「値上げ交渉」の前に。IT受託会社の社長が直視すべき、売上の「中身」と資金繰りの話
はじめに
「原材料費が上がったから、価格を上げます」
製造業や物流業では、今こうした「価格転嫁」の動きが加速しています。
最新の調査では、全体の価格転嫁率は54.2%にまで達しているといいます。
これを聞いて、「うちはIT受託だから関係ない」と思っていませんか?
実は、この「価格転嫁」の波は、IT受託会社にとっても非常に重要な経営のターニングポイントです。
ただし、それは単に「単価を上げる」という話ではありません。
もっと深く、自社のビジネスの「構造」を見直すチャンスなのです。
1. IT受託の「原材料」は、人と時間である
IT受託には、製造業のような鋼材や燃料といった分かりやすい原材料はありません。しかし、間違いなく「原価」は存在します。
エンジニアの人件費
協力会社への外注費
PM(プロジェクトマネージャー)が費やすディレクション時間
開発環境やAIツールの利用料
特に人件費や外注費は、IT受託において最大の原価です。
そして厄介なことに、これらの支払いは多くの場合、売上の入金よりも「先」に発生します。
ここを見落としたまま売上だけを追い求めると、「忙しいのにお金が残らない」という負のスパイラルに陥ってしまうのです。
2. 「単価交渉」=「値上げのお願い」ではない
多くの経営者が「単価交渉」を、取引先に対する「強気な値上げのお願い」や「対立」だと捉えてしまいがちです。
しかし、本来の単価交渉とは、「この案件を続けて、会社が無理なく回るかどうか」を整理する対話です。
見直すべきは、単なる金額(数字)だけではありません。
入金時期: 外注先への支払いより先に入金してもらえるか?
検収条件: 支払いが遅れるような曖昧なルールになっていないか?
追加作業: 「サービス」という名の無償労働になっていないか?
着手金・中間金: 先行するコストをカバーする契約になっているか?
これらを整えることは、相手を責めることではなく、「誠実に、品質を維持して仕事を続けるための確認」なのです。
3. 借入で「穴」を埋める前に、バケツの底を見る
資金繰りが苦しくなると、融資(借入)を検討することがあります。
案件が増え、入金までの期間をつなぐための「運転資金」として借入を使うのは、決して間違いではありません。
ただし、注意が必要なのは、借入は「時間差」を埋めてはくれますが、「粗利の低さ」までは直してくれないという点です。
単価そのものが低すぎる
追加作業を請求できていない
入金サイトが長すぎて常に資金がショートしている
こうした「構造上の欠陥」を放置したまま借入をすると、返済が始まった後、さらに経営が苦しくなるリスクがあります。
4. 社長が今すぐやるべき「案件の仕分け」
「世の中が価格転嫁のムードだから、うちもとりあえず値上げしよう」と焦る必要はありません。
まずは、自社の案件を冷静に「分けて見る」ことから始めてください。
利益を残している案件はどれか?
外注費が先に出て、資金を圧迫している案件はどれか?
追加作業が無償になり、社長やPMの時間を奪っている案件はどれか?
数字はあくまで結果です。
その数字を生んでいる「構造」を一つずつ紐解くことで、初めて「単価を上げるべきか」「入金条件を変えるべきか」「借入でつなぐべきか」という冷静な経営判断ができるようになります。
まとめ:誠実な経営のための「判断基準」
売上が増えることは素晴らしいことですが、どんな売上でもいいわけではありません。 現場が疲弊し、支払いに追われ、社長が常に不安を抱えているなら、その売上の「中身」に違和感を持つべきです。
今の案件を並べ、入出金のタイミングと粗利、そして返済額を書き出してみる。
その小さな「見える化」が、あなたの会社をより強く、誠実な組織へと変えていく第一歩になります。
