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飾りじゃないのよ涙は―成人後、たったいちどだけ人前で泣いたお話

#創作大賞2026
#エッセイ部門

26年1発目の実録風コラム、いってみましょう^^

「泣き虫みっちゃん」とまでいわれ、実際に(小さめの)スーパー内で「一瞬でも」かーちゃんが見えなくなるとギャン泣きするような、そんな幼少期ではありました。
ありましたが、
成人後は映画やスポーツで泣くことはあっても、「哀しいことを理由に」「人前で泣く」ことはなくなりました。
それが当然なのでしょう…あっ、でも、たったひとつの例外を除きます。

かーちゃんが急死しても人前では涙を見せることはなかったのですが、
26歳のある夏の日、瞳から溢れ出す涙を止めることが出来ませんでした。
場所は、電車のなか。
周りには、20人ちかい他者(乗客)。

どれくらいのひとが自分の涙に気づいたのかは分かりませんが、はっきりと、しっかりと泣いてしまいました。

…………………………………………

あったりめぇといえばあったりめぇな話、
フリーランスのライターをつづけていると、稼げる月はモノスゴ稼げる、しかしぜんぜんの月は煙草銭だってぎりぎりの状況で。
(とくにコロナショックの直後は、原稿依頼ゼロの月がしばらくつづきました)

原稿料の振り込みが異様に遅いところもありますし、
ですから現在もそうなのですけれど、派遣会社に登録しダブルワークみたいな形で日々を過ごしています。
原稿料が派遣バイトの稼ぎを上回った月は自尊心が保たれ、下回る月はそれが崩壊する感じですかね(^^;)

派遣会社が多くなり、そのシステムやルールが整備化された現代とはちがって、90年代はかなりアバウトだった…今回のエピソードは、ココがポイントになるでしょう。

その月は原稿ではほとんど稼げず、家賃さえ払えない状況に陥ってしまいました。
家賃は48,000円。
緊急のことなのでせっかくの原稿依頼も断り、日給10,000円の派遣バイトを5日連勤でこなし窮地をしのぐことに。

派遣先は物流会社で、作業内容は仕分け。
トラックに積み込む荷物を、区域別に振り分けていくアレです。

重いものばかりでしんどいけれど、5日の辛抱だ。
やけに張り切って遅い遅い!と煽ってくる勘違い派遣じいさんも居るけれど、黙々と作業をつづけ無視を決め込もう。
リーダー格のひとに「気にしないでいいからね、アイツはドライバーにも嫌われているから」と耳打ちされたし。どこの職場でも居るものだなぁ!

さて、連勤最終日の5日目―。
日本酒の八海山6本セット(贈答用)を台車に載せる際、雑に手を放したつもりはなかったのですが、うち1本が割れてしまいました。

すぐには気づきませんでした、前述したように「雑に手を放した」わけではなかったので。
けれども、なんか、…うん? ちょっとアルコールくさいぞと。
自分が気づく前に、あの勘違い派遣じいさんが大声で騒ぎ始めます。

「おい!割れてんじゃねぇか!!なにしてくれてるんだよ!?」
「えっ」
「おいおいおい!しかも贈答用だぞ、弁償だ弁償!!」

自分に話しかけているのではなく、作業員たちの視線をこっちに向けさせようとするための大声。

「…すいません!」
「ほら、ほら、箱までびしょ濡れじゃないか!!どんな運び方してんだよ!?」

リーダーが駆け寄り、
「あぁ…とりあえず中身を確認してみようか」
「すいません」

日本酒「臭」漂う事務所で箱を開けてみると、
1本の底部が割れており、5本は無事。

「単なるケース売りだったら1本分の弁償で済みそうだけど、これ贈答用だしね、どうかな」
「ほんとう、すいません」
「まぁ事故はあるものだし。ただボクは現場の責任者というだけで、こういう処理に慣れているわけじゃないんですよ、いま担当者に連絡したから。ちょっと、ここで待っていてもらえます?」

割れた一升瓶と、こころが折れた自分。
担当者がやってくるまでの数十分、もう苦痛で苦痛で。

先に結論を記してしまえば。
八海山1本8,000円、それが6本だから48,000円。
派遣会社としての保険システムやルールが整備される前だったからか、それとも小さなところだったからなのか、これすべて弁償してくれと。

稼ぎが5日間で50,000円、
家賃は48,000円で弁償代は48,000円、
ウソみたいな話だけれど、2,000円しか残らない。
よく書かせてもらっているエロ本の原稿料より安い!しかも原稿なら30分で仕上がるが、こっちは5日間汗流して2,000円とな!?

最終日に手渡しでもらう給料袋のなかは、千円紙幣がたったの2枚。
もう少し気が強かったり頭が働くタイプだったら弁償を拒否したり抗議したりするのかもしれません、
ただ割ったのは事実であるし、
哀しいやら悔しいやらで放心状態、とにかく早くココから去りたかったので、すぐに駅に向かい町田行きの電車へ乗り込む。

席は空いているが座る気にもなれない、出入り口付近に立ち車窓から流れる景色をぼんやりと眺めていました。

・・・・・・・・・・とはいえ8時間勤務を終えて疲れている身体、なので、やっぱり座ろうかと視線を座席に向けると、目を閉じて座っている中年女性の姿が目に入る、、、その瞬間、涙が溢れてきたのです。

その女性が、あまりにも母親に似ていたから。
2年前に急死した、かーちゃんそっくりの女性。

「なにやってんのよ、アンタはもう!」

そんな風に叱られている感じがして、情けなくて情けなくて、涙が止まらなくなってしまいました。
拭うこともしなかったから、周りには気づかれていたかもしれません。
けれども自分はか弱そうな若い女性でもないし、
あるいはヤバいヤツと思われたか、視線を感じることはなかったですね。

自宅に帰還後―自家製仏壇に手を合わせ、「ごめんなさい」「ごめんなさい」と何度も謝りました。
酒呑んで忘れたいところだけれど、稼ぎが2,000円じゃ話にならない。
仕方なく布団に入る……も、その日はさすがに一睡も出来ませんでした。

人前で流す涙は、これで「出切った」ような気がします。
相変わらず恥知らずな人生を送っていますが、もう人前で泣くことはないのでしょう。。。

(了)

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