「つながらない権利」で真のプライベートは取り戻せるのか?
「せっかくの休日なのに、上司からのメールが送信されてくるのか心配だ」
「終業後、取引先からの電話に出るべきかどうか迷ってしまう」
このような経験に、心当たりはないでしょうか。スマートフォン一つで、勤務先から連絡がいつでも届く時代になりましたが、その利便性の裏側で、私たちは「仕事から解放されている」状態が少なくなっています。
「勤務時間外であっても、メールやチャット、電話が気になってしまう」
もしあなたが、そうした連絡にストレスを感じているのなら、それはあなたの性格や忍耐力の問題ではありません。
勤務時間外の連絡は、多くの労働者に共通するストレスであり、個人の努力だけで解決できる問題ではありませんし、むしろ、社会全体で向き合うべき労働環境の課題と言えるでしょう。
こうした背景の中で、近年注目を集めている考え方が「つながらない権利」です。
海外では「つながらない権利」の法制度が進んでおり、日本においても、労働法制の見直しの中で議論・検討が進められています。
今回の記事では、こうした動きを踏まえながら、「つながらない権利」とは何か、なぜ今求められているのかを分かりやすく解説していきます。
「つながらない権利」とは何か
「つながらない権利」とは、休日や終業後といった勤務時間外に、業務上のメールや電話、チャットへの対応を拒否できるという考え方です。
本来、労働契約が及ぶのは労働時間内に限られます。労働時間外の時間は、労働者が自由に使える私的な時間であり、会社が当然に関与できる領域ではありません。
ところが現実には、「念のため」「少しだけ」「急ぎの案件だから」といった理由で、時間外の労働者に対応を求めています。その積み重ねによって、仕事と生活の境界線が曖昧にされているのです。
とりわけテレワークの普及は、この問題を一気に表面化させました。
自宅にいながら仕事ができるようになった反面、仕事が終わっても気持ちを切り替えられず、常に待機状態(指示待ち状態)に置かれる人が増えたのです。
「つながらない権利」は、働くことを拒むための権利ではありません。心身を回復させ、翌日の仕事に向かうために必要な、休息の時間を確保するための権利なのです。
下のYouTube動画は、日本テレビ(#みんなの疑問)で放送された「つながらない権利」の特集です。分かりやすく解説されていますので、興味がありましたらご覧ください。
多くの人が「つながりっぱなし」でいる
日本労働組合総連合会(連合)が令和5年(2023年)12月に公表した『つながらない権利に関する調査2023』によれば、日本の職場がいかに「仕事と切れない状態」にあるかが見えてきます。
調査では、雇用者の7割以上が勤務時間外にもかかわらず、上司や同僚、部下から業務連絡を受けているのです。
もちろん、取引先からの連絡がある人も少なくありません。
注目すべきなのは、その多くが「対応しなくてもよい内容」であっても、連絡が届くこと自体に強い心理的負担を感じている点です。
仕事の連絡が来ることでストレスを感じる人は6割を超えています。内容を確認しないと落ち着かず、結果として休む時間が休息になっていない人も多数いるのです。
このような状況ですから、多くの労働者(72.6%)が「つながらない権利」が制度として認められるのであれば、行使したいと考えています。
つながったままの状態が、望まれていないということは、すでに社会の共有認識になりつつあると言えるでしょう。
権利があっても使えない?見えない圧力の正体
一方で、たとえ「つながらない権利」が法的に整備されたとしても、実際に勤務時間外の連絡を拒否できるかというと、多くの人が不安を感じています。
その背景にあるのは、拒否したことによって不利益を受けるのではないか、という恐れです。
評価が下がるのではないか
昇進や配置に影響するのではないか
雇用そのものが脅かされるのではないか
そうした不安が、権利行使への大きなブレーキになっています。
しかし同時に、「周囲で拒否する人が増えれば、自分も拒否しやすくなる」と答えた人が多数にのぼっていることも、調査から明らかになっています。
つながらない権利の行使は、労働者個々の勇気に委ねるのではなく、職場全体で当たり前の「権利」として受け入れられるかどうかが、重要なのです。
「つながらない権利」の議論はどこまで進んでいるのか
現在の日本には、「つながらない権利」を定めた法律はありません。
ただし、厚生労働省の労働基準関係法制研究会では、権利の法制化を踏まえた議論が進められています。
議論の中心となっているのは、一律に禁止・許可を決めるのではなく、労使が話し合い、職場の実情に応じたルールを定めていくという方向性です。
どのような場合が本当に緊急なのか
どの連絡は翌営業日でよいのか
その線引きを明確にすることが求められています。
海外に目を向けると、フランスではすでに法制化が行われ、一定規模以上の企業では、労使協議を通じて「つながらない権利」の在り方を定めることが義務付けられています。
ドイツでも、自由時間中に業務対応をする義務はないという考え方が広く共有されています。
日本は、ようやくその議論の入口に立った段階だと言えるでしょう。
法制化を待たずに、今、職場でできること
前述した連合の調査では、勤務時間外の連絡について、職場内のルールがある場合、多くの人が「実際に連絡が減った」と感じているようです。
ルールがあるだけで、働き方は確実に変わります。
まず必要なのは、勤務時間外の連絡がどの程度発生しているのかを社内で共有し、問題として認識することです。
その上で、「本当に今すぐ必要な連絡」と「待てる連絡」を区別し、後者は翌営業日に回すというルールを作ることが重要です。
そして何より、「つながらない権利」を理由に不利益な扱いをしないことを、会社が明確に約束する必要があります。
権利があっても、使えば不利益を被ると思われている限り、現場は変わりません。
最後に
「つながらない権利」は、怠けるための口実ではありません。
きちんと休めるからこそ、人はまた働けます。休むことは、働くことの対極ではなく、その一部なのでです。
「つながらない権利」という言葉を、ぜひ自分自身の問題として、一度考えてみてください。
