チェコちゃん、けんちゃん③
第3話「春風」
春日さす下宿での朝を終え、チェコちゃんは猫2匹――ムルとクドラ――に見送られながら学校へ向かう。
猫たちは柔らかい毛並みを太陽に輝かせ、足音に合わせてしっぽをふわふわと揺らす。
授業中、先生が「今日の課題は"俳句を一つ書く"です」と言うと、チェコちゃんはノートを取り出し、小さな声でリズムを数え始める。
しばらくして、つい呟く。
「うーん…チェスケー・ブジェヨヴィツェの春は、もっと長い…」
隣のクラスメイトが覗き込むと、ノートにはこう書かれていた。
春の風
プラハのキオク
遠くなる
「チェコちゃん、これ…ちゃんと五・七・五だよ」
少し照れながらチェコちゃんは答える。
「今日は、がんばりました」
先生が黒板に「字余り」と書き説明を続ける中、チェコちゃんはそっとノートの隅に小さく書き足す。
字余り――こころが、文字より大きいとき。
放課後、下宿に戻るとムルとクドラが玄関で待っていた。
日差しが猫の毛並みにきらめき、小さな影を床に落とす。
チェコちゃんは机に向かい、ノートを開く。今日覚えた言葉を、漢字とカタカナ、ひらがなで交互に書き並べる。
ページの端にちょっとだけカラフルな付箋を貼って、意味や発音をメモしている。
下宿先のおばちゃんが遠くから「今日は何してるの?」と声をかける。
「ことばの整理です」
窓の外の空は、春の光に溶けてゆるやかに赤みを帯びていた。

テレビでWBCの速報が流れる。チェコは3戦3敗。
火曜日の日本戦では、田久保コーチがベンチに立つ。
チェコちゃんは、画面の向こうではなく、心の中でそっと願う。その場に立って、同じ空気を感じたいな…
小さな安心と尊敬の気持ちが、春の光と猫の毛並みに溶け込み、チェコちゃんの小さな世界を少しずつ広げていく。
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