例えば、空想天国のロックンロール
僕は詩のことについてよく知りませんが、「変詩」という区分があるとするならば、これはまさしくそれでしょう。
なぜなら、この文章を記録したあの時の感情の記憶は、今や霞のようにただ漂っているだけで、もう確固たる息をしていないみたいだからです。
僕が思い出せるのは、汗と熱気でまるで雲の上の様になっている無音のステージで、粛として「天国」をうたっている憧れのロックスターだけ。
これは、1年前の2月、名古屋栄の小さなライブハウスで僕が抱いたらしい、大きな感情についての文章です。
詩、らしき記録です。
そこは、確かに霞がかっていました。
例えば、空想天国のロックンロール
空想天国は昨日に夢見た天国横丁
感情が乗り移った
ギターサウンドは巡り巡って
そこは霞がかった遥か果て
銀色の雲は夢の中を通い
弦は張りつめて武者震う
そしてそれは
無差別に踏み倒された痛ましい大軍よりも
世界の調和のためと従う奴隷たちよりも
途方もなく大きな心を背負っていた
私は知っている
花が実になりゆくように
必ず
今日は美しく自然にたまゆらなんだ
例えば
メリーゴーランドの慣性力で
重力を振り切ってしまいそうなとき
例えば
星降る夜に√2gRを目指したなら
星は死となり私を捕まえに待つのだろう
例えば
私が君を目掛けたなら
星は世界から追われ
ろうそくの火が消え落ちるように
自らの熱火に焼け失せるんだ
これは剣を持たない者たちの無言の情熱
そして生贄に
例えば、例えば、例えば
君は無限遠にいるのでしょう?
例えば、例えば
そこにはきっと世界は無く
君や風やふるさとや天国や、
衝動や実りや天使や、
君にとっての君だけの場所
あるいは神様の目も届かない場所
ああニコニマス
こい希わくば
私が星空を真っ暗にして
例えばと
果てしない星との旅路で
遥か君まで架け渡すフィリアは
クピドの矢となりうたを乗せて
また星に還るんだ
消えてしまうから美しく
永遠でないから美しいのでしょう
君がいるから
星は燃え
星は流れ
今日も夜空を青白くするのでしょう
君がいるから
そして今日も私は
メリーゴーランドに乗っている
あとがき、(現在からの空想)
ここまで見守っていただき、ありがとうございます。
想いをもたない言葉、意思のない文章を、「詩」と呼んでいいのかどうかは、僕には判断のしようがありません。
ただ、これをそのまま商業にするわけでも、どこか形式ばったところに残すわけでもないので、なんだっていいじゃないか、と思うのです。
こういう意図しない形で感情が文章になってしまうことは、僕の場合は往々にして起こり得るのですが、大抵の場合はエッセイや掌編くらいの物語を描いていました。
今回はごくごく稀で、特異点的です。
なんだか正夢との遭遇の様で、予感めいた妄想を辿るデジャヴュの様で、二目惚れの様で、ブラックの缶コーヒーの様で、この大きな感情を抱え切るにはちょうどいい、ドラマチックな瞬間でした。
これこそ、僕のロックスターがあの日のうたに乗せた、「天国への糧」なのでしょう。
僕は、こんな瞬間が、これから死に生くには不可欠だと思っています。
明日もそうなればいいと期待しながら、今日の生活をしています。
果たして君はどうでしょうか。
凡庸な今日の星に、「あまりに凡庸だ」と、飽き飽きしてはいませんか。
もしそうであるならば、僕がロックスターになって、君と空との間隙を、一瞬きりの大きな感情で埋め尽くしてみせたいと希っています。
そしてきっとそこでも遥か霞が、僕らのまわりをただ漂うに違いありません。
