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船乗りの立ち食い蕎麦

今日は、船乗りの人向けの立ち食い蕎麦に来た。

言い方がいい。
船乗りの人向け。

それだけで、少し物語がある。
観光客向けではない。
おしゃれなランチでもない。
映える店でもない。

働く人のための場所。
港の近くの匂い。
少し湿った空気。
雨の音。

蕎麦とミニカレー。600円。

安い。すごい。

値段を見た瞬間、少し嬉しくなる。
こういう嬉しさは、かなり正直。
人間は、立派な思想より、600円のセットに元気づけられる日がある。

現金のみ 出てくるのが早い。

蕎麦。
ミニカレー。

湯気。

まず、蕎麦をすする。

美味しい。

思ったより、ちゃんと美味しい。
いや、かなり美味しい。

なんでだろう。

立ち食い蕎麦は、あらかじめ茹でている場合が多い。
そうしたら麺はだいたい柔らかくなってしまう。
蕎麦の香りも、歯ごたえも、だいたいどこかへ行ってしまう。

でも、ここの蕎麦は違った。
ちゃんと蕎麦だった。
立ち食いなのに。
600円なのに。
船乗りの人向けなのに。

いや、船乗りの人向けだからかもしれない。

働く人の腹を満たす店は、変に格好つけない。
格好つけないぶん、必要なところだけちゃんとしている。
汁が温かい。
麺がだらしなくない。
カレーが少し甘い。
量がちょうどいい。

そういうこと。

ビジネスも、たぶんこういうことだ。

誰のためのものかが明確な店は強い。
船乗りの人。
近くで働く人。
急いでいる人。
腹を満たしたい人。

おしゃれな人全員を狙っていない。
港っぽいライフスタイルを提案していない。
地域資源を活用した食体験、とか言っていない。

蕎麦とカレー。
600円。
うまい。

それでいい。

むしろ、それがいい。

新しい戦略を立てたい。
でもめんどくさい。
そんな自分に、立ち食い蕎麦が教えてくる。

余計なことを考えすぎなんじゃないか。
まず、誰の腹を満たすのかを決めろ。
話はそれからだ。

蕎麦にそんなことを言われた気がした。
かなり迷惑。
でも、当たっている。


◆ ミニカレーの安心感

ミニカレーも食べる。

特別な味ではない。
でも、安心する味。
学校でもなく、家でもなく、サービスエリアでもなく。
その全部の中間みたいな味。

カレーはすごい。
だいたいの人生を一旦黙らせる。

悩みが深くても。
将来が見えなくても。
人間関係が面倒でも。
カレーを食べている数分間は、だいたいカレーが勝つ。

これはかなり偉い。

蕎麦をすすり、カレーを食べる。
600円。

人生は複雑だけど、昼飯は単純でいい。
むしろ、単純なものが必要な日がある。

四十代になると、複雑なものを複雑なまま抱える力は少しつく。
でも、複雑なものを単純なものに戻す力は、意識しないと失われる。

だから、こういう店が必要。
蕎麦。
カレー。
湯気。
雨。

人生の構造化より先に、腹を満たすこと。

当たり前。
でも、忘れる。

特にフリーランスは忘れやすい。
仕事と生活の境目が薄い。
食事も、休憩も、移動も、全部仕事の素材になってしまう。
それは便利だけど、少し危ない。

人生が、全部コンテンツになる。
全部ネタになる。
全部意味づけされる。

それは時々、かなり疲れる。

だから、ミニカレーはミニカレーのままでいい。
ただ、うまい。
それでいい。


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