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【短編】マロングラッセのオトコ

昔から移動中にふと目にした風景から物語のプロローグだけが
断片的に不思議と立ち上がる瞬間が多くありました。
記録してきたそれらの物語を、少しずつここに書いていけたらと思います。

それでは物語スタート。



気持ちよく晴れた日の午後。
摩耶は、スーパーのお菓子コーナーで足を止めた。

棚の片隅には「マロングラッセ」が並んでいる。
透明な箱の中、琥珀色に艶めく栗の粒。

「マロングラッセ」と言えば
―ああ、祐介だ。

麻耶の脳裏には十年前の何気ない夜の光景がよぎった。
入社同期の祐介と部署の飲み会帰りに寄ったスーパー。

「もう何度も高橋先輩、同じ話をするから疲れちゃったよー」
いたずら小僧のような笑みを浮かべながら、そう言って
お菓子コーナーの通路を進んでいく祐介は
いつも決まってマロングラッセを買っていた。

「これさ、コロンとして甘すぎないのがいいんだよ」
何度、そんな取るに足らない熱弁を聞いただろうか。

特定の恋人もいなかった二人は、
ときどき部署の飲み会や「同期会」と称した二人だけの
労いの飲み会をした後、一緒にスーパーで買い物もして、
それぞれの家に帰っていくのが日常だった。

お互い一緒に仕事で切磋琢磨し、一緒にいる時間が
当たり前にもなっていた。

しかし、しばらくして祐介は実家に戻るために転職し、
最初は相変わらずたわいもない話で頻繁にやり取りをしていた連絡も
気付けば次第に途絶えていった。

そして月日が流れ
摩耶も結婚して2年ほど経った頃
祐介も家庭を持ったと風の便りに聞いた。

確かに、今は跡形もないが
あの無邪気で甘酸っぱい時間は過去に存在していた。

眩しい日差しのように
キラキラとしていて
色褪せないままの懐かしい記憶

「マロングラッセ」

今は祐介の新しい家族 の買い物かごに入っているのだろうか。
ふと我に返った麻耶は、思わずフフッと笑みをこぼした。

そして口角を上げたまま、颯爽とお菓子コーナーをあとにした。


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