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幻想ポロネーズ

 夜の寝室でふと思う。ぼくは出会いに恵まれた。
 ベッドの周りを友人たちが囲んでいる。
 デルフィナはぼくの好きな曲を聴かせてくれる。マリアたちのこと、もちろん忘れてないよ。コンスタンツィア、もうすぐ天使がやってきて、品格と荘厳さをたたえて、ぼくは心良く送り出してもらえるよ。

 ピアノと共に生きると決めて旅立った日の、ぼくの勇気を讃えよう。
 ウィーンに、そしてパリに行って、どこに行ってもずっと音楽が一緒だった。ピアノを人生の伴侶にしたことは、最高の選択さ。だって楽しいんだから。不安に苛まれていたぼくは案外、ポーランド軍を率いてロシアに打ち勝つ英雄だったのかもしれない。
 父さんも母さんも姉さんも、みんな喜んでくれたね。ジヴニー先生に習って、もっとピアノが好きになった。高等学校の授業中にふざけたり、ぼくがジョークを言ったり、みんなで笑っていた。エルスネル先生は、ぼくを音楽に生きる者として育て上げてくれた。全身に纒足のごとく布団を巻いて、もうずっと動けていないけど、祖国でのことはぼくを楽しませてくれるんだ。
 ああ、ピアノを弾きたい。もう一回でいいからピアノに触れたい。この脳にはメロディがあるのに体は奏でられない。
 フォンタナ、どうしたらいい? ティトゥスも、いるんだろ、そこに。ポーランド、ぼくの故郷に。母さん、姉ちゃん……

 ジョルジュ。きみに出会ったことを不運だと言う人がいる。でもぼくが、自分は恵まれていると思うのは、きみとの出会いも含めている。
 マヨルカは酷かった。ぼくの病気のせいで苦労もかけた。修道院の探検が楽しかったのは嘘ではないけど、イタリアの革命でぼくも血を流す羽目になった。しかし、思えばあれも良かった。だってきみが、ぼくが奏でる雨の音を、気に入ってくれたのだから。
 ノアンなら作曲がはかどって、ぼくはいつも幸せだった。サロンから離れるのも悪くはなかった。だから不運だなんて思わない。故郷にいた頃のように、毎日が楽しかったよ。
 きみは僕の、もう一人の母なのかもしれない。
 だって、きみは母さんのように、僕を愛してくれた。でも親の心を子は知らない。きみがあれほど怒った理由はソランジュのことだろう。ぼくは何を間違えたのだろうか。それだけ、それだけでいいから、聞かせてはくれないだろうか。ぼくは母を愛しているのだから。

 またもう一度、パリで、ポーランドで、美しく暮らしたい。どんなに願っても、体は何も叶えてはくれない。

 もういっそ祈りなんかやめて、革命から離れた遠い国で、ぼくの音楽を聴衆へと届けようか。そうすれば、ぼくが全てを失おうと、芸術は永遠に生きられる。
 だから血塗れになってでも旅をした。芸術だけは生き残ってほしいから。極寒のイギリスで、ぼくには無理だったけど、ぼくの音楽には生きていってほしい。
 ともに歩いてきた友人たちなら、この魂が幻に変わろうと、音楽を伝え歩いてくれる。音楽に想いを託せば、言葉を紡ぐことができる。なんて素晴らしいんだ。
 曲を書きたい。もう一曲だけでいい。まだマズルカがひとつ作りかけなんだ。

 ああ、でも、いよいよぼくは、全てを使い果たすみたいだ。ぼくがダメなら、代わりに。仲間に恵まれた。ありがとう。ありがとう。声がだんだん小さくなって途切れたその時。
 ぼくの心音も消えていくんだ。




最晩年の作品ということもあってか、悟りを開いたみたいな印象。ポロネーズを書こうとなんとなく始めたらだんだん力が入ってきて、最終的に、このような物凄く考え込んだ力作になったんじゃないかと思う。

(00:50)
冒頭のmaestosoは荘厳に。すっかり暗くなった夜の部屋で、いよいよお迎えが来る頃。冒頭の和音は前の6番「英雄」の最後の和音を一音変えたもの。
(02:42)
オクターヴ連打で切り替わって、ここから延々と回想が続く。
ポーランドから旅立つ時、その前の少年時代。不安に駆られつつも後になれば良い選択だった。学校ではユニークな生徒だった。楽しい日々を思い出すうち、ピアノをもっと弾きたいと切なる叫びを上げ始める。自分ではもう、どうしていいかわからない。頼れる人たちを思い浮かべ、そのうちの一人がジョルジュ・サンドだった。
(07:05)

最後が近づき、最初に戻る。
(09:49)
残された時間を思いっきり生きようとする。メインのメロディを今までで一番堂々と。けれど並行して体調が悪くなる。まるで生き急いでいるみたい。
(11:32)
Codaの旋律が前倒しで登場。
無理が祟り死期が早まった。いよいよ、いよいよという時、己の最期を受け入れ、あとは仲間に託す。
ラスト。
ショパン自身は、すぅっと、息を引き取った。

以上、だいぶ想像で足してて、まるで大河ドラマに史実にないエピソードをぶっ込むように、一曲の中につめつめに詰め込みました。

しかしディテールは文章に起こすにあたって付け加えただけで、こんな感じのイメージで弾ければOK てか「良い曲だよね〜」って言われて「良い曲です」と、誰目線?な返事したくらいの時に書き終わってた。いや、いつだよ。
実際、弾いてる最中はあんまり考えてなくて、その場の私の気分100%でした。なんか思ったより元気だな


英雄を弾いた時に「次の曲もいいなぁ」と冒頭だけを聞いて、ていうか車の中でCDを流していたせいで最初と最後しか聞こえなくて、ぽわーっと思っていたこと、7年越しの回収でした。


たった39年だけど、その39年が濃い時間だったことは、楽譜から浮かび上がるように読む者の目に見せる。享年39で良かった。良い曲たくさん残してくれてサンキューです。

でももっと長生きだったらありとあらゆるものが全然違っていたはず。結核なんて今では治る病気だから。欲を言えば、40歳以降にどんな曲を書くか、見たかったね。

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