015│平日恋♯6 気になるけど、不思議と不安はない
朝、スマホを開いても、ソジュンの名前は光っていなかった。
一昨日送ったLINEは、まだ既読がついていない。
不安はない。
心配も、正直ほとんどない。
――でも、ちょっとだけ珍しいな。
仕事の日で、しかも一日丸ごと既読がつかないなんて、あまり記憶にない。
在宅なのか、移動なのか、家庭の用事なのか。
理由はいくつも思いつくのに、答えは分からないままだった。
「今日はめちゃ寒いなぁ」
昨日の夕方にそんな軽い一言を送ったあとも、画面は静かなままだった。
それでも、まるりは追わなかった。
「何かあった?」とも聞かない。
不安を埋めるようなLINEは、送らない。
――そのうち来るでしょ。
根拠のない確信じゃない。
今まで積み重ねてきた感覚が、そう言っていた。
──そして今日。
昼を過ぎた頃、ようやく通知が鳴った。
「今週は忙しすぎる😂
今日もずっと現場に入ってる」
たったそれだけの一文なのに、胸の奥がふっとほどける。
――あ、やっぱりね。
余計な説明もない。
言い訳もない。
でも、それで十分だった。
まるりは、軽く返した。
「おはよー
忙しそうだね💦🐰お疲れさま〜
まるりは今日は久々オフィス👠」
責めない。
詮索しない。
自分の日常を添えるだけ。
夕方になって、また通知が鳴る。
「今終わったー
現場寒かったわ」
その一文を見た瞬間、自然と口元がゆるむ。
――ちゃんと返してくれる。いつもの彼だ。
忙しくても、時間ができたら返してくれる。
それが、いつものソジュンだ。
「おつかれさまー🍵
今日は静岡?朝より寒さマシな気する、こっちは」
何気ない会話。
取り立てて特別な言葉はない。
でも、こうして言葉が往復するだけで、心は静かに整っていく。
夜には、さらにソジュンから連絡があった。
「静岡だったー寒かったわ
今家着いた!」
仕事終わったよ、からの帰宅の報告は、今年に入ってからまだ初めてだった。
いつもは、そのまま静かに一日のやりとりが終わっていた。
今なら、わざわざ報告がなくても、この時間帯ならもう帰宅したんだなと分かる。ソジュンも、そこはきっと安心しているのだと思う。
そして、彼からまるりへの、週末に家庭へ戻るための気遣いLINE。
「やっと週末だー
ゆっくり休みましょう💤」
――やっぱり、こういうところが好きなんだ💗
派手な甘さはない。
でも、ちゃんと気にかけてくれる。
必要なところは、きちんと繋いでくれる。
昨日まで感じていた、あの小さな違和感や間は、「今週忙しすぎる」なんて単純な理由じゃないと思った。
「奥さんと自宅だったでしょう」と、まるりは思う。
でも、そこは突っ込まない。
まるりはスマホを伏せて、静かに息をついた。
早く会いたい。
バグしたい。
イチャイチャしたい。
触れて、ソジュンの温もりを感じたい。
そんな欲は確かにあるけれど、
それ以上に、「ちゃんと元通り、同じリズムに戻っている」という安心感が、胸に残っていた。
追わなくても、消えない。
疑わなくても、ちゃんと続いている。
ふたりの平日の恋は、今日もまた、何事もなかったように、静かに流れていく。
ソジュンも、良い週末を♡
そう思いながら、まるりは帰宅の電車に乗り込んだ。
なんだか、会えてるわけではないが心が満たされている。
