第十章 ストーカー(続き2)
彼は、やはりFacebookからカラオケアプリに辿り着き、Facebookとは違うニックネームで入会し、私のフォロワーになりました。
私の歌に、高校生の時、文化祭で出し物にした劇中歌の話題をコメントしてきたので、彼だとわかりました。
しかも彼は、
「いつか貴方と、この歌でデュエットしたいです」
と、言ってきました。
その粘着質な態度には、気持ち悪さしか抱(いだ)けませんでした。
カラオケアプリの知人にも、
「この人物は危険だからブロックして下さい」
とお願いし、私もブロックしました。
そんな折、私はまた入院してしまいました。
カラオケアプリの知人の方々が、歌を全くアップしなくなった私を心配して下さり、
「体調悪いですか?入院しているんじゃないですか?」
と、訊ねてくれました。
私は、それらのコメントに、
「入院しましたから、当分アップができないです」
と、返信しました。
それを、彼がどのようにしたのか、盗み読んで、知ってしまったのです。
すると彼は、
「僕は膠原病の可能性がある。シェーグレン症候群だ」
と、その症状が本当にあったかはわからないのですがそう言って、私の主治医をいきなり受診したのでした。
膠原病内科の受付から、先生は予約がいっぱいで、紹介状もないことから、一旦は受診を断られたそうですが、
「遠い所を身体がしんどくても、この医師に診てもらいたいから、わざわざ来たので、1番最後まで待つから、絶対に今日、診て欲しい」
と彼は言ったらしいのです。
主治医はとにかく患者第一の医師です。だから、よりにも寄って、オーケーしてしまったのでした。
この時分、Facebookには再三に渡り、
「俺の元カノに手を出しやがって」
とか、
「俺の元カノやのに、診察して、身体を触りやがる」
など、異常なコメントが増えていました。
威圧的になると、「僕」ではなく、「俺」と記し、元カノと連発するほど、SNS上でもわかるように、彼の態度は徐々にエスカレートしていました。
私は、
「先生とは、そういう関係ではありません。失礼なことを言わないで下さい」
と怒りを顕(あらわ)にしましたが、こうした一方的な思い込みが止むことはありませんでした。
そして、その日の最後に、主治医は彼を診察室に招き入れました。
主治医は当たり前の行動をとっただけですが、これは大きな事態に発展してしまいました。
※
彼は初診患者を装って、主治医の前に現れると、どういう風に話したのかは全くわかりませんが、主治医が患者の守秘義務違反をするように矛先を向けました。
彼はなんと、主治医から私の情報を聞き込みしたのです。
その日の回診で主治医が私の部屋にお見えになり、それが判明しました。
主治医は、私の家族が、私の病気に理解がないことを非常に心配し続けていました。
だから、
「彼が、宮滝さんの力になってくれると思ったから、少し宮滝さんの病気について話したよ」
と主治医はサラリと告げたのです。
私は、苦笑するしかありませんでした。
主治医が話してしまった以上、今更それを責めたとて、どうしようもありませんし、主治医が良かれと思ってしたことを、否定するのも気がひけました。
しかし、私の顔にそれらの複雑な気持ちは出現してしまっていました。
「もしかして、言わないほうが良かった?彼氏なんでしょ?」
「違います。高校生の時の彼氏でしたけど。今は関係ない方です」
「あっ……。でも、そんなに詳しいことは話していないから。当たり障りのないことだけ……」
「先生にとってはそうだと思います。先生は私をおもってして下さったともわかっています。ただ、次に彼が受診してきても、診察しないで下さい。どうせ病気じゃなかったでしょ?」
「あ、いや。今、血液検査の結果待ちで、再度外来の予約は入れてるよ。ただ、確かに、シェーグレン症候群ではないと思ってます。彼は膠原病ではないと思うから、心配しないで」
「心配なんかしてません」
「え?」
「彼にまとわりつかれて困っているだけです」
と、話して主治医には、次回の予約以降は彼を診察しないことと、これ以上、私の情報を流さないことを約束してもらいました。
その日から彼のFacebookへの書き込みが一段と酷くなりました。
「宮滝さんのことを俺以上に知りやがって!!俺の元カノやのに!!」
「宮滝さんの全てをあいつは知ってるかのように言いやがった!!ムカつく!!俺の元カノやのに!!俺の宮滝さんやのに!!」
「宮滝さんが入院する度にあいつは毎日宮滝さんと会っていると言ってやがった!!俺はずっと会えなかったのに!!」
「宮滝さんの家庭の事情も知ってるみたいやけど、それは教えやがらんかった!!俺は警察官やのに!!俺の元カノやのに!!」
元カノ、元カノと、激しくアピールする彼に対し私には恐怖しかありませんでした。
そして、再来(さいらい)予約日に彼は入院病棟にやって来たのです。
コロナ禍ですから、当然、面会謝絶でした。
増して、免疫抑制剤使用中の患者ですから看護師さんの皆様は、厳戒態勢を敷いて下さっていました。それはたいへん助かりました。
彼が、私に会いたいといくら言っても、看護師さんに詰所で止められ、病室のエリアには入(はい)って来られませんでした。
彼は、お見舞い品を看護師さんに渡し帰って行きました。
看護師さんが届けてくれたお見舞い品は、葛湯でした。
その日も主治医の回診がありました。
主治医に彼が来たこと、葛湯をもらったけど、私は食べたくないから医局の先生方でわけて頂きたいと話し、それを主治医に引き取ってもらいました。
主治医は、
「やっぱり言わないほうが良かったようやね。勿論、守秘義務違反になるようなことは話してないけどね」
と言いましたが、彼が主治医からの情報を元に色々と調べたのは火を見るより明らかでした。
そしてその後、ストーキング行為が次の段階に進みました。
※
to be continue.
