりは、飲めたほうがいいかな。やっぱり、飲むと相手も口が軽くなるのは間違いないから。極端な話、夜回りを100回やるより、1回飲みに行ったほうが確実に距離を縮められる。一度飲みに行けちゃえば、あとは携帯でやり取りできる関係になれる。
夜討ち朝駆けをするのは、相手が話してくれないから何とか関係性を作ろうとしてもがいているわけ。電話一本でネタが取れるなら、寒い中、待つ必要なんてない。ある意味、記者って勤務時間があってないようなものだから、ネタさえ取れたら家でずっと寝ていたっていい。
「あ、明日逮捕っすね」って電話で聞いて、原稿を書いたら会社に電話して、「後でゲラ(校正のために出力される試し刷りのこと)送ってください」って感じで(笑)。
注:遠藤記者が語る「夜討ち朝駆け」や「喫煙・飲酒」は、かつての事件記者の間では当たり前とされてきました。ただ、働き方改革が進み、女性記者も増えた今、取材の進め方や働き方は一様ではなくなっています。
―― 『追跡 公安捜査』を最後まで読んだら、「警察が好き」というか「嫌いじゃない」みたいなことが書かれていました。私はこの本を読んで、「警察の信頼は地に落ちた」と思ったんですけど、それでもなぜ遠藤さんは「警察が好き」って言えるのかなと。
遠藤 やっぱさ、一人一人の警察官は、みんな正義を持ってるんだよね。そもそも、正義感がある人が警察官になってるわけじゃん。ただ、それが組織に染まると腐っていく、というか。記者も、新聞社に入った時は使命感があっても、いつのまにか飼い慣らされたサラリーマンみたいになっていくでしょ(笑)。
でも本当に、警察官って熱い人が多いよ。今回も、そういう正義感のある警察官がいたからこそ、記事になったわけだしさ。だから、それは書いておかないと、って思った。まあ、警視庁は本当にひどいよな、とは思うけどね。
―― ここまで警察取材のお話を聞いてきましたが、裁判の取材もされていますよね。B型肝炎の記事をたくさん書かれているのを目にしました。
遠藤 たまたま仲良くなったB型肝炎の原告団の人がいてさ、薬害に巻き込まれるって、本当に心が痛むんだよな。だから何か書けるときには書いておこうって思う。一度書くと、また「書いてください」って頼まれる。
だからさ、書かなきゃ始まらないんだよ、この商売は。書いて信頼を得るしかない。例えば「文春」なんかは、「文春砲」とか言われるけど、書くからネタが集まるっていうサイクルが回ってるんだよね。

「調査報道」こそ新聞社が生き残る道
―― ネタを取るより裏付けの方が難しいという話を聞いたことがあります。実際、そうなんですか?
遠藤 例えば、警察が捜査している事件の供述内容なんかは、「捜査関係者によると」「警視庁によると」って書けるから、そこまで問題はないわけよ。でも「毎日新聞の取材でわかった」っていう記事、例えば権力の不正を暴くような記事は、ただ話を聞いただだけではダメなんだよね。間違ってたら訴えられるから。言った、言わないっていう争いになるから。録音が残ってるとか、こういう資料があるっていう裏付けがないと、書けない。
だから、いい話や面白い話があっても、全然字にならないことって本当にたくさんある。それが「調査報道」ってやつで。だけどそれをやらないと、新聞業界はもう生き残れないから、絶対に。みんながそれをやらないと。
警察回りは、そこに至るまでの修行のような感じで捉えたらいいと思う。短い期間に、どうすれば取材相手と親しくなれるかとか、取材相手とトイレで一緒になった時に一問だけぶつけるならどんなのがいいかとか、真剣に考える。そういう経験をしていくと、力がついていくから。
―― 今の社会は、SNS上に飛び交う真偽が不確かなつぶやきのような情報も、マスメディアが発信した情報も、読者から見れば同じフィールドにあるような状況です。
遠藤 うん。こういう時代だからこそ、やっぱ原点に戻るべきだと思うんだよ。ファクトの重要性ね。インターネット用に「バズる」ような記事を書くことが必要だって言われるけど、それは記者の弱体化を招くと俺は思う。閲覧数稼ぎのために記事を書いても社会は何も良くはならない。たとえ読まれなくても、ファクトを積み上げる記事を書いていかなくてはいけない。
SNSなら、例えば政治家を批判するにしても「〇〇辞めろ」って書き込むだけだけど、我々記者は、なぜ辞めるべきなのかファクトを提示して批判する。情報があふれる社会だからこそ、記者の「一次情報を取る」っていう仕事は、より重要になってくると思ってて。
それを繰り返すことによって、また読者が戻ってきてくれたらいいなと思う。この数年でメディアの信頼が地に落ちたわけだけど、コツコツみんながやり続けることが、読者の信頼を取り戻していくことになるんじゃないかと思うけどね。
―― ヤフーなどに配信された記事への書き込みが気になることはありますか?
遠藤 嫌なコメントもあるよね。でも、いちいち反応しててもしょうがない気もするんだよね。本当の読み手、分かる人から評価されたいよね。
―― その辺が、私もずっと難しいところだと思っていて……。「分かる人から評価されたい」けど、その「分かる人」は元々その問題に対して知識も理解もある。でも本当に記事を読んでほしいのって、そういう嫌なコメントをする、知識も理解もない人々なんじゃないかなと。
遠藤 基本的にみんな、いいなと思ってもつぶやかないよね。批判する時しかつぶやかないよね。俺が最近親しくさせてもらってる、時事ネタで有名なお笑い芸人のプチ鹿島さんは「いい記事は褒めた方がいい」って言ってくれてる。
あと、鹿島さんがよく言ってるのは「記者はニュースの代理人である」ってこと。普通の人は取材なんてできないから。「(メディアは)大事なことは何度も言った方がいい」とも言ってる。
新聞社の人間って、よく「既に似た記事を見たことがある」「既視感がある」っていう言い方をするんだけど、そうすると記事の扱いが小さくなる。でもほんとに大事なことはさ、やっぱり何度でも言ったほうがいいと思うし、繰り返し記事にしたほうがいいと思うんだよね。

全員が1年に1本「特ダネ」を書けば…
―― 一記者としては閲覧数を求めていなくても、会社として、ビジネスのために閲覧数を稼がなくてはいけない場面もあるのでは?
遠藤 確かに、記者はあまりビジネスのことを考えてないよね。でも突き詰めると、記事で金は稼げないと思うんだよ。例えば広告を出してくれる企業の不正を暴く記事を書かなきゃいけない時もある。真のジャーナリズムって、金にはならないと思う。だから他の部門で、頑張って金を稼いでもらうしかない。いい記事を書いたら読まれる、っていうのはあるけど、でも経営に貢献するほどの記事ってないよな、って思う。
普通の民間企業で新商品を開発したら、売り上げがぐんと上がるけど、俺が仮にすさまじい特ダネを書いたとして、それで1億円の売り上げが出るかって言ったら、それはないよね。もちろん、読まれなければ意味がないんだけどさ。
―― じゃあ、会社のために記者ができることは?
遠藤 毎日新聞社に、たとえば記者が1000人いるとして、一人一人が1年に1本、1面のアタマにくるような記事を書いたら、1年は365日なんだから、毎日特ダネが載ってるはずじゃん。けど、特ダネを書く記者って限られてる。こんなに記者がいるのにさ、書く人間が偏ってしまってるのよ。
もっとみんながいい記事を出していけばさ、それができるのが毎日新聞だと思ってるしさ。毎日、面白い話、知らない話が載っていたら、毎日新聞としての価値ももっと上がるんじゃないかな。それは1人の力じゃできない。みんなに「発表記事を早く書く」っていうマインドから脱してほしい、みんなに頑張ってほしいと思ってる。
記者育成ができるのは新聞社だけ
―― いろんな取材をされてきて、ものによっては記事掲載にブレーキがかかったこともありますか?
遠藤 ありますね。でもそれは、新聞社の良さでもあると思ってて。例えば記者クラブに所属していると、まずキャップが見て、デスクが見てくれる。1面にいくような勝負原稿になると、部長も、編集局次長も、局長クラスもチェックするわけ。だんだん記事のトーンは弱まっていくわけだけど、でもそうやって何重にもチェックが働くからこそ、正確性や表現の的確性が担保されるんだよね。
でも、例えば今回みたいな警視庁をたたく話でも、最初はストップがかかったけど、そのうちにだんだん会社が応援してくれるようになって。そこはうちの会社の良さだよね。他の会社じゃ通らないんじゃないかな。個人がやろうと思ったことは、何でもできるってところがあるよね。
―― 組織にいると、「融通が利かないな」と感じることもあると思いますが、フリーになろうと考えたことはありますか?
遠藤 俺はフリーになる気はなくて。だからこそ会社に文句言ってる。たまに辞めてから会社の悪口言う人いるでしょ。それはなんか気に食わなくて。「それ、お前、社内にいるときに言えよ」って思う(笑)。会社を良くしたいから文句を言うんだよ。俺もそういう先輩を見てきたから。俺が文句を言うことによって、下の世代が「思ったことを言ってもいいんだな」って思うようになればと思ってる。それも毎日新聞社のいいところだね。
それに、毎日新聞があるからこそ、取材ができてる。「フリー記者の遠藤です」って言っても、「帰れ!」ってなるだけだから。そこは最大限活用したらいいと思ってる。
あと、記者を育成する機関って、新聞社くらいしかないのよ。記者教育、例えば、「情報源を守る」ってこととかね。それはやっぱり、100年以上続いてきた新聞社だからできることだと思う。
先入観は持たずに何でも面白がろう
―― こんな後輩と一緒に働きたい、というのはありますか?
遠藤 一緒に働きたいのは……なんだかんだ言って、「ガッツ」のあるヤツなんだよね。文章がうまいかどうか、っていうのは、書いていけばなんとかなっていくし。頭がいいかどうかっていうのも、情報処理のスピードが速い人というのもいて、デスクはそういう能力が必要かもしれないけど、結局は記者がネタを取ってこないと始まらないからね。
人から話を聞くって言うのは「熱意」なんだよね、最終的には。誰が聞いても聞ける話なら、AIでも取材できるでしょ。絶対に出てこない情報を取るっていうのはAIにはできないじゃん。だから記者の仕事は、媒体が紙からWebになったって、なくならないと思うよ。コイツなら資料を託せる、っていうのは、人を見て判断するわけじゃん。

―― どうすれば、敏腕記者になれますか?
遠藤 まず、好き嫌いしないことだよね。何が面白いかなんてわからないからさ。最初から先入観もって、嫌だなあとか言うんじゃなくて。幅広くやってみたら、自分が面白いっていうのが出てくるだろうし。
裁判所とかも一度は取材すべきだと思うよ。行政もね、俺はあまりやったことないんだけど、予算の仕組みとか結構、勉強になることが多いのよ。
あと、刑務所とか拘置所の取材っていうのもみんなあまりやらないけど、刑務所や拘置所に入ってる人たちは話し相手がいないからね、意外に話が聞けたりする。我々の仕事って、逮捕・起訴の次はもう裁判の判決なわけじゃん。重大な事件だと接見を試みるけどさ。でも例えば詐欺とか窃盗のようなそこまで大きくない事案でも、拘置所とかに行って、向こうが断らなければ会えるから。
―― 女性記者としては、取材相手にセクハラ的なことをされたときに、「やめてください」ってあしらったら話してもらえないんじゃないかという不安があります。
遠藤 ある女性幹部も言ってたけどさ、そういう人は切っていいんだよ。そういうヤツは真のネタ元にならないんじゃないかと思う。きっぱり断ったほうがいい。
ただ、今は女性記者も増えてきてるし、変なことを言う人は減ってきているから、働きやすくなってると思うよ。
―― これから先、遠藤さんが書いてみたいことは?
遠藤 「旧石器発掘捏造(ねつぞう)」みたいな特ダネを書きたいよね。現場を押さえて張り込んで、ああいうのを取れたらめっちゃ面白いよね。専門記者として、旧石器捏造みたいな、しびれる話を書きたい。前文だけ読んで「えーっっ??」ってなるような、10秒ぐらい読んで「すごい」って思ってもらえるような。めったにないけどね、そういうものを目指したい。
注:「旧石器発掘捏造」とは、2000年11月、国内最古の前期旧石器時代の遺跡とされていた宮城県の上高森遺跡など2遺跡で、東北旧石器文化研究所(解散)の元副理事長が石器を埋めていたことが判明した問題。毎日新聞が特ダネとして報じました。日本考古学協会は2003年に、162遺跡で捏造が行われたと断定。事件は考古学への信頼を揺るがし、教科書の書き換えや史跡の指定取り消しにまで及びました。

2001年に出版された毎日新聞旧石器遺跡取材班の『発掘捏造』(毎日新聞社)
―― 最後に、これから新聞記者を目指す人にメッセージを。
遠藤 真実を追求する記者の仕事って、なかなか大変だなと思う人もいるかもしれないけど、やってみると意外と楽しいよ。純粋に楽しいと思うんだよ、知らないことを知ることができる、っていうのは。
世の中には、自分が知らないことの方が多いけど、名刺1枚でその分野の第一人者に会えるっていうのは知的好奇心をくすぐられて面白いし、現場にも行けるし、仕事内容が日々変わっていくから飽きもこない。
大川原化工機の人たちも、「遠藤さんがいたから、ここまで来れた」って言ってくれた。警察のような国家権力によって不遇な目に遭って苦しんでる人たちがいるとしたら、助けを求められる相手は我々しかいない。大手メディアしか。だから一緒に頑張っていこう。
毎日新聞社のいいところって、俺がこうして生き残っているように、自由な社風だと思うんだよね。その良さを大事にしなきゃいけないと思うからこそ結構、会社の文句も言ってるわけなんだけど(笑)。
とにかく、がんばってください。特ダネを書いて。
取材・文 2026年春入社内定者
遠藤浩二 2008年入社。鳥取支局、大阪社会部、特別報道部を経て、2021年4月から東京社会部(現・社会部東京グループ)。大阪市の上下水道工事不正問題、ハイオクガソリン混合出荷、警察庁長官狙撃事件「Nの記録」、大川原化工機冤罪事件などを取材。専門記者。
