摩擦│現場が動かない理由は、モチベーションではなく、どこかに詰まりがある。
摩擦
現場が動かないとき、多くの経営者は人を疑う。
危機感が足りない。
主体性がない。
温度感が低い。
もっとやり切る文化が必要だ、と。
だが実際には違う。
現場が止まるとき、たいてい最初に起きているのは気持ちの問題ではなく、構造上の詰まり
である。
確認待ちが多い。
役割の境界で止まる。
例外承認が遅い。
会議では決まったのに現場の優先順位が変わらない。
必要な情報が届かない。
他部門の返答が遅い。
こうした小さな詰まりが積み上がると、現場は動けなくなる。
それでも上から見ると、「やる気がない」に見えやすい。
ここが危ない。
危機時の経営で本当に見るべきなのは、熱量ではない。
どこに摩擦があるかである。
今回のテーマは、その摩擦だ。
前回の記事では、判断が遅い組織は、情報が足りないのではなく、決め方が決まっていないと書いた。
前回の記事はこちら
誰が、何を見て、どこまで議論したら、いつ決めるのか。
その型がない組織は、必ず遅くなる。
これはその通りだ。
ただ、経営が決めたあとでも、現場が重い会社がある。
方針は出た。
優先順位も切った。
責任者も決めた。
それでも進まない。
そのときに起きているのが、摩擦である。
摩擦は派手ではない。
だが、危機時には非常に高くつく。
一つひとつは小さい。
確認の一日。
承認の半日。
他部門の返信待ち。
例外確認の往復。
その積み重ねで、現場の速度は落ちる。
危機時の会社を止めるのは、大きな障害だけではない。
小さな摩擦の累積である。
状況
よくある会社の風景がある。
経営会議で、重点顧客を守る方針が決まった。
営業もCSも、その必要性は理解している。
開発にも優先案件が共有された。
一見、動き出す準備はできている。
だが現場では、こういうことが起きる。
営業は重点顧客への提案内容を変えたいが、開発確認が必要で止まる。
開発は対応したいが、割り込みの承認ルールが曖昧で止まる。
CSは危険顧客への先回り対応をしたいが、営業との役割境界が曖昧で手が止まる。
管理部門は粗利の悪い案件を止めたいが、営業現場は売上プレッシャーで押し戻す。
現場責任者は優先順位を変えたいが、既存会議体が古いままで時間だけ取られる。
誰も反対しているわけではない。
誰も怠けているわけでもない。
それでも進まない。
なぜか。
仕事の途中に小さな詰まりが多すぎる
この状態になると、現場では独特の空気が出る。
動こうとしても進まない。
確認しても戻らない。
決まったはずなのに変わらない。
その結果、だんだん手数が減る。
提案が弱くなる。
連絡が遅くなる。
報告が薄くなる。
上から見ると、温度感が下がって見える。
だが本質は逆だ。
温度感が下がったのではなく、摩擦が大きすぎて動くコストが上がっているのである。
--
問題
摩擦が危険なのは、目立たないからだ。
売上の急落なら分かる。
大型クレームなら分かる。
退職者の発生も分かりやすい。
だが摩擦は、そういう形では出ない。
少しずつ遅くなる。
少しずつ確認が増える。
少しずつ例外が増える。
少しずつ現場が黙る。
その結果、全体の速度が落ちる。
多くの経営者がここで誤るのは、
「もっと強く言えば動く」と考えることだ。
だが摩擦がある現場に、さらに号令をかけても意味は薄い。
むしろ逆で、現場はこう感じる。
また新しいことが増えた。
また確認事項が増えた。
また上から急げと言われた。
でも詰まりはそのままだ、と。
この状態が続くと、現場は努力しなくなるのではない。
努力が成果に変わらない学習をする。
ここが本当に危ない。
摩擦が大きい組織で起きること
動く前に確認が必要になる
他部門待ちで止まる
例外処理が通常業務を侵食する
進捗確認だけが増える
現場が「どうせまた止まる」と学習する
危機時の経営で見るべきなのは、モチベーションの有無ではない。
どこで詰まり、何が前に進む力を奪っているかである。
--
判断・管理・実行
では、摩擦はどう扱うべきか。
まず判断として必要なのは
現場が動かないとき、最初に人ではなく構造を疑うことだ。
なぜ遅いのか。
どこで止まるのか。
何を待っているのか。
どの確認が必要なのか。
どの例外が常態化しているのか。
ここを見ずに「もっと主体的に」と言っても、詰まりは解消しない。
次に管理として必要なのは
摩擦の発生場所を見えるようにすることである。
たとえば、
承認待ちの日数
他部門確認の往復回数
例外承認件数
優先順位変更回数
持ち帰り件数
割り込み案件の件数
部門間で止まっている案件数
こうしたものは、売上や利益ほど目立たない。
だが、現場の速度を直接削っている。
ここを見えないままにすると、「なぜ遅いのか」が永遠に人の問題に見える。
そして実行として必要なのは、
摩擦を一つずつ除去することだ。
承認が遅いなら、承認者を減らす。
例外が多いなら、例外条件を絞る。
他部門待ちが多いなら、接続責任を置く。
会議が多いなら、共有と決定を分ける。
優先順位変更が多いなら、変更条件を限定する。
重要なのは、現場に「頑張り方」を求める前に、
進みにくい設計を直すことである。
強い組織は、熱量が高い組織ではない。
摩擦が少なく、動いた分だけ前に進む組織である。
--
結果
摩擦を下げられる会社は現場の空気が変わる
確認の往復が減る。
他部門待ちが減る。
例外処理が減る。
決まったことがそのまま動きに変わる。
現場は「また止まるかもしれない」ではなく、「今回は進む」と感じる。
この変化は大きい。
危機時に現場を本当に疲弊させるのは、仕事量だけではない。
頑張っても進まないことである。
逆に摩擦を放置する会社は努力が消耗に変わる
営業は走るが、提案が通らない。
CSは顧客を追うが、他部門がつながらない。
開発は動くが、割り込みで崩れる。
管理部門は数字を出すが、修正に変わらない。
こうして現場は少しずつ諦める。
表面上は動いている。
だが、組織全体としては止まり始めている。
危機時に差がつくのは、熱量の高さではない。
摩擦を減らし、努力が成果に変わる構造を持てるかどうかである。
--
構造説明
なぜ摩擦はここまで重要なのか。
理由は、危機時の経営が「限られた時間でどれだけ前に進めるか」の勝負だからだ。
資金も時間も人も足りない。
だから、一回の動きがそのまま前進に変わらなければ持たない。
ここで摩擦が大きいと、同じ成果を出すのに余計な確認、余計な会議、余計な調整が必要になる。
それが組織の体力を削る。
しかも摩擦は、たいてい接続点で起きる。
営業とCS。
営業と開発。
現場と管理部門。
経営と幹部。
つまり、組織の境界で起きる。
だから放っておくと、連携不全や空転や速度低下とつながっていく。
前回の記事の速度ともつながる。
判断が速くても、現場に摩擦が多ければ前に進まない。
前々回の記事の連携ともつながる。
情報の非対称があるままでは、部門間の摩擦は増える。
前々回の記事はこちら
つまり摩擦とは、単なる現場の小さな不満ではない。
経営の接続不全が、実行の現場で抵抗として現れたものである。
--
締め
現場が動かない理由は、モチベーションではなく、どこかに詰まりがある。
危機時の経営で必要なのは、現場に熱量を求めることではない。
どこで止まっているのか。
何の確認が多いのか。
どの例外が流れを壊しているのか。
その摩擦を見つけて、削ることである。
摩擦が減れば、現場は勝手に前に進みやすくなる。
摩擦を放置したままでは、どれだけ正しい方針を出しても、組織は重くなる。
つまり摩擦とは、現場の感情ではない。
経営の詰まりが現場に出た形である。
次の記事では、この摩擦やズレが出たときに、計画を守ることよりも何が重要になるのか、その本質である修正を扱う。
計画を守ることより、ズレを認めて直す速さが、経営の質を決める、という話だ。
この記事が刺さったら、あとで見返せるようにスキで残しておいてください。
この連載では、危機時の経営を「CEOの右腕」の視点で、症状・判断・管理・実行に分けて言語化していきます。続きも追うなら、フォローしておいてください。
最後に残るべき言葉は、摩擦です。
