刑法総論のコペルニクス的転回〜鈴木茂嗣説における「構成要件」の位置づけ(刑法に構成要件は要らない?!)〜
前回までは、鈴木茂嗣刑法理論における「有責性」についての議論をみてきました。有責性に関する鈴木説も、独自性に富みながらも、検討を深めるにつれてその合理性と実践的意義が浮かび上がってきました。
今回は、鈴木先生による「二元的犯罪論」についてみていきたいと思います。
以前、「構成要件」の位置付けをめぐって、鈴木説の「犯罪論の基本構造」として記事にしたことがあります。
よろしければこの記事もぜひご覧ください。
通説的見解と全く異なる「構成要件」の位置づけについて書いています。
1 犯罪の「性質論」とは何か?
鈴木説は、犯罪の性質論と認定論とを直截に峻別します。
そして刑事実体法である刑法(学)は、犯罪の性質論を担っていると考え、手続法である刑事訴訟法は、刑法(学)において規定された犯罪の性質と、それを充たす犯罪性質論的な行為について、事実関係を証拠によって確認し、認定していく作業であると考えます。
刑法は、処罰という法律効果を発生させるための法律要件である「犯罪」とはどのような行為かを定めるものと解されている。それゆえ「刑法学」は、「犯罪とは何か」すなわち犯罪の「性質」の解明をその本来の任務とすべきである。すなわち、刑事訴訟手続きを経て認識されるべき犯罪(あるいは認識された犯罪)とは如何なる行為であるべきか、を明らかにするのが「刑法学」の課題だといってよい。
このように、刑法学は、法律要件である「犯罪」を定めており、その「犯罪」はどのような要素(行為)で構成されているのかということを定めていることになります。つまり刑法(学)は、「犯罪の性質論」のレベルを規定するものであるということになります。
2 刑事訴訟法における「認定論」とは?
それでは、刑事訴訟法はどのような役割を担っていると考えるのでしょうか?
これに対して、刑訴法は、刑事訴訟手続上そのような犯罪の存否を如何にして認識・認定するかの手順・手続を定めるものである。それゆえ「刑訴法学」は、犯罪の「認定」論をその本来的任務とする。そして、犯罪の「認定論」とは、刑事訴訟手続上の犯罪の「認識論」にほかならない。
刑法(学)は犯罪の性質論を任務とすることを先ほど確認しました。「犯罪とは何か?」「犯罪を構成する要素にはどういうものがあるのか?」「どういった要件を充足すれば犯罪は成立するのか」といった、犯罪という事象の性質論(要件論)が、刑事実体法である刑法の任務であることを確認しました。
では、それに対して刑事訴訟法はどのような任務を有しているのでしょうか?
先ほどの引用で語られているとおり、刑事訴訟法の役割は、犯罪の「認定論」「認識論」(以下、「認定論」と呼びます)ということになります。
刑法では、犯罪が成立するためには犯罪に共通する要件としてどのようなものがあるのか。そして個別の各犯罪が成立するためには、どのような要件が必要となるのか。それを定めておくことが刑法(学)の任務とされていました。これが犯罪の「性質論」であり、刑法(学)の役割だと考えるわけです。
それに対して刑事訴訟法においては、刑法で定められた犯罪が成立するための各要件(性質論)を、当該行為者の具体的な行為が果たして本当にその要件を充しているのかということを、一つひとつ認定していく作業がその本来の役割だと考えます。
3 「構成要件」はどちらに属するのか?
ここで気付くのが、これは刑法(学)における通説的見解にいう「構成要件(論)」の話なのではないかということです。
しかし、鈴木説ではこの「構成要件(論)」は、刑事実体法である刑法(学)において考慮される概念ではなく、手続法である刑事訴訟法において考慮される概念であるのです。
刑法(学)は、「刑罰」という法律効果と、その法律効果を発生させる法律要件を定めている法規範だと考えます。そしてそこでは、行為者が行った具体的な犯罪事実を考慮することはありません。それを考慮し、犯罪の性質論に従って定められた各犯罪類型に共通している犯罪成立要件および各犯罪類型における個別の犯罪成立要件に当てはめて、それらの要件を充たすかどうかを判断するのは、刑事訴訟法の役割だと考えます。犯罪の「性質論」は刑法(論)に、犯罪の「認定論」は刑事訴訟法に、それぞれ理論的な役割を峻別することになります。
4 評価要件事実と認定要件事実の区別
刑訴法によれば、起訴状には「罪となるべき事実」を記載すべきものとされ(刑訴§256Ⅲ)、また有罪判決には「罪となるべき事実」を必ず記載しなければならず、法律上「犯罪の成立を妨げる理由」となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならないとされる(刑訴§335Ⅰ・Ⅱ)。ここで「罪となるべき事実」とされているのが「構成要件事実」であり、「犯罪の成立を妨げる理由となる事実」とされているのが「阻却要件事実」である。これらも一定の目的を達するためにの「要件事実」であるが、実体的評価を直接基礎づける実体要件事実(評価要件事実)とは区別されるべき認定論上の要件事実として、「認定要件事実」と呼ぶのがふさわしい事実といえよう。両者は機能を異にし、理論上厳密に区別されねばならない。しかし同時に、認定要件事実は実体要件事実の「認定」に当たって不可欠な事実として、両者相互に密接な関連を有するものであることを看過してはならない。訴訟手続上直接に主張・立証の対象となるのは、「評価要件事実」ではなく「認定要件事実」の方である。すなわち、訴訟手続上の「認定要件事実」の主張・立証を前提に、事実の推定や主張・立証責任といった訴訟法的規律を介して、「評価要件事実」という「実体要件事実」が認定されることになるわけである。
上記のように、鈴木説においては、「構成要件」とは刑事訴訟法上の概念だとしています。起訴状および有罪判決においては「罪となるべき事実」を必ず記載しなければならないということは、まさにそれこそが「構成要件事実」なのであり、したがってそれは、刑法(学)上、犯罪を構成し、成立させるべく措定された概念である「実体要件事実」の認定に当たって不可欠な事実として刑事訴訟法上要求される「認定構成要件」と呼ぶことがふさわしいとされます。
そして、刑事訴訟法上の、この「(認定)構成要件」を充たす行為者の具体的行為が認定されれば、「実体要件事実(評価要件事実)」が認定され、犯罪の成立が事実上推定されることになります。
訴訟の過程で、その推定を破るような主張・立証がなされた場合、その主張・立証が採用されば場合は、「犯罪の成立を妨げる理由となる事実」が認定されたことになり、当該推定が破られ、犯罪が不成立となります。この主張・立証された事実のことを「阻却要件事実」と呼びます。
このように、犯罪を成立させる事実である「認定要件事実」と、犯罪の成立を妨げる事実である「阻却要件事実」をあわせて、「構成要件事実」と呼ぶことになります。刑事訴訟法上におけるこのような事実の認定を行う場こそが、「構成要件」という概念の位置づけであるということになります。
すなわち、「構成要件」という概念は、刑法(学)上の問題ではなく、刑事訴訟法上の問題であると構成するのです。
5 通説的犯罪論体系との比較と鈴木説の構造
通説的見解では、刑法(学)上の犯罪成立要件を下記のように考えます。
構成要件
↓
違法性
↓
責任
という流れです。
それに対して鈴木説では、以下のように構成します。
違法性
↓
有責性
↓
当罰性
↓
罪刑法定主義充足性(犯罪類型性)
刑法(学)上の犯罪成立要件についてみると、このような違いがあります。通説的見解でいう「構成要件」は、鈴木説では刑法(学)上から排除され、刑事訴訟法上の問題であるという位置づけがなされるのです。
ということで、鈴木説における「構成要件」の内容とその位置づけをみてきました。通説的見解での「構成要件」の位置づけとはかなり異なりますが、考えていくと非常に合理的ですし、刑法(学)と刑事訴訟法における直截に峻別された役割分担についてみても、理論的に収まりがよいものになっていると思います。
このように、「構成要件」を刑法から切り離すというこの視点は、まさに“刑法総論の地殻変動”とも言えるでしょう。
今回のテーマについても、これから更に自己理解を深めて、また改めて書いてみようと思います。
また、犯罪論体系についての他の箇所についても書いてこうと思いますので、その際もどうぞよろしくお願いいたします。
それでは今回はこの辺で。
