東京都・野川の魚たち:環境DNAと採捕調査で探る都市河川の生態系
みなさん、こんにちは! 今回は、東京の身近な自然に焦点を当てた興味深い論文をご紹介します。その論文とは、**「東京都野川の上流域における魚類の生息状況の把握―環境DNA調査と採捕調査を併用して―」**です。
この研究は、東京学芸大学の吉田安理沙さん、鈴木享子さん、柳川善光さん、そして吉富友恭さんたちによって行われました。彼らが野川で何を発見したのか、一緒に見ていきましょう!
背景:なぜ都市河川の魚を調べる必要があるの?
生物の多様性を守り、管理するためには、「いつ」「どこに」「どれだけの」生物がいるのかを素早く知ることがとても大切です。特に都市を流れる河川は、開発や人の活動の影響を受けやすく、水質の変化や外来種の侵入、生息地の減少といった様々な課題を抱えています。
これまで、河川の魚を調べる主な方法は、タモ網などを使って実際に捕獲する「採捕調査」でした。しかし、この方法は時間や労力がかかり、調査する人の技術によって結果が変わってしまうこともあります。もっと効率的で、正確な調査方法が求められていました。
目的:野川の魚をより正確に知るために
この研究の目的は、東京都を流れる野川の上流域にどんな魚が生息しているのかを明らかにすることです。そして、そのために「採捕調査」というこれまでの方法と、近年急速に発展している「環境DNA調査」という新しい方法を組み合わせて、それぞれの調査方法の特性を比較・検討することを目指しました。
課題:従来の調査方法だけでは見えてこないもの
従来の採捕調査では、以下のような課題がありました。
時間と労力:広範囲を調べるには、多くの時間と人手が必要でした。
調査者の技量:捕獲技術によって結果にばらつきが出ることがありました。
環境への負荷:魚や生息環境に影響を与えてしまう可能性がありました。
見落とし:個体数が少ない種や、特定の場所に隠れている魚を見つけるのが難しい場合がありました。
やったこと:二つの調査方法を組み合わせる!
研究チームは、野川上流域の小金井新橋付近で、以下の2つの方法を同じ日に実施しました。
採捕調査:
タモ網を使って、約200mの区間を約1時間かけて魚を捕獲しました。
捕獲した魚は、その場で種類を特定したり、写真を撮って研究室で詳しく調べたりしました。
環境DNA調査:
河川の水を少量(1リットル)採取し、水中に含まれる魚のDNAをフィルターでろ過して集めました。
集めたDNAを分析することで、どんな種類の魚がその水域に生息しているかを特定しました。
これらの調査を複数回(2019年11月、2020年9月、2020年11月)実施し、得られたデータを詳しく比較・分析しました。
わかったこと:野川には多様な魚たちがいる!そして、二つの調査方法の特性
この調査の結果、野川の上流域には合計19種類の魚が生息していることが明らかになりました。これは主に、野川の中流域に生息する魚たちで構成されていました。
特に重要な発見は以下の通りです。
野川の主要な魚たち:タモロコ、オイカワ、モツゴ、ヌマムツ、ドジョウ(類)、ヨシノボリ類といった魚が、採捕調査、環境DNA調査、そして過去の河川水辺の国勢調査のいずれでも確認されました。特にオイカワ、モツゴ、タモロコは、環境DNA分析で非常に高い検出率を示しました。
絶滅危惧種と外来種:東京都のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種(例:ミナミメダカ)や、生態系に悪影響を及ぼす可能性のある外来種(例:カラドジョウ、ソウギョ)も確認されました。ミナミメダカは環境DNA調査でのみ検出され、その存在が明らかになりました。
調査方法の補完関係:
環境DNA調査では18種類の魚が検出され、採捕調査(9種類)よりも多くの魚種を検出できました。これは、環境DNA調査が採捕調査では見つけにくい魚の存在を明らかにする可能性を示唆しています。
採捕調査で確認された魚のほとんど(9種類中8種類)は環境DNA調査でも検出されました。
しかし、ヒガシシマドジョウという魚は、採捕調査では確認されたものの、環境DNA調査では検出されませんでした。これは、ヒガシシマドジョウが砂底に生息する底生魚であることや、個体数が少ないためDNAが水中にあまり放出されなかった可能性が考えられます。
それぞれのメリット・デメリット:
環境DNA調査:少ない労力で広範囲の魚種を効率的に検出でき、環境への負荷も小さいという大きなメリットがあります。専門的な機器や費用はかかりますが、データベースがあれば魚種の判別が容易です。
採捕調査:魚の体長やライフステージといった個体の詳細な情報や、魚が実際にどの場所に生息しているか(マイクロハビタット)を正確に把握できるメリットがあります。しかし、時間と労力がかかり、調査者の技術も必要です。
今後の展望:より効率的で正確なモニタリングへ
この研究は、環境DNA調査と採捕調査が互いに補い合う関係にあり、両方を組み合わせることで、より正確な魚類の生息状況や希少種の存在、外来種の侵入状況を把握できることを示しました。
今後、資源管理や生態系の管理・保全、生物多様性の保全を進めていくためには、目的に応じて複数の調査・分析方法を使い分けたり、併用したりすることが非常に重要です。また、採水する深さや頻度など、詳細な条件設定を検討することで、さらに効率的で精度の高い結果が得られるでしょう。
東京の身近な自然である野川にも、私たちが守るべき豊かな生態系が息づいています。この研究が、私たちの周りの自然環境への関心を高めるきっかけになれば幸いです!
