静かな鏡
一日の終わりを告げる、カチリという小さな音。指先が電源ボタンに触れると、それまで光を放っていた画面が、ゆっくりと暗闇へ溶けていく。その刹那、私の内側にもまた、ふくよかな静寂が降りてくる。
ブラックアウトした画面は、まるで静かな水面のように、部屋の灯りと私の輪郭をぼんやりと映し出す。昼間の喧騒から切り離されたその鏡には、今日、ついに言葉にならなかった形なきものたちが漂っている気がするのだ。
書こうとして飲み込んだ言葉。誰かに伝えようとして、結局は胸の引き出しにそっとしまった感情の欠片たち。それらは、光を失った画面の奥底で、安らかに息を潜めている。無理に輪郭を与えず、ただ「そこにある」ことだけを許す、余白のような時間。
傍らのマグカップから立ちのぼる、かすかな湯気。その白い揺らめきが、輪郭を持たない思いごと、私をふんわりと包み込む。秒針の音だけが、この夜の深さを測るように規則正しく響いている。
人はいつから、すべてを言葉にして残さなければならないと思い込むようになったのだろう。言葉に満たない、ただ心の奥底を揺蕩うだけの感情だって、確かに私を形作る大切な一部なのに。
眠りにつく前のひととき、私はあえて「書かなかった思い」を抱きしめる。すると不思議なことに、強張っていた肩の力がふわりと抜け、心に心地よい余白が生まれるのを感じるのだ。
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言葉が窓からやさしく広がっていくように。よかったら、その風を少しだけ。なくても大丈夫、読了がいちばんのご褒美です。