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今の技術じゃ人間は月に行けない?イーロン・マスクが挑む「物理の呪い」

前編・後編、そして前回のイーロン・マスク編に続き、今回はこの4部作の最終章となる。

「1969年、アポロ11号が月に着陸した。

だったら、今の科学技術ならもっと簡単に月や火星に行けるはずだ」 普通はそう思うだろう。

しかし、テクノロジーの進化と経営のリアリズムの視点から見ると、現実はまったく逆だ。

現代の厳格な安全基準と人道的な観点から言うと、「当時のアポロのやり方では、怖くて現代人は誰も月に行けない」のが本音なのである。

実は、人類が再び宇宙を目指すプロセスの裏には、これまで議論してきた「AIの進化」と、絶対に避けて通れない「物理の呪い(ジレンマ)」が完璧にシンクロした、壮大なグランドデザインが隠されている。

1. 50年前、人類は「運良く」月に往復できた

アポロ計画の時代、宇宙飛行士たちは「バンアレン帯」と呼ばれる強力な放射線帯を、薄いアルミの装甲だけで、実質むき出しに近い状態で突っ切った。

当時は米ソの国のメンツをかけた戦争だったため、「死ぬかもしれないが、運良く生きて帰れたら大成功」という、一種のギャンブルのような挑戦だったのである。

当然、すべてがデータ化され、人命が最優先される現代において、そんな命がけの特攻は人道的に絶対に許されない。

じゃあ、現代の技術で人間を放射線や宇宙環境から完璧に守るために、分厚く頑丈な装甲(シェルター)を宇宙船に作ればいいではないか。

話は簡単に見えるが、ここに「物理の呪い(ジレンマ)」が絶望的な壁となって立ちはだかる。

2. 現代の宇宙開発を阻む「重量の悪循環」

宇宙船の装甲を厚くする = 宇宙船がめちゃくちゃ重くなる。

宇宙船が重くなる = 地球の強力な重力を振り切るために、莫大な燃料が必要になる。

燃料を増やす = さらに宇宙船全体が重くなり、その重い燃料を持ち上げるために、さらに別の燃料が必要になる……。

この「重量の悪循環」のせいで、地球から一発で「安全で重い宇宙船」を月や火星に飛ばそうとすると、計算上、ロケットのサイズが富士山レベルに巨大化してしまい、現代の技術でも「絶対に不可能」という結論になってしまうのだ。

「やっぱり火星移住なんて、イーロン・マスクのホラ話(夢物語)じゃないか」 誰もが諦めるこの物理の限界を、彼は誰も思いつかなかった2つのウルトラCでハックしようとしている。

3. イーロン・マスクの解決策:ゲームのルールを2つに変える

① 宇宙空間での「軌道上給油」

地球の重力を振り切るためだけに、ロケットの燃料はほぼ全て使い果たされてしまう。だったら、「地球から一発で飛ばす」というルールを変えればいい。

イーロンが開発している超巨大ロケット「スターシップ」は、まず人間を乗せた本番用の機体を、空っぽに近い状態で地球の上空(低軌道)まで一気に上げて待機させる。

そこに、燃料だけをパンパンに積んだ「タンカー(給油専用ロケット)」を何機も打ち上げ、宇宙空間でドッキングして燃料を満タンに補給(給油)するのだ。

地球の重力の呪いから解放された「宇宙空間」からスタートすれば、人間を放射線から守る重い装甲をまとったまま、最少の燃料で月や火星へ一気に加速できる。

(※実際、この「軌道上給油」はNASAの次世代月着陸計画『アルテミス計画』にも正式採用され、実験が進められている現実の計画だ)

② 「死なないAIロボット(オプティマス)」を先遣隊にする

どれだけ宇宙船を安全にしても、火星の過酷な環境で、人間が外に出て何年もかけて基地を作るのはリスクが高すぎる。

だからこそ、イーロンは人間より先に、放射線も酸素不足も関係ない人型ロボット「オプティマス」を大量に送り込む。

ここで、バラバラに見えたパズルのピースが1つに繋がる。

ロボットたちに搭載されるのは、テスラが自動運転などで培ってきた、物理の法則を脳内に宿す次世代のAI――「世界モデル」だ。

地球からのタイムラグがある遠隔操作に頼ることなく、ロボットたちは自律的に、火星の土を3Dプリンターのように使って、人間が到着する前のシェルター(基地)を無人で完成させてしまう。

人間が行く頃には、安全なホテル(居住区)が完成しているというわけだ。

4. 結び:すべてのビジネスは「火星」に繋がっている

電気自動車の「テスラ」で培った、物理世界を認識する自律型AI。

宇宙へ物資を運ぶ「スペースX」。

上空から地球も宇宙も通信で網羅する「スターリンク」。

世間はこれらを別々のシリコンバレーのビジネスだと思っているが、イーロン・マスクの頭の中では、「地球から安全に人間を脱出させ、火星に自律した文明を作る」というジレンマを解くための、完璧に繋がった1つのパズルなのである。

緻密なデータとチェス盤のルールで戦うGoogleが「冷徹な戦略システム」だとすれば、イーロン・マスクは人々の夢や物理の限界すら仕組みでハックしていく「情熱のカリスマ」だ。

この2つの巨頭が、画面の中のマネーゲームと、現実世界の物理空間(リアル)で激突しているからこそ、現代のAIとテクノロジーの歴史は、どんな映画よりも面白い。

この4部作の“始まり”をまだ読んでいない方へ。

この最終章は、4部作のすべてが繋がった地点です。
まだ読んでいない方は、前編・後編・第3章からぜひ辿ってみてください。
物語の始まりは、Google帝国の誕生からでした。

▶ 前編:天才たちはなぜGoogleを去ったのか
▶ 後編:天才を野生に放つGoogleの生存戦略
▶ 第3章:イーロン・マスクの恐怖とOpenAI誕生の真相




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