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【旅行記】人生初のひつまぶし編

わたしは鰻が食べれない。

それなのに、ひつまぶしを食べに行きたいと言い出したのは昨年の12月。


夫が仕事で頑張っているのを遠く遠くからしか見守ることさえ出来ずに頭の中で毎日「今頃仕事から帰ってきてるのかぁ」と夢の中で思うくらい夫の帰宅時間は遅い。

主夫になってもいいくらい、マメなマメ男な夫だが、弱音を吐くのが苦手之助さんでもある。だいたい弱音を言う頃には体調を崩すので、昨年は何度目かの体調不良で熱を出したり喘息になったり、そりゃ口には全部出さないがいざとなれば「わたしも単身赴任先へ引っ越す!」と最後には口から本音が飛び出てしまい心に収めておけないほど心配した。

夫にも夫なりの覚悟があって見守ってて欲しいと言われて現在に至るのだけど。

ハラハラしっぱなしの一年であった。
そんな夫が年末に向かって元気になり一年を無事に過ごせたので労いの意味も込めて美味しいモノをどどーんと贈ろうと考えていた。と、言っても私の懐事情はそんなに分厚くはない。私の秘めた想いはバイトで美味しいモノを食べよう!に転換された。美味しいもの食べれば元気になれる説を信じている。

美味しい物を食べよう!とLINEを送ると、冗談か本気か夫からは「ひつまぶし」という言葉が度々送られてくるので、はじめは目を疑った。「ひまつぶし」の打ち間違いなのではないか、目をこすればこするほど浮かび上がる「ひつまぶし」の五文字。これは行きたい食べたい気持ちの現れなのでしょう。

分かった。

私は鰻が食べれない。
鰻ばかりか穴子も食べれない。
鰌も食べれない。

長いものがダメなのだ。しかも皮が見れない。でもみんな口を揃えて言う「ひつまぶしは美味しいよ」と。

その昔。飲食店に勤務時代に京都へ研修旅行へ行った時でさえ、高級鰻屋さんへの予定が行程にあった。普通なら喜んで行く場面で「私は行きたいお寺があります、この機会を逃すともう二度と行けない気がするので、すみませんが別行動をします」と鰻屋さんから逃げ出した。お陰でお寺を数カ所回れて鰻からも逃げられて幸せだった。ただし、苦手なモノを克服するチャンスを思い切り逃してしまったことだけは気付いていなかった。

ここへ来て人生で再び鰻と対面するなんて聞いていない。しかし夫が何度も言うので覚悟を決めた、「行こう、蓬莱軒へ」

ひつまぶしで有名な「あつた蓬莱軒」。

夫は画面の向こうで「本当に?」「本当に?」と何度か聞いてきたし、当日も食べられるのかどうか尋ねられるたびに私は「食べたい」としか言葉を発しなくなった。
「食べられる」ではなく「食べたい」と。

じつは愛知へ向かう途中、「蓬莱軒」のホームページを見ていたら食べられる気がしてきた、おひつに入ったご飯を四等分にして、一膳目はそのまま、二膳目は薬味を付けて、三膳目はお茶漬け、四膳目は今までの食べ方で気に入ったものを。

こういう食べ方に弱い。めっぽう弱い。すぐ好きになっちゃう、だって美味しい食べ方を伝えてくるなんて、ちょっと可愛いじゃない。いやまだ食べてないけれど。鰻に心は許してないけれど。

とにかく旅行の最終日に蓬莱軒へ行こうと決めて本店へとたどり着いたのは午後1時前。並ぶのを覚悟していたけれど、順番待ちをお願いした後は、時間まで好きにしていて良いと言うので夫が「熱田神宮」へ行こうと誘ってくれた。

この日に限って天気は晴れ。傘の心配もいらないほどに晴れていた。「雨男・雨女」にしては出来過ぎている設定に2人ウキウキとデート気分で食前散歩へ。

思いの外、蓬莱軒・本店から熱田神宮までは歩いて数分だったので、すぐにヘバリがちな私でもなんなく歩ける。途中大きな歩道橋を渡りながら高所恐怖症の夫が「俺は歩道橋を信じない」と一刻も早く渡りたいと素早く歩いた姿が面白い。

何よりもたまにしか会えない夫と散歩出来るのは何気に嬉しい。

熱田神宮の本殿までの道のり、御正月前の準備の為かあちらこちらで木の手入れがされている。見上げて大きな木の、大きな枝のすき間から、空の青さが目に映る度に、澄んだ空気を吸い込む。


ふと視線を横移すと


眼鏡之碑



私たち夫婦は共に眼鏡で暮らす日が多いが、思わず2人同時に駆け寄った。夫は「前に参拝に来た時に気付かなかった」と眼鏡の奥の目を輝かせていた。

本殿へ行き、御参りをして境内を散歩してからお店に戻ればちょうどいい時間になるので、イチョウの木の下を歩いて、宝物館の手前まで行ってくるりと散策をした。充実。幸せ。


さくらんぼ的銀杏

地元の人にとってみたらありふれた風景の一つ一つが面白くて仕方ない。日本海生まれの私が東海道にいるのも昔の人からみたら大した出来事なんだろうな。

さぁ、ひつまぶし。

行くと待ち時間に合わせてすんなりと店内に案内してもらえた。そわそわしながら待ち、席に案内されてお品書きとにらめっこしつつ2人で指さしたのは同じ定番の「ひつまぶし」。デザートにプリンと抹茶アイスまでつけた。ふっふっふっ。バイトで汗水と新しい体験をしたかいがあったと充実感に浸りながら、更にそわそわしながら待っつこと数十分。「お待たせしました」
現れたお盆の上で極上のツヤツヤなタレに包まれたひつまぶし。

苦手なはずが生唾がごっくんと出てきた。お行儀が悪すぎる。いやいや、私は知っているひつまぶし=鰻。子供の頃から好き嫌いがあまりない事だけが自慢だったのに、なぜか鰻は本当の本当に食べれない。

なのにこんなに美味しそうに見えるなんて、このタレの香りのせいかしら。

夫が不安げに食べられる?と確認してくるが、夫は夫で食べたくてうずうずしている。「いただきます」と手を合わせて2人でそれぞれに集中し、おひつに手を添えた。

四等分した一つをお茶碗によそうと思っていたよりも鰻がふんわりしていて食べやすそうだな…と思った、いやいや、私は私は…と箸を持ち、一口目を口に含んだ瞬間。

背骨のあたりがぷるぷる震えだす。


何だこれは。



脊髄が鰻を受け入れてぷるぷるしているみたい。どんな状態なのか自分でも分からないが、ちょっとぷるぷるしながら食べているので向かい側に座る夫が「おいしい?」と尋ねてくる。

なんで小刻みに震えているのか分からないが身体が鰻を受け入れているらしい。

口からでた言葉は。

「おいしい」

この細く細く切れ込みが入った鰻の身に、タレが優しく染み込んでいる。苦手な皮も食べれるか心配していたのに、柔らかく感じて、一膳目はゆっくり味わいながら「私は今、鰻を美味しいと思って食べている」という状況をかぶせながら味わってしまって、二度美味しい状況にいるのに悦ってしまう。

いやいや、美味しいものは美味しいうちに。

二膳目は薬味を入れて、これまた美味しい。美味しすぎて写真撮るのを忘れた。

三膳目はお茶漬けに。そう私の大好きなお茶漬け…いつもと違う主役がいるけれど、大丈夫さっき食べてみたら美味しすぎた、きっと大丈夫。

引用:あつた蓬莱軒公式サイト

あっという間にお茶漬けもぺろりと食べ終わり、さて最後の四膳目は何にしよう…。残りのご飯を半分に分けて、薬味とお茶漬けにして食べてみた。

どちらも初めに食べ時の新鮮さを飛び越えて「また食べれた」幸せが、口の中で踊る。

お腹いっぱいになった私たちに運ばれたデザートで満ち足りた時間は、とても人生で一度も食べずに避けてきた鰻を食べた後とは思えない程キラキラしていた。

下書きにしまっておいたこの思い出を今再び書き直しながら、また早く夫と一緒に散歩をしながら訪れたい。そう願わずにはいられない…食わず嫌いを飛び越えて好きな食べ物に変わった人生の一コマ。




私の食わず嫌いが消滅し、またドライアイスかち割りに行く決意が固まった。

#なんのはなしですか
#旅の思い出

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