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選別│リソースが足りないときに全部やろうとする組織は、全部中途半端になる。

選別


危機のとき、組織を壊すのは不足そのものではない。
足りないのに、全部やろうとすることだ。

売上も戻したい。
既存顧客も守りたい。
新規開拓も止めたくない。
採用も続けたい。
開発も遅らせたくない。
資金も守りたい。

気持ちは分かる。

どれも大事だ。
どれも捨てにくい。

だが危機時の経営で、本当に危ないのはこの状態である。

全部が正しい。
だから全部を残す。
その結果、全部が薄くなる。

人も時間も資金も分散する。
会議は増える。
現場は迷う。
優先順位が見えなくなる。

そして結局、全部が中途半端になる。

危機時の経営に必要なのは、網羅ではない
選別である

何を残すか。
何を捨てるか。
何に張り、何を止めるか。

今回のテーマは、その選別だ。

前回の記事では、崩れる前には必ず前兆があり、それを拾えるかどうかが経営者の解像度だと書いた。

前回の記事はこちら

これはその通りだ。

ただ、前兆が見えたからといって、会社が自動で立て直るわけではない。

むしろ前兆が見えた瞬間に、多くの会社は逆に動きすぎる。

あれもやる。
これも手を打つ。
全部に対応しようとする。

その結果、かえって崩れが深くなる。

危機時に必要なのは、対応量を増やすことではない。
絞ることである。

本当に守るべきものに、人と時間と資金を寄せることだ。

危機を越える会社は、たくさん手を打つ会社ではない。
少ない手を、深く打てる会社である。


状況


よくある会社の風景がある。

売上が鈍化している。
既存顧客の温度も下がっている。
粗利も落ちている。
資金にも余裕がない。
採用も思うように進まない。
現場では例外対応が増え、幹部も疲れている。

この局面で経営会議を開くと、当然いろいろな正論が出る。

営業は新規案件を落としたくないと言う。
CSは既存顧客対応を厚くしたいと言う。
開発は機能改善を止めると競争力が落ちると言う。
採用担当は今止めると後で立て直しが効かないと言う。
財務はキャッシュ優先で固定費を絞るべきだと言う。

社長も全部分かる。
だから全部少しずつやろうとする。

ここで会社は一見、前向きに見える。

新規も追う。
既存も守る。
開発も止めない。
採用も細く続ける。
コストも見る。

だが数週間後、現場はこうなる。

営業は案件を広く追いすぎて、結局どれも薄い。
CSは重点対応と言いながら、全顧客を同じ温度で見ている。
開発は優先順位が定まらず、割り込みと既存計画の両方で疲弊する。
採用は母集団も薄く、意思決定も遅く、時間だけが取られる。
財務は支出を抑えたいが、各部門から「そこは止められない」と戻ってくる。

誰もサボっていない。
むしろ全員が頑張っている。
それでも立て直らない。

なぜか。

選別していないからである。

--

問題


リソースが足りない局面では、全部を同時に守ることはできない。
にもかかわらず、多くの会社はそれを認めたがらない。

捨てるのが怖い。
止めるのが怖い。
社内外に説明するのが怖い。
一度やめたものを後で戻せないかもしれない。
「守れなかった」と認める気がする。

だから全部を残す。
だが、それは実質的には何も守れていないのと近い。

選別できない組織では、次のことが起きる。

- 優先順位が口頭だけで終わる
- 重要な仕事とそうでない仕事が同じ熱量で並ぶ
- 現場が「全部大事」と言われて止まる
- 幹部が自部門の論点を守り続ける
- 社長が最後まで切れず、全体が薄くなる

ここが危ない。

危機時の経営では、「全部大事」は判断停止とほぼ同じ

本当に守るべきものがあるなら、他を落とさなければいけない。

時間を寄せる。
人を寄せる。
会議を寄せる。
資金を寄せる。

そこまでやって初めて、優先順位は現実になる。
選別できない会社は、優しさや真面目さで崩れる。

全部に配慮する。
全部をつなごうとする。
全部に可能性を残す。

その結果、全部を傷つける。

危機時の経営で必要なのは、誠実さだけではない。
残すものを決める冷たさである。

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判断・管理・実行


では、どう選別すべきか。

まず判断として必要なのは

この局面で何を最優先で守るのかを一つか二つに絞ることである。

キャッシュなのか。
既存顧客なのか。
粗利なのか。
主要事業なのか。
組織の中核人材なのか。

全部を守ることはできない。

だからこそ、今この局面で失ってはいけないものを先に決める。
それ以外は、薄くなることを受け入れるか、一度止める必要がある。

次に管理として必要なのは

選別を言葉で終わらせず、資源配分にまで落とすことだ。

「既存顧客優先」と言うなら、会議時間も人員配置もKPIも既存寄りに変える。

「キャッシュ優先」と言うなら、売上より入金条件と支出抑制が前に出る。

「粗利優先」と言うなら、低粗利案件を取った人を褒めない。

「主要事業集中」と言うなら、新規施策は止める。

選別とは、気持ちの宣言ではない。
何に資源を寄せ、何を止めるかの管理設計である。

そして実行として必要なのは、
やらないことを明確にすることだ。

危機時の実行で一番効くのは、追加ではない。
削減である。

追わない案件を決める。
見る顧客を絞る。
開かない会議を決める。
止める施策を決める。
認めない例外を決める。

現場は、やることが増えると動けない。
やらないことが決まると動ける。

だから選別とは、集中のために削る行為でもある。

強い会社は、全部を捨てない会社ではない。
守るために捨てられる会社である。

--

結果


選別できる会社は、動きが変わる。

現場が迷わなくなる。
幹部の議論が細くならない。
会議で扱う論点が減る。
重要な顧客に時間が寄る。
開発の優先順位が揃う。
管理部門も、何を異常と見るべきかが明確になる。

そして何より、成果が出やすくなる。
なぜなら資源が深く入るからだ。

逆に選別できない会社では、全部が少しずつ進む。
だが、どれも変わり切らない。

営業は広く薄くなる。
CSも広く薄くなる。
開発も止め切れない。
採用も細く続けるだけになる。

結果として、時間だけが消える。

危機時に一番高くつくのは、間違った集中だけではない。
集中しないことである。

全部を少しずつ守ろうとした会社は、気づいたときには全部が弱っている。
だから危機時の選別は、攻撃的な判断ではない。
生存のための判断だ。

--

構造説明


なぜ選別はここまで重要なのか。

理由は、危機時の経営が本質的に「不足の経営」だからだ。

時間が足りない。
人が足りない。
資金が足りない。
集中力も足りない。

だから平時と同じ広がりで戦うことはできない。

にもかかわらず、多くの会社は平時の延長で全部を持とうとする。

市場も取りたい。
顧客も全部守りたい。
新規も止めたくない。
既存も深掘りしたい。
採用も育成も止めたくない。

その発想自体が、すでに危機とズレている。

危機時の経営とは、足りない中で何を残すかを決めることだ

つまり選別とは、縮小の技術ではない。
限られた資源を、生き残りに直結する場所へ再配分する技術である。


前回の記事で扱った前兆ともつながる。

前兆が見えるということは、全部を守れない兆候でもある。
その時点で選別に入れなければ、前兆は問題に変わる。

だから前兆を拾った後に必要なのは、監視強化ではない。
選別による集中である。

会社を崩すのは、リソース不足そのものではない。
不足を認めず、全部を残そうとする意思決定である。

--

締め


リソースが足りないときに全部やろうとする組織は、全部中途半端になる。

危機時の経営で必要なのは、網羅ではない。

何を守るのか。
何に張るのか。
何を止めるのか。
その選別である。

選別できれば、限られた資源でも前に進める。
選別できなければ、全員が頑張っていても薄く崩れる。

つまり選別とは、冷たい判断ではない。
会社を生かすための優先順位である。


次の記事では、その選別ができない組織で何度も繰り返される無駄の象徴である会議を扱う。

決まらない会議は時間の問題ではない。議題の設計が間違っている、という話だ。

この記事が刺さったら、あとで見返せるようにスキで残しておいてください。

この連載では、危機時の経営を「CEOの右腕」の視点で、症状・判断・管理・実行に分けて言語化していきます。続きも追うなら、フォローしておいてください。


最後に残るべき言葉は、選別です。

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