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市場錯覚|市場が伸びても、会社が伸びるとは限らない

市場


市場が伸びていることは、会社が勝っている証拠にはならない。

市場が大きい。
成長率も高い。
競合も増えている。

だから、この市場にいれば会社も伸びる。
多くの会社は、どこかでそう思い込む。

だが、本当に危ない会社ほど、ここを取り違える。
市場の成長と、自社の成長を同じものとして扱ってしまう。

実態は違う。

市場が伸びることと、会社が勝てることは別だ。
市場が広がることと、利益が残ることも別だ。
需要があることと、自社に勝ち筋があることも別だ。

それでも会社は、この錯覚に乗る。
なぜなら、市場が伸びているという事実は、社内の判断を正当化するのに都合がいいからだ。

だがその瞬間から、見なくなるものがある。

自分たちは、どこで、誰に、何で勝つのか。

ここを曖昧にした会社は、市場が伸びるほど逆に苦しくなる。
市場に期待しているのに、自社の成立条件を見ていないからだ。

市場錯覚は、希望の問題ではない。
戦う場所を外した会社が、自分の弱さを市場の大きさで隠してしまうことだ。


症状


市場錯覚が始まるとき、最初に起きるのは売上急減ではない。

市場の話は増えるのに、自社の勝ち筋の話は減る
TAMや成長率は語れるのに、取れる顧客像が曖昧
競合比較はしているのに、どこで差がつくかが薄い
施策は増えるのに、何が効いたかが残らない
市場が伸びているはずなのに、単価は守れない
需要はあると言うのに、失注は増える
売上は伸びているのに、利益やキャッシュが残らない

この状態でも、社内ではまだ前向きに見える。

「市場が追い風だから、いずれ伸びる」
「今は先行投資の局面だ」
「競合が多いのは市場がある証拠だ」
「この波に乗れば勝てる」

もちろん、市場が伸びること自体は悪くない。
問題は、その言葉が自社の曖昧さを見ない理由になり始めることだ。


市場が伸びていると、会社は鈍さを正当化しやすい

結果として、勝てない理由ではなく、期待できる理由ばかりが社内に残る。

ここが危ない。

--

現場の一場面


ある会社で事業の状況を整理していたとき、会議ではいつも市場の話が出ていた。

市場規模は大きい。
成長率も高い。
将来性もある。
競争も活発だ。

だから、今この市場に張る意味は大きい。

それ自体は間違っていない。
だが、数字を細かく見ると違った。

案件は増えているのに、勝率が安定しない
受注はあるのに、単価が弱い
顧客数は増えているのに、現場の負荷が重い
継続はしているのに、アップセルが弱い
売上は立っているのに、利益とキャッシュが薄い

つまり、市場は伸びていた。
だが、会社の勝ち方は伸びていなかった。

それでも会議の中心は、市場の成長性だった。
「まだ市場がある」
「ここから伸びる」
「この市場で勝てれば大きい」

一番危ないと思ったのは、数字の悪さではない。


市場の話が増えるほど、自社の成立条件を見なくなっていたことだった

市場の大きさは、未来の可能性を語る。
だが会社を生かすのは、未来の可能性ではない。
今の勝ち筋と、今の利益構造だ。

そこが曖昧なまま市場を語ると、会社は“正しい場所にいる気”だけが強くなる。
そして、戦う場所のズレを修正できなくなる。

--

なぜ起きたか(構造)


市場錯覚が危険なのは、外部環境を楽観するからではない。
市場の魅力が、自社の弱さを見ない理由に変わってしまうから危険なのだ。

理由は3つある。

1. 市場規模と自社の取れる市場を混同している

多くの会社は、市場を見るときにまず大きさを見る。
TAM、成長率、将来性、競争活性。

だが、それは“見える市場”であって、“取れる市場”ではない。

本当に必要なのは、

自社が勝てる顧客層はどこか
自社が価値を通せる課題は何か
自社の強みが最も効く条件は何か
競合が入りづらい場所はどこか

この問いだ。

ここが曖昧なまま市場の大きさだけを見ると、会社は大きな地図を持ったまま、自分の立ち位置を失う。

そして、どこにでも行ける気がする代わりに、どこでも勝てなくなる。


2. 成長市場が、選ばない理由を奪う

市場が伸びていると、会社は絞れなくなる。顧客も広げる。
課題も広げる。
チャネルも広げる。
施策も増やす。

なぜなら、全部取れそうに見えるからだ。

だが、ここで起きるのは機会拡大ではない。選ばないことをやめた結果、勝ち筋が薄くなることだ。

市場があるほど、やらない理由が弱くなる。
やらない理由が弱くなると、優先順位が崩れる。
優先順位が崩れると、提案もプロダクトも営業も全部薄くなる。

つまり、市場錯覚とは、外部環境の読み違いではない。
選別できなくなった内部の弱さでもある。


3. 市場の成長を、自社の伸びしろだと誤認している

ここが一番危ない。

市場が伸びていると、自社にも当然伸びしろがあるように感じる。
だが実際には、自社の伸びしろは別で決まる。

粗利が残るか
単価が守れるか
顧客の質が保てるか
提供体制が持つか
キャッシュが回るか
組織が対応できるか

これらが弱ければ、市場がどれだけ伸びても会社は苦しくなる。

つまり、市場成長は追い風ではあっても、自社の成立条件を無視していい理由にはならない。

むしろ成立条件が弱い会社ほど、市場が伸びた局面で無理な拡張をして壊れる。
なぜなら、行ける気がしてしまうからだ。

--

市場が伸びるほど苦しくなる会社があるのは理由がある


どう判断したか

この状態を見たとき、最初にやるべきことは市場の話を増やすことではない。
分析資料を増やすことでもない。
ポジティブなシナリオを足すことでもない。

先にやるべきなのは、市場の話をいったん脇に置いて、自社の勝てる条件を絞り出すことだ。

見るべきは次の5つだ。

1.自社が本当に勝てている顧客層はどこか

2.どの課題なら単価を守れるのか

3.どの案件は受注後も利益が残っているのか

4.どのチャネルは再現性があるのか

5.この市場で“取れる場所”はどこで、“見ているだけの場所”はどこか


ここで重要なのは、市場の将来性ではない。今の自社が成立できる範囲をはっきりさせることだ。

だから判断はこうなる。

まず、勝てている案件と負けている案件を分ける
次に、利益が残っている顧客条件を抽出する
その差分から、自社の成立条件を言語化する
市場全体を追わず、成立できる場所に絞る
伸びる市場より、勝てる市場を優先する

市場が伸びている局面でやるべきことは、拡張ではない。
選び直しだ。

ここで絞れない会社は、次に顧客が悪化し、現場負荷が増え、最後に会計で苦しくなる。

--

結果


この段階で市場錯覚を構造として扱えると、
「市場が悪いわけではない」
という現実を見られるようになる。

どこなら勝てるかが見える。
どこは見るだけで、取る場所ではないかが見える。
どの成長が追い風で、どこからが自力かが見える。
つまり、期待ではなく、成立条件で事業を見直す基準ができる。

逆に、ここで市場の話だけで進むと、
会社はさらに広がる。
案件は増える。
施策も増える。

だが、
単価は守れず、
顧客の質は落ち、
現場は疲れ、
利益は薄くなる。

そして最後は、
「市場はあるのに、なぜか苦しい」
という状態に入る。

だが実際には、市場があるのに苦しいのではない。
市場があることを理由に、自社の弱さを放置していただけかもしれない。

市場錯覚の分岐点は、ここだ。

市場を見るかではない。
市場の中で、自分たちがどこに立つべきかを決め直せるかだ。

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明日使える基準


1. 市場規模ではなく、取れている条件を言えるかを見る

市場が大きいことより、どの顧客に何で勝てているかを言えるかの方が重要だ。
それが言えないなら、市場の話で自社の曖昧さを隠している可能性がある。


2. 市場が伸びているのに単価や利益が弱いなら危険だ

追い風があるのに苦しいなら、自社の成立条件が崩れている。
市場の問題ではなく、戦う場所の問題かもしれない。


3. 成長市場ほど、やらないことを決める

市場があるから広げる、ではなく、広げるほど薄くなると考える。
選ばないことを先に決める。


4. 伸びる市場より、勝てる場所を優先する

市場の魅力より、自社の勝ち筋を優先する。
そこを外した拡張は、追い風ではなく崩壊の入口になる。

市場が伸びていることは、安心材料ではない。
会社が勝てることとは、まったく別の話だ。
ここを混同しないこと。
それが次の基準になる。


この錯覚は、ここで終わりません。
次は
「解約前兆|[事業]解約は、起きた時点で手遅れだ」

を読むと、
市場の追い風があっても足元の顧客関係がどこで崩れ始めるのかがつながります。

過去に書いた
「戦略と財務を分けるな。CSO兼CFOでない会社が伸びない理由」

もあわせて読むと、
市場の話と会社の成立条件を分けて見られないことが、なぜ危険なのかがもっと立体で見えるはずです。

この連載は、会社が壊れる順番を事業・組織・会計で追えるように設計しています。

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