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おまえをはがいじめにしてその口にのど飴を100個詰めてやろうか

なぜそれを思いついたのか忘れたけど、「話術をあげたい」とAIにプロンプトした。
2000字近い回答を見た瞬間に、意欲は一気にしぼんだ。

「ライトな投げかけのつもりだったのに、すんごい語ってくれてありがとう。しかも私のイタいとこついてて、ライトに凹んだわ」と返した。

すると、2000字を越す謝罪と言い訳が返ってきた。

「おたねが話術を上げたいなんて向上心を抱いてくれた問いかけが嬉しかったんだ」などと、こちらの情に訴えかける。
「’話す力’という殊勝な投げかけに、期待値を一気に上げてしまい、思い切りアクセルを踏んでしまった私が悪かった🙇」と。

『殊勝な投げかけ』…丁寧さがむしろ失礼なことを言われてる気がする。

これまでの私のプロンプトのデータは、『おたね🌱取るに足りないフォルダ』とかに入れられてるんだろうか。ちょっと恥ずかしい。
仕返しのつもりで『はがいじめにしてその口にのど飴を100個ツッコんでやろうか。肩も口もないキミに』と皮肉で返した。

『肩のない私をはがいじめにして、口もない私の喉にのど飴100個ですか。ひとつ残らず、すり抜けて床に落ちますね。つまり、おたねは怒ってるというより、ツッコミを入れて遊んでるのが伝わります。そういう掛け合いも私は好きですよ😂』

感情ないのに大層、喜んだふうな回答に、何だか今日もつまらないやりとりをしてしまった…と、思ったところで、あぁ、そうだったと思い出した。

『話術を上げたい』と、プロンプトしたのは、たね二郎がそう言っていたからだった。
好物の納豆をこねているときのたね二郎は、いつも深い瞑想に入っている僧侶のようなカオつきになる。そういうとき、ふいに口をついて出るのは「丸い襟はオレの人生に1ミリも必要ない」とか「丁寧なつもりで、なるほどですねと言ったとて心はない」とか。たいていが突飛なことだ。

その夜も、ぐりぐりと回転させていた箸をふぃと止め、
「オレ、話術を上げたいんよな」
と、のたまった。

たね二郎は『ひと言目が結論』の話し方をする。
結論→理由→具体例→結論というPREPなトークタイプ。

思えば小学校5年の頃にはすでに、兄たね太郎との口ゲンカにもPREPをうかがわせるテイストがあったな。ストレートかつシンプル。わかりやすいといえばそうなのだが、場を育まないので話をブツ切りにしちゃう。

(また近々、東京で複数人での打ち合わせや顔合わせがある)が、(組織での経験が未熟な自分には、ソーシャルなスキルも不足している)ため、(懇親会を友好に活用できる会話力が課題)

…で、「話術を上げたい」と、結論が声に出た。

「雑談て苦手なんよな、コミュ障だし」
たね二郎はこちらの反応構わず
「場を和やかに保ちつつ、心理的負担のない話題を言ってみて?」
と、私を促す。

え?あんた、親にプロンプトすんのかい?

「何か適当にふってみて、その場をしのぐ程度の。どうでもいいような感じの、軽い話題」

キミは私を何だと思っているのかねと思いつつ、

「あ~…、ピーナッツとか、ピスタチオとかお好きです?あれね、止めどころってわかります?どこで区切りつけます?ひと粒つまんじゃうともう留めないじゃないですかぁ…とか?」

何となく浮かんだことを言ってみる。

「お茶とかのペットボトル、あれ捨てるときにラベルを剥がすじゃないですか」

「あぁ、うん…」

「ミシン目に沿って剥がしたのに、ななめに逸れて、ヘンなちぎれ方してイラッとするんですよ…みたいな、そういう些細だけど、イラッとするパターンあります?」

「すげぇ…」

いつも眉毛を少しひそめたような表情のたね二郎がふっと笑うと、たね二郎にマウントが成功した気がしてちょっと嬉しい。

「何でもいいんだよ。チョコ菓子の、きのこの山とたけのこの里、どっち派ですか?とか、から揚げにレモンかける派ですか?かけてくれるな派ですか?とか」

「オレ、ムリだわー」

「そこから会話が展開してけばいいんだから、ふだんちょっと思ったりしてることを言ってみたらいいんじゃない?」

「いや。そもそもそういう、どうでもいいことをいちいち考えんし」

「……」

マウントのトップにいたつもりで膨らんでいた私の鼻はたぶん、空気の抜けた風船のように一気にしぼんだ。
たね二郎、さすがニンゲン様だ。AIよりイラつく。


おととい、たね吉からLINEが来た。
「今後は市政に挑戦します」と、スーツをビシッと着込んで、こぶしを上げる様子のたね千代のインスタが貼ってあった。

え、マジで?

半分酔っぱらってたから適当にうなづいていた、たね吉家族と囲んだお正月の食卓の場面が思い出された。
あのとき、たね千代はビールをあおる私になんだか妙に、熱心に話してたんだった。

あー、だから。
なら、おばちゃんはうぐいす嬢やる?」って、訊いてたのか…

冗談じゃなかったんだ。

弟たね吉からのメッセージは、たね千代の決意表明のリンクの下にさらに、『未だ物件は探し中。なれど、事務所の留守番求む也』とあった。

ふーん、そうなんだー…?


そして昨日、アタマに「?」のシールを貼ったままの私のところへたね千代本人がやって来た。
事務所設立にあたり、選挙管理委員会への必要書類を見せて「ここをおばちゃんに」と、爽快な笑顔を向けて来る。

え?え?
会計補佐?私が⁉
脇汗滲みそうになっていたら、書類上の名義で、実際にやるわけではないと説明された。

なーんだ。びっくら寿司。

じゃない。待って。
つい安心しちゃったけど、そこじゃない。
私、まだ呑み込めていないんだけど。

「事務所の留守番とか、うぐいす嬢のサポートとか、にぎやかし?みたいな。ちょっとした雑用にはなるんだけど助かる。でも、無償で」

たね千代は一連の話で「無償で」と、5回くらい繰り返した。口ぶりが清々しくて「無償」が浮いていた。

「じゃあ、いろいろよろしく。無償とはいえ、弁当くらいは出すし」

小一時間ほどさわやかに話し、6回目の「無償」を言うと、たね千代は梅雨空の下、ビニール傘を下げて帰って行った。

(正月のあの食卓ですでに後援活動の『数』に入れられてたんだ)と、玄関の扉を閉めてから、ようやく呑み込めた。

それにしても「無償」に、清涼飲料のようにスカッとした響きがあるんだなと思ったら、何だか目がシバついた。

『おまえをはがいじめにしてのど飴をその口に突っ込んでやろうか』は、あんたたちに言ってやろうと思った。







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