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軽率にマガイモノの家族を作った話11

11.どうあがいても絶望

カレンとの性的な接触は、少しずつだが、確実にエスカレートしていた。

挿入と射精をしていないだけで、あとはだいたいのことを経験していた。

ただ挿入をしていないというのは、決定的な事実を避けていたし、射精をしないのはぼくなりの矜持だった。

矜持なんて表現をすれば格好良いが、この期に及んでぼくは逃げ道を確保しているつもりで、決定的な責任から逃れられると思い込んでいた。

何かのきっかけがあれば、あっさりと崩れ去る矜持でもあった。

10月になる頃には、ぼくの指や舌でカレンは絶頂を覚えた。ぎこちなかったフェラチオも随分と上手くなっていた。毎回彼女の方からスキンシップを求めてきた。射精や挿入を我慢するのは、並大抵の意思では不可能な毎日が続いていた。

時々、仕事上がりにユカリさんと食事をすることも増えた。カレンと三人の時もあれば、ユカリさんと二人だけの時もあった。

ユカリさんと二人きりの時は、どうしてもカレンの話題が多くなった。

いつかユカリさんは「あなたに抱かれたら、必ずあの子は報告してきますけどね」と宣言したが、中途半端な性的な接触は伝えてはいないようだった。

ユカリさんとは、酔っ払ってから腕を組む程度だったが、彼女の接触はカレン以上に性的な匂いがした。


11月になり短い秋がやってきた。その日はユカリさんの誕生日だった。

ぼくは数少ない友だちと西成あいりん地区のスナップ写真を撮り歩き、その後昼間から飲む会と称して、日曜毎に開催している昼酒を楽しんだ。

いつもなら泥酔手前まで飲むのだが、この日はかなりセーブした。

夜はカレンの自宅でユカリさんの誕生祝いをする予定だったからだ。

友人と別れて、上本町の酒屋に立ち寄った。注文していた日本酒を受け取るためだった。日本酒は十四代の中取り純米吟醸で、一升瓶で4万円を超える金額だった。

ユカリさんが好きな銘柄で、非常に美味くてぼくも大好きだった。ただ4万円を出して飲むほどかと言われれば疑問だった。店でコップ一杯1200円以上なのを考えると、小売りの一升瓶なら割安だったが、それでも高騰しすぎだと思った。

昔はもっと安く飲めた記憶がある。

紙幣を店主に渡しながら、そんなことを考えた。

その日はユカリさんのリクエストで、鰤しゃぶの予定だった。夕暮れ前にカレンの自宅に着き、荷物を下ろしてからカレンと二人で買い物に出掛けた。

鮮魚が特に充実していることで有名なスーパーには、巨大な鰤が一匹まるごと売られていた。

「パパ魚さばけるって言ってなかった?一匹買って料理したら、ママびっくりするし喜ぶと思う!」とカレンははしゃいだが、どう考えても三人で食べきれる訳がなかった。

「さばけるけど、こんなん持て余すわ!」

ぼくはそう言うと、パックされた柵をカゴに入れた。

しゃぶしゃぶに必要な食材を買い、近所では美味いと評判の店で予約していたケーキを受け取ると、ぼくらは帰宅した。

「お借りしますね」と断ってから、ぼくは広くて清潔なキッチンに入った。「何でも使ってくださいね。本当にお手伝いしなくて大丈夫ですか?」と、ユカリさんはこちらを見た。

鰤のしゃぶしゃぶは美味いのだが、少し脂っこいので、まず柵を塩締めした。その間に野菜や豆腐を切ったり、昆布出汁を引いたりした。

30分ほどで準備が整って、ぼくらはテーブルを囲んだ。まずはビールで乾杯することにした。カレンは炭酸水だった。

交際しているとは言い切れない女子高生と、その母親と三人の食卓。既に何度も経験した光景なのに、やはり今回も現実味がなかった。

この日のために取り寄せた、馬路村のゆずポン酢で食べる鰤しゃぶはかなり美味く、ぼくらは結構な量のビールを飲んでから、日本酒にスイッチした。冷やしたグラスで飲む冷たい日本酒は、酔いを加速させた。

食後、コーヒーを淹れて買って来たケーキを食べたが、酔いは覚めそうになかった。十四代の瓶を見ると5分の1くらいしか残ってはいないし、スーパードライ500mlの空き缶が6つほどあった。

母娘の家からぼくの自宅までは、徒歩で20分くらいなのだが、歩いて帰るのは無理のような気がした。

宴会が終わる頃には「泊まっていけ」という流れになり、ぼくは言葉に甘えることにした。

軽くシャワーを浴びていると、カレンが着替えを持って来た。新品の男性用の下着とパジャマだった。

亡くなった父親が入院中に買ったものらしい。

父親はラガーマンだったらしく、XLサイズでぼくでも着られたのだが、どういう訳かズボンが短く、七分丈というか、くるぶし15センチ仕様で、何だかおかしかった。

ぼくの姿を見た母娘は、ズボンなんでそんな短いの?と笑っていたが、やがて亡くなった旦那&父親を思い出したのか、二人とも少し涙ぐんだ。その様子を見て、やはり無理をしてでも帰れば良かったと思った。いくらでもタクシーが捕まえられた筈だ。

もう横になってくださいとユカリさんが和室に布団を敷いてくれた。カレンは風呂に入ったようだった。

横になったぼくの枕元に正座したユカリさんが「今日はありがとうございました」と頭を下げた。慌てて上半身を起こしたぼくを、ユカリさんは押し倒すように抱きしめてきた。

布団に倒れると、そのまま唇を塞がれて、舌が差し込まれた。

倒れた時に広げた状態になった両手をどうすれば良いのか逡巡しているうちに、ぼくは情けなく勃起してしまった。

覆い被さったユカリさんはぼくの変化を感じ取ったのか、舌を絡めながら性器に触れた。カレンと違って、最初からぼくの気持ち良い場所を知っているような動きだった。

ユカリさんはパジャマとトランクスを脱がすと、躊躇なくぼくを口に含んだ。

ぼくは広げた両手で、ユカリさんの頬を包んだ。

ユカリさんの舌の動きは、カレンとは比較にならないほど技巧的だった。

どうしたら良いのか分からなかった。このまま射精した方が良いのか、それとも挿入した方が良いのか?その前に愛撫を返すべきなのか、避妊はどうする?そもそもカレンにバレるだろ?

色んなことが脳内でぐるぐる回っているのだが、ユカリさんの顔を見た瞬間、一気にぼくは冷静になった。

彼女は泣いていたのだ。

彼女のフェラチオも、ぼくを気持ちよくするというよりは、かつて彼女の前にあった何かを確認するかのような、ぼく不在の行為に思えた。

その姿を見た瞬間、ぼくの中に芽生えた性的な気持ちは消え失せた気がした。

ぼくはしばらくそうさせてから、頬に触れた手に少し力を込めて、行為をやめさせた。そのまま彼女を抱きしめて、ぼくの方から舌を絡めるキスをした。唇を合わせながら髪を撫でた。

これはアウトだろと自覚はしているのが、どうしても彼女を抱きしめてあげたいと思ったのだ。

ユカリさんは声を殺して泣いた。号泣とか慟哭という表現が似合う泣き方だったが、頑なに声は押し殺していた。声を出さない号泣ってあるんだなと思いながら、ぼくは髪を撫で続けた。

パジャマの胸の部分が濡れて、その冷たさにぼくはさらに冷静になった。

泣きやむまでずっと髪を撫でていた。しばらくして落ち着いたのか「ごめんなさい」って一言呟いて、ユカリさんは和室を出て行った。

ふすま越しに隣にあるキッチンで洗い物する音が聞こえたので、ぼくは布団に入りなおした。

考えても仕方ねーし、まぁお互い酔ってたことで!と、なかったことにしようと目を閉じたら、すぐ睡魔がやってきた。


どれくらい経ったのか、鼻をつままれて起きると、今度はカレンがぼくを見下ろしていた。部屋は暗いけれど、洗い髪なのが分かった。

ぼくが目を開けたのを確認すると、カレンも唇を合わせてきた。最初から舌を絡ませるキスだった。

一日に時間差で何人かとセックスしたことはあったけれど、一つ屋根の下で、母子連続キスは初めての経験だった。

カレンはいつものようにぼくに触れてきた。勃起状態で眠ったので、まだ少し硬度を保っているらしかった。

何かを察したのか「ママに何かされた?」とカレンは訊いてきた。

「はぁ?されねーよ!酔ったからちょっと勃ってただけや!」と応えたものの、女の勘はバカにしてはダメだと心から思った瞬間だった。

最近ようやく様になってきた愛撫をしながら、ほんとに?と目をそらさず、カレンは再度確認してきた。

もちろん「あるわけねーだろ!」と応えた。

納得したのかしてないのか、カレンは直接ぼくを握ってきた。

そしてぼくの耳元で、「今夜は最後まで気持ちよくなって。頑張るから」と囁いてきた。

いや、お前、それ絶対に母親のことを疑ってるだろ?

「ママに見つかるから、自分の部屋へ戻れ」と言っても、「今お風呂に入ったところだから、1時間くらいは出てこない」と、カレンは少し前に母親がそうしたように、ぼくのズボンと下着を脱がせた。

結局ぼくは初めてカレンの愛撫で射精した。一瞬だけ迷った様子を見せたものの、カレンはぼくの精液をすべて飲み込んだようだった。

えへへと笑って照れながら、飲んじゃったって言った顔が、いつもより数倍幼く見えて、不覚にも少しときめいたのは、黙っていた。

ぼくはそのまま、今度こそ眠りに落ちた。


翌朝、スッキリと目覚めた。

鼻血も吐血もなかったので、一度も目覚めることなく熟睡できた。

ダイニングに行くと、母子で朝食の準備をしていた。

「おはよー」「おはようございます」と同時に言われて、色々しまった!と思ったが、顔に出さないよう、ぼくも挨拶を返した。

三人で和定食って感じの朝餉を食べながら、脳内に先日プレイしたゲームの映像が浮かんでくるのが見えた。

サイレンという随分と前に発売されたホラーゲームだ。

そこに前田知子という女子中学生が登場する。

異変で人ではなくなる中学生。

半屍人(しびと)状態。

だけど完全に屍人ではないので、意識は正常な彼女は必死で両親の元へ帰ろうとする。

やっと教会で両親に再会するものの、血の涙を流す彼女を見て、もう屍人になったんだと、両親は彼女を拒絶、そこで自分の状態を察した彼女は、肩を落として闇の森に消えて行く。

その後村全体が屍人だらけになり、彼女の両親も屍人化する。

屍人化した両親は彼女を受け入れ、親子はまた笑い声の絶えない一家団欒を過ごすようになる。

しかし、屍人一家なので、正常な人間の目から見ると、狂気の化け物が叫びながら一つの家にいるようにしか見えない。

悲しみと恐怖が渾然一体となるシーン。

ぼくは朝食を食べながら、あの屍人一家の団欒シーンを思い出していた。

この一家団欒もどきは、あの光景のようで、狂気に満ちてるなと。

何だか物語が動き始めたみたいで、恐ろしいと思いながら。

サイレン販売時のコピーは秀逸だった。

どうあがいても、絶望。