「事業手法」より「何をするのか」
事業手法信仰
この事業はPFI法で
ある自治体から「老朽化した図書館の改築を中心として周辺にある公共施設を集約したいが、コンサルに委託して作成した基本計画のような形で市民合意・庁内の理解が進まないし、議会からの反応も悪い。どうしたらいいか。ちなみに事業手法はPFI法に基づくPFI(サービス購入型)で行うことが基本計画で位置付けられているので、それを前提にしてほしい。」との相談を受けた。
あまりにあるある案件で、過去のnoteや拙著でも似たようなことは書いてきたが、「何をやりたいか」「どんな未来を作りたいのか」といったビジョンも自分たちで検討せず、ハードとしてのハコモノの「形だけ」を追い求めてしまい、立ち戻る原点≒ビジョンがないから、このような事態に陥ってしまう。
今回のnoteでは事業手法信仰のヤバさと旧来型行政の思考回路・行動原理だとハマってしまいやすい・コンサル等に仕組まれた様々なトラップについて考えたい。
国の優良事例集


紙面の都合もあるのかもしれないが、国の優良事例集(やコンサルによる表面的で内容の薄いセミナー)となってしまうと上記のように糀ややオガールですら事業手法・ストラクチャー・表面的な事業の経緯等が中心となり、そのプロジェクトの何が魅力なのか、どこが際立っているのかが見えてこない無機質なものになってしまう。それぞれの公式HPと比較すれば一目瞭然だが、そこから発せられるエネルギー・人の匂いが全く異なる。
そもそもこうした「事例集で知った気になる」ことも問題だが、噂に聞くところによると(本当ではないと信じたいが、)国の事例集のなかにはお抱えコンサルへ業務委託して、そのコンサルも現場に直接いくわけでもなく電話・オンラインで担当の話を聞いて資料を取り寄せるだけでまとめてしまうものもあるらしい。
ピュアでマジメな公務員はこうした表面的な優良事例集や国・コンサルが主催する内容の薄いセミナーで知った事例≒PPP/PFIのすべてだと誤認し、事業手法やストラクチャーを必死になって読み解こうとする。
詳細は後述するが、優れたプロジェクトにおいては事業手法・ストラクチャーは最初から決め打ちしたものではなく、結果論でしかない。そこを勘違いしてしまう・させてしまう人たちがいるから今回のようなあるある案件が多発する。
優先的検討規程のワナ

内閣府の優先的検討規程(のモデルフロー)では、対象事業を「総事業費10億円以上または年間の維持管理運営費1億円以上」として、そこに当てはまる場合はいきなり「適切なPPP/PFI手法の選択」をすることになる。
(総事業費の考え方については別のnoteに記しているのでここでは割愛するが、)いきなり事業手法の選択に入ってしまう部分に「え?」がある。
事業規模だけで何をしたいか・何をするのか・何を求められているのかの検討もなく、「先行事例を劣化コピーorサービス購入型のPFIを前提とした簡易VFMによる判断」がされてしまう。そもそも論が検討されないまま機械的に流れ作業が行われてしまうから、アウトプットの事業も単なるハコモノ整備になり「まちのためになるプロジェクト」にならない。
更に恐ろしいのはこれも別途書いているので簡単に記すが、簡易な定量評価ではPSCに対してPFI-LCCの方がイニシャル・ランニングともに10%削減できる≒確実にVFMが発現するというロジックを用いていることであり、これが大きなトラップになっている。
(本来はこのような意味のない計算をしなくても民間の創意工夫で企画・設計・施工・維持管理運営をするのだから確実にVFMは出るのだが、)このロジックでは100%VFMが生じた後に「詳細な定量評価」に移る。
⑤ 詳細な検討について
簡易な検討の結果、PPP/PFI 手法に優位性が認められる可能性があるものについて、詳細な検討を実施します。
多くのPPP/PFI手法は、従来型手法とは異なり、長期間の委託の締結を前提としています。
従って、事業の実施に際しては、専門的な外部コンサルタントを活用するなどにより、導入可能性調査等を実施し、当該事業をどのような手法により実施することが最も効率的か、実施する場合はどのような事業条件(業務分担、リスク分担、要求水準等)とするべきかなど詳細に検討することが一般的です。
こうした調査を通じて、民間事業者に要求する業務の内容や負担させるリスクの内容を定めることによって、それを前提とした定量的な評価を行うことができます。なお、詳細な検討において設定する数値は、業務分担、リスク分担、要求水準等を反映したものであり、簡易な検討において設定した数値と同一である必要はありません。
ここではシレッと「事業の実施に際しては、専門的な外部コンサルタントを活用するなどにより、導入可能性調査等を実施し、当該事業をどのような手法により実施することが最も効率的か(略)など詳細に検討することが一般的です。」と詳細な検討をコンサルへ委託、いわゆるアドバイザリー業務委託をすることを当たり前のプロセスとして紹介している。実際に事業を行うわけではないコンサルタントが、机上でPSC及びPFI-LCCを算定しても、行政や事業者が本当に設計・積算をするわけでもないので、そこにリアリティは発生しない。
にも関わらず、コンサルに委託するアドバイザリー業務では通常、何千万円ものコストが投じられることになる。この費用をプロジェクトの原資に回すことができれば事業全体の収支バランスは大きく変わるはずだ。そうした面でも、この教科書型プロセスの危険性と下記のnoteで記した事業パートナー方式の大きな可能性を感じないだろうか。
そもそも論を「敢えて」しない
このような教科書的・機械的なプロセスでは前述のように「どういうハコモノをPFI法に基づくPFI(サービス購入型のBTO方式)で整備するのか」から検討が始まってしまうため、(みんな・賑わいといったNGワード満載の曖昧なビジョンらしきものが書かれている場合もあるが、)そもそも論が議論されることはない。
そして、これは「首長・上司・議会に言われたからPFI法でハコモノを整備すればいい」というやる気・プロ意識の欠如した行政担当者と100ページを超える分厚い仕様発注の要求水準書を作成すれば多額のフィーが得られるコンサルの間での悪い意味でのWin-Winの構図になっている。
そもそも論を「敢えて」せず、まちに向き合わず、自分たちだけがレベルの低いところで都合よく共感してしまうことが全国各地で行われているから、墓標の乱立する民需なき官製都市が蔓延し、喰われる自治体に成り下がりまちが衰退する。
仕様パズル


江南市の布袋駅東複合公共施設整備事業の要求水準書では、上記のようなゾーニングイメージ図がギッチリと書き込まれ、どのような諸室が必要なのかだけではなく、どこが隣接・近接していなくてはいけないのか、動線はどうするのか等が事細かに記されている。「誰がやるのか」も決まっていない、実際にそのプロジェクトを長期にわたって自社ノウハウを活用して経営する運営事業者がセットアップされていない段階でここまで規定されてしまっては、運営事業者はもとより設計事務所にも創意工夫の余地がほとんど残っていない。
民間事業者がこのプロジェクトに応募するためには上記の難解な(ある意味で機械的な)パズルをいかに解いていくことが求められる。


更に難易度の高い大宮区役所新庁舎整備事業では、なんと10ページ以上に及ぶ施設諸元表のパズルを読み解かなければいけない。それだけではなく合計30以上に及ぶ別添資料・別紙等もすべて把握して「行政の意図すること」を叶えていくことが求められている。(あまりに機械的なので、AIでプロンプトを整理・駆使しながらやっていけば簡単に解けるだろうが・・・)
ピュアな行政担当者は「こんな仕様、自分たちで作れるわけないよ・・・」と絶望し、そこにハイエナコンサルが「うちは実績も多数あるのでできますよ」と群がり、お抱え設計事務所・ゼネコンが「規模も(必要以上に)デカいし、ノーリスクだしこれはチョロいぜ」と乗っかる。
これがザ・PPP/PFIのハコモノ整備事業に陥る大きな落とし穴であり、巧みというかある意味で稚拙なトラップである。
何をしたいのか
ビジョンとコンテンツ
事業手法(や施設規模・配置)よりも圧倒的に重要なのは、何度も繰り返すがビジョンとコンテンツである。「何をしたいのか」を徹底的に問い詰めていく作業は禅問答のようなものになり、圧倒的に時間を要するだけでなく、決まるまでのプロセスが辛く・たったそれだけのことなのに整理がつきにくいものである。
コンサルがビジネスベースで向き合うにはあまりにもタイパが低く、ビジネスベースで考えたらいかにこの部分をパススルーするかがポイントになる。そうした意味で優先的検討規程のモデルフローがこの部分を悪い意味で「的確にパススルー」しつつ「アドバイザリー業務が必須」のような位置付けにしていることは、旧来型・ハイエナ型コンサルにとって非常に都合が良いものとなっている。同時にやる気のない・プロ意識の欠落した行政担当者・組織にとっても「国が位置付けているんだから間違いない」と理論武装するのに便利なものになってしまっている。
もし、こうした自治体で内閣府モデルに従わず、リアルな優先的検討規程や自分たちらしいプロセスを経ようとしたら「なんで違うことやるんだ!国(や金を払って委託したコンサル)が間違ったことを言うわけないだろ!」となってしまう。
自分たちで考える
「自分たちのまちのプロジェクトをどうしていくか」は、どんなに苦労しても自分たちで考えて決めていく必要がある。この最も重要で労力のかかることから逃げてしまうから、愛着の持てない・竣工即負債に成り下がってしまう。
「何をしたいのか≒ビジョン」とそれを実現するために「誰が・何を・どういう頻度・収支でやっていくのか≒コンテンツ」を徹底的に精査していくことこそ、優先的検討規程の「対象事業の検討・適切な事業手法の選択・簡易な検討」に代替する不可避なプロセスである。
与条件を整理・市場と整合させていくと・・・
そして、ビジョン・コンテンツを元に時間・財政(資金調達)・各種法制度・マンパワー・スキル・政治的等の様々な与条件を精査し、それをサウンディング型市場調査等により市場とマッチングさせていけば、事業手法は自ずと収斂されていく。
そして、このプロセスに則って検討していくと、事業手法は自動的に決まってくるだけでなく、従来型で実施するよりいかによいサービスが提供できるのか?という視点で様々な議論を蓄積してくることから、VFMや事業手法比較表が登場する余地はどこにも発生しない。
同時に、これまでの経験上、このプロセスでしっかりと検討が積み重ねられてくれば、大切なのは「どんな場になるか・サービスが提供されるか」であり、建築物はそれを実現するための物理的な要素のひとつに過ぎないことが見えてくる。物理的な要素を整備するまでは数年間だが、そこから(時代に応じて種類・質は柔軟に変化していくが、)何十年にもわたって公共サービスは提供されていく。まちのなかにその公共施設は居続け、良くも悪くも多くのインパクトを与えていく。
こうしたことから考えれば、「誰とやるか」を先行決定すること、つまり上記のnoteで記したEOI方式や事業パートナー方式が主要な選択肢として浮かび上がってくる。
冷静に考えると
手法・ストラクチャーは結果論
事業手法は必要な項目を精査していけば自ずと収斂されるし、「誰とやるか」決めたうえでパートナーと細部を調整した結果が事業ストラクチャーになる。
だからこそ、構想時点で事業手法・ストラクチャーを(知識としては知っておいても損はないが、)決め打ちしたり、血眼になって研究する必要はない。
何よりPPP/PFI事業はオーダーメイド型なので、先行事例をそのままトレースしても全く意味がなく、単なる劣化コピーにしかならない。
そこに至るプロセスこそが
先行事例から学ぶべきは「なぜそうしようと思ったのか」「どんな検討体制で進めてきたのか」「誰が何の役割を担ってきたのか」「ステークホルダーの合意形成をどう図ったのか」「どうやってそのパートナーと知り合い、どう調整を図ってきたのか」といったプロセスである。
こちらについてもオーダーメイド型なので、そのまま真似ることはできないし、「こうすれば成功する」といったものもないが、自分たちが現在進行形でプロジェクトを実務で検討しているのであれば、これをやったらコケるという「やってはいけないこと」はいくつも見えてくるだろう。
喰われる自治体になるな
単に言われたから・事務事業で定められているから(やる気はないし・結果はどうでもいいけど)「ハコモノを整備する」ようでは、本noteでまとめたように、教科書的に国の指針に従い、コンサルに丸投げ委託してしまう。
主体性が全くないから愛着のないハコモノにしかならず、せっかく貴重な税金を投下したにも関わらず、まちの発展どころか衰退に一役買ってしまう(最悪の場合にはまちにトドメを刺す)。
そして、こうしたやる気も結果責任も取ろうとしない自治体は、次から次へと「大変でしょ、うちが全面的にサポートしますよ」というハイエナコンサルが群がり、喰われる自治体になってしまう。
逆に言えば、ダークサイドに堕ちないためには「自分たちのまちは自分たちで考え、自分たちで覚悟・決断・行動」していく。その当たり前のことを当たり前にやることが何よりも大切なことになっていく。
詳細は別のnoteでまとめたいと思うが、外部の人間(コンサルタント)がやること・やるべきことは「その自治体のやりたいことの本質を一緒に深掘りし、それを市場と合わせながら自分たちで全体像を整理してもらい、庁内での共通認識を醸成して覚悟・決断・行動できるよう促すこと」である。
一方でやってはいけないことは本コラムで述べてきたように「結果責任をとるわけでもないのに、勝手に他の自治体の事例を劣化コピーした分厚い要求水準書を提示し、行政にはその加除修正だけを求め、多額のフィーを強奪すること」である。
喰われるな!最後に痛い目に遭うのは自分たちだ!
「事業手法<<<<<何をするのか」、手法は勝手に収斂されるし、事業ストラクチャーは結果論でしかない。
お知らせ
2024年度PPP入門講座
来年度に予定する次期入門講座までの間、アーカイブ配信をしています。お申し込みいただいた方にはYouTubeのアドレスをご案内しますので、今からでもお申し込み可能です。
実践!PPP/PFIを成功させる本
2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本
2021年に発売した初の単著。2024年12月現在6刷となっており、多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。
まちみらい案内
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