メガネ君と二十年後のラジコン
メガネ君は、宝物箱という名の段ボールに、とっておきの秘密を隠している。
ほこりを被ったソレを掘り起こしたのは、ちょうど一年前の引っ越し。
「動くかな」
わくわくと目を光らせてラジコンを我が家へ持ってきたのだ。
それは、大事な、大事な宝物。
わたしとメガネ君は根っからの雨女、雨男。会う度に雨を降らし、風を呼ぶ。宝物を動かすには太陽の光がどうしても欲しかったから、眠らせていたと言えばカッコイイけれど、二人揃って「また次でいいよね」を合言葉に宝物箱に何重にも鍵をかけて、眠らせてしまっていた。
時は流れて、五月のカレンダー近づく頃。メガネ君が、我が家に帰ってきたので、彼の大好きな空豆を茹でる準備をしていると
「ヴぃヴぃヴぃヴぃヴぃーーーーー」
呑気なわたしは「まさかね」
更に呑気に空豆をむき続ける。
「ヴぃーーヴぃヴぃヴぃーーーー!!!!!」
そのまさかである。
メガネ君と二十年ぶりに眠りから覚めた、イキッたラジコンが台所に登場。
思いのほか元気なラジコンは台所とリビングを走り回る。なんていうか、色々言いたいことは山の様にあったのだけれど、メガネ君が楽しそうにしているのでそっと喉の奥へと押しやった。
二人でラジコンが右へ行ったぞ、左へ行ったね、いいよ~いいよ~なんて手拍子していると空豆を茹でるハズのお湯が先に湧いてしまう。
そうだ、わたしの使命はラジコンに声援を送るのではなく、空豆を程よく茹でる事だった、いかん、いかん。
気を取り直し、台所で空豆を手にし始める。
わたしは気付いていなかったのである、眠りから目覚めたのはラジコンばかりではないことを。
「ヴぃヴぃヴぃヴぃヴぃヴぃーーーー」
さっきまでの、のほほんとした空気をつんざくヴぃー音に、頭が痛くない訳ではないが、せっかくメガネくんが大事にしていた宝物が動いたのだ、わたしだって彼のパートナーとして器の大きいところ見せたいじゃないの。きっと電池だってヘタっているから、あと数分もすれば静かになるでしょう。
しかし、なかなか元気な彼らは楽しそうにリビングを激走している。視界の後方に色々映っているが、わたしには空豆しか見えないことにした。
そう思った次の瞬間。
ラジコンはどうやら制御不能になったのか、オラついたままわたしの踵めがけて突進し、わたしは空豆を持ったまま負傷した。
「あーちもちゃん!」
メガネ君も心配したのか駆け寄ってくる、そしてラジコンも駆け寄ってくる、そしてラジコンは絵に描いたようにわたしのおしりに突撃する。
二十年。わたしはこのラジコンの倍も生きているのに、大事にされているのだろうか。教えて欲しい。何故ラジコンまで駆け寄ってくるのだ。くそう、電池引っこ抜いてやる!
悪い顔でメガネ君とラジコンを睨みつけたはずだった。
しかしメガネ君は、ラジコンを楽しそうに、愛おしそうに、見ているのだ。一口に二十年なんて言うけれど、お母さんが買ってくれたラジコンを忘れずに大事にしていた。わたしの中でその年月変わらずに大事にしているもの、あるだろうか。
踵を「いてて」とわざとらしく撫でて、空豆の殻むきに戻った。
メガネ君の幼い頃の写真はあまり残っていない。思い出は心の中にあるといえば綺麗だろうけれど、わたしにはあって、メガネ君にはないものがたくさんある。
寂し気な心模様がじわじわ込み上げていると、察したようにラジコンをしまいはじめる。
「明日、晴れたら公園で走らせよう」
寂しい空気を飲み込む、メガネ君って、そういう人。
風が強い強い春の午後。
風を正面から受けながら、しゃがみ込む彼の背中を見ていた。
ワクワクしている。
「今どきの子達は、こんなラジコン見たことがないだろうな」
「そうね、二十年前のだからね」
メガネ君は、喜んで操作し始めた。
元気がいい。
二十年ぶりだよ?わかる?こんなにあっけなく動いてみせるなんてさ。
ねぇメガネ君。
二十年後もこうして笑い合っていよう。
小さな日常を奇跡にしてさ。
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