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役割│誰が何を持つかが曖昧な組織は、危機のとき一斉に止まる。

役割


危機のとき、組織が止まる理由は一つではない。

だが、その中でもかなり致命的なのが、誰が何を持つかが曖昧なことである。

売上が落ちる。
顧客の温度が下がる。
現場に例外対応が増える。
資金の余裕も薄くなる。

この局面で会社に必要なのは、全員が頑張ることではない。
役割がはっきりしていることだ。

誰が顧客を守るのか。
誰が粗利を守るのか。
誰が資金の異変を見るのか。
誰が優先順位を切るのか。
誰が現場の詰まりを外すのか。

ここが曖昧な会社では、みんな忙しい。
だが、全員が少しずつズレた方向に動く。

その結果、危機時に最も必要な「前に進む力」が消える。

組織は、優秀な人が多いだけでは動かない。
役割が整理されているから動く。

今回のテーマは、その役割である。


前回の記事では、計画と現実のズレを放置した月に、経営は静かに壊れ始めると書いた。

前回の記事はこちら

差異は、報告資料ではない。

前提修正の起点であり、経営が現実と向き合う接点だ。
これはその通りだ。

ただ、差異が見えても、修正が進まない会社がある。

どこが悪いかは分かっている。
何を変えるべきかも、ある程度見えている。

それでも動かない。

そのとき、
かなりの確率で起きているのが、
役割の曖昧さである。

誰が論点を持つのか。
誰が決めるのか。
誰が現場に落とすのか。
誰が追い切るのか。

ここが曖昧だと、差異は見えていても修正にならない。

会議は増える。
確認も増える。

だが、実行は進まない。

危機時の組織では、能力不足より先に、役割不全が止まりを生む。


状況


よくある会社の風景がある。

売上が鈍化している。
継続率も少しずつ悪くなっている。
粗利も計画より下がっている。

そこで経営会議で、次のような方針が出る。

重点顧客を守る。
低粗利案件は見直す。
入金遅延先への対応を強める。
割り込み案件を減らす。
採算の悪い施策は止める。

どれも正しい。
どれも危機時には当然の判断だ。

だが、そのあと現場では妙なことが起きる。

重点顧客対応は、営業が持つのか、CSが持つのか曖昧なまま始まる。
低粗利案件の見直しは、営業が受注優先で見て、管理部門は利益優先で見る。
入金遅延対応は、経理が一覧を持つが、営業は顧客交渉まで自分の仕事だと思っていない。
割り込み案件は、開発責任者が止めたいが、営業役員が個別にねじ込む。
採算の悪い施策も、止める判断は経営が持ち、説明は現場が持ち、誰も最後まで責任を持たない。

すると何が起きるか。

現場には仕事が増える。
だが役割の境界が曖昧なので、仕事が流れる。

境界で止まる。
押し付け合いになる。
あるいは全員が少しずつ手を出して、誰も完遂しない。

これが危機時の組織で起きる典型的な停止である。

止まっているのは、人ではない。
役割設計である。

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問題


多くの会社は、「責任者を決めれば進む」と考える。
もちろん責任は重要だ。

前回までにも書いた通り、責任が浮いた仕事は進まない。

ただ、危機時の組織では、それだけでは足りない。

責任者がいても役割が整理されていなければ止まる

なぜか。

会社の仕事は、一人で完結するものばかりではないからだ。

営業、CS、開発、管理、経営。

複数の役割が接続して初めて前に進む仕事が多い。

このとき、「責任者は一人」であっても、
各役割が何を持つかが曖昧なら、現場は動けない。

たとえば重点顧客対応でも、

- 営業は何を持つのか
- CSは何を持つのか
- 開発は何を持つのか
- 経営はどこで判断するのか
- 管理部門は何を観測するのか

ここが切れていなければ、全員が同じ顧客を見ながら、違うことをして終わる。

役割が曖昧な組織では、次のことが起きる。

- 同じ論点に複数人が手を出す
- 境界にある仕事が放置される
- 部門ごとの正しさがぶつかる
- 詰まりが起きても、どこで外すか分からない
- 最後に社長や一部幹部が全部拾う

ここが危ない。

役割が曖昧であることは、単に不便なだけではない。
危機時の組織を一斉停止させる構造である。

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判断・管理・実行


では、役割はどう整理すべきか。

まず判断として必要なのは

論点ごとに、役割の分担を先に切ることである。

重点顧客対応なら、営業が関係維持を持つのか、CSが継続運用を持つのか。
低粗利案件の見直しなら、営業が案件選別を持ち、管理部門が採算判定を持つのか。
入金遅延対応なら、経理が観測を持ち、営業が交渉を持ち、最終判断は誰が持つのか。

危機時の仕事は、役割の境界に発生する。
だからこそ、論点が出てから分担を考えるのでは遅い。

最初に切らなければ組織は止まる

次に管理として必要なのは

役割を肩書きではなく、持ち物で定義することである。

部長だから。
役員だから。
営業だから。
それだけでは弱い。

見る数字は何か。
判断する範囲はどこか。
現場で変えるべき行動は何か。
詰まりを上げる条件は何か。

そこまで定義されて初めて、役割は機能する。

役割とは、肩書きではない。
何を持つかの明確化である。

そして実行として必要なのは、
役割の境界で起きる詰まりを、先に見つけて潰すことだ。

営業とCSの境界。
営業と経理の境界。
経営と現場の境界。
開発と事業側の境界。

危機時に止まるのは、たいていこの境界である。

だから役割設計で本当に大事なのは、「誰が偉いか」ではない。
どの境界を、誰が越えて接続するかである。

強い組織は、役割が細かい会社ではない。
役割の境界で止まらない会社である。

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結果


役割が整理されている会社は、危機時でも止まりにくい。

論点が出たときに、誰が何を持つかがすぐ決まる。

部門間の連携も、感覚ではなく役割で動く。
詰まりが起きても、どこで外すべきかが見える。
社長も、全部を自分で拾わずに済む。
幹部も、自分の守備範囲と接続責任を理解して動ける。

この差は大きい。

危機時に会社を弱らせるのは、論点の多さだけではない。
役割の曖昧さである。

逆に役割が曖昧な会社では、全員が忙しい。
だが、忙しいだけで進まない。

営業は「それはCSの話だ」と言う。
CSは「その前提は営業で決めてほしい」と言う。
開発は「優先順位が決まっていない」と言う。
管理部門は「数字は出している」と言う。
経営は「なぜ動かないのか」と苛立つ。

そして最後に、社長か一部の幹部が全部拾う。
その瞬間、組織はさらに自分で動かなくなる。

危機を越える会社は、全員が万能な会社ではない。
役割が整理され、境界が接続されている会社である。

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構造説明


なぜ役割はここまで重要なのか。

理由は、危機時ほど「境界仕事」が増えるからだ。
平時なら、各部門の通常業務で回ることが多い。

営業は営業、CSはCS、開発は開発で進む。

だが危機時は違う。

顧客維持、粗利改善、資金確保、優先順位変更、例外停止。

どれも部門横断でしか進まない。

つまり危機時の経営とは、
各部門の中を管理すること以上に、
部門の間を接続することが重要になる。

ここで役割が曖昧だと、仕事は境界で落ちる。

誰かが拾うまで放置される。
あるいは複数人が同じ仕事に手を出して、逆に混乱する。

役割とは、権限分配の話ではない。
経営を止めないための接続設計である。


前回の記事で扱った差異も、役割がなければ修正に変わらない。

数字のズレが見えても、誰がそれを持ち、誰が行動を変え、誰が判断するかが切れていなければ、差異はただの報告で終わる。

会社を止めるのは、難しい論点そのものではない。
役割が曖昧なまま、その論点を組織に流すことである。

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締め


誰が何を持つかが曖昧な組織は、危機のとき一斉に止まる。

危機時の経営で必要なのは、全員に同じ熱量を求めることではない。

論点ごとに、何を誰が持つのか。
どこで判断し、どこで接続し、どこで詰まりを外すのか。

その役割を整理することである。

役割が整理されれば、組織は動く。
役割が曖昧なら、全員が頑張っていても止まる。

つまり役割とは、人事の話ではない。
危機時の実行速度を決める構造である。


次の記事では、その役割不全が表面化する前に、現場に必ず出ている前兆を扱う。

崩れる前に必ずサインがある。それを拾えるかどうかが、経営者の解像度だ、という話だ。

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この連載では、危機時の経営を「CEOの右腕」の視点で、症状・判断・管理・実行に分けて言語化していきます。続きも追うなら、フォローしておいてください。


最後に残るべき言葉は、役割です。

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