川向こうの名刺
おひけえなすって。あっしは新小岩、葛飾の生まれでやんす。
連れは小岩、江戸川区でやんす。
名乗りを上げたはいいが、どこか噛み合わねえ。
「新がつく分、あっしのほうが新しい人間で」

「いやいや、元はこっちが本家の小岩で」
と、名刺の裏で小競り合い。
通りがかりの旦那が一言。
「で、仲は悪いのかい?」
顔を見合わせて、ふたり同時に頭をかく。
「いえね、電車じゃ隣でやんして」
旦那、くすっと笑って、川の方を指す。
「ほら、間に一本あるだろ」

あっしら、そろってうなずいた。
「ええ、名前より細い」
小噺「一駅の義理」
ちょうど電車が滑り込んできやして、
アナウンスが情に厚い。
「次は南千住、南千住」
連れは肩をすくめて乗り込みやす。
「じゃあな、今日は俺の勝ちだ」
ドアが閉まる寸前、あっしは手を振ってやりやした。

「安心しな、次ぁ北千住って言い返すからよ」
――北と南、行ったり来たり。
勝ち負けなんざ決まらねえが、
会う理由だけは、ちゃんと残りやす。
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