恋愛漫画
35℃一歩手前のある日。
引っ越しの手伝いに駆り出されていた。
思っていた以上の作業。
廃棄する物、片付ける物、運ぶ場所毎にそれぞれ分別して、車の中に積み込み。時々思い出に浸っていると家族から、浸っている余裕はないよ!とゲキが飛んでくる。
ごもっとも。
そんな悠長な事をしている場合ではないのだ。というのもエアコンを撤去するのが先になったので残ったのは暑さとこの土地特有の湿気。それに対抗するのは軽やかな風を送り出す扇風機1台のみ。私たちは激アツの部屋でサウナ並みに汗をかく。
休憩で食べたセブンイレブンの素麺がおいしい。めんつゆ最高。
整った。ほほうこれが整うか…この頭がぼんやりしている感じが整うなのか。よくわからない体感を味わう。この時点で頭の半分溶けかかっていたはず。
まじめな引っ越しの思い出は別に書くことにして、ちょっとふざけたお話を書きたいので許してください。
夫の部屋の片付けを一緒にすることに。初任務は天井に近い襖から夫が降ろす本を受け取り、段ボールに詰めるである。
えっさほいさ。
えっさよいさ。
えっさほいさ。
掛け声よく手際よくいれる。
稲中卓球部。
ドラえもん。
瞬間。私の目は何かを捉えた。
漫画の束が手元に来た瞬間、漫画本に巻かれた帯にいやん、ばかんな言葉を見つける。これはもしや、ちょっとだけよ漫画じゃないの。
いやん、ばかんは男のたしなみと思っていた。しかし、いや駄菓子菓子。そんな漫画は持っていませんよみたいな素振りをしている夫。そのまま渡された本の束に驚いていないふりをしながら聞かずにはいられなかった。
「ねえ、これ何の漫画?」
脚立の上から振り返り、私の腕の中に抱かれた漫画本をじっとみる夫。
「恋愛漫画だよ」
暑さのせいで耳が遠くなったのかしら。いやとんでもない量の汗をかいているが故にこれは熱中症なのでは。はたまた、急速に外耳炎の悪化しはじめたのかしら。耳の穴に何か詰まってるのでは。ねぇ、まさか。
この腕の中にある「ちょっとだけよ」の文字を2度見、3度見、一度戻して、4度見してしまう。
王道の恋愛漫画は「天使なんかじゃない」や「恋愛カタログ」「マーマレードボーイ」だと思ってここまで来た。ど真ん中しか知らずにいた。変化球の恋愛漫画もそれなりに読んでいたし、兄の影響で読んでいた少年ジャンプの恋愛漫画はちょっといやん要素が含まれる作品だってある。知っている。
だけど、この手の中にある帯はちょっとどころではなさそうよ。
すんとした顔で何事もなかったように段ボールに詰めるのが正解のはず。なのにどうしてか、どうしても「恋愛漫画」という絶妙な夫の返しが気になって手が進まない。
全て用意されていたかの様な設定。近くにいるお義母さんすら、誤魔化せるその返し。滑らかさ。
そうか。恋愛漫画は「少女漫画」であったり「少年漫画」や幅広いジャンルをまとめた総称なのかしら。恋愛漫画の定義は私が思っていた以上に幅広いのを知ったような、分からないような、どうでもいいような、どうでもいいことに浸って涼みたい引っ越しのひとコマである。
いやん、ばかん≒恋愛
恋愛はすべてを網羅しているかもしれない。
なのか?
方程式は未だに苦手。
路地裏パーティーの日。溶けかかった頭で恋愛漫画の裾の尾の広さに惑わされていた。
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