【美術】カナレットとヴェネツィアの輝き 京都文化博物館
京都文化博物館で「カナレットとヴェネツィアの輝き」が開催されている。昨年末に東京で見逃したものが関西に巡回しているのはありがたいが、会期は終わりが近いので急ぎ足で駆け込んだ。とはいえ、この次は山口でも見れるらしい。
京都文化博物館
2025年2月15日~4月13日
山口県立美術館
2025年4月24日~6月22日
概観
本展覧会「カナレットとヴェネツィアの輝き」では、18世紀の画家カナレットの作品を中心に、ヴェネツィアの都市景観画を鑑賞することができる。カナレットの作品は、当時のヴェネツィアの壮麗な都市景観を精緻に描き出しており、現在においてもその美しさと歴史的価値を高く評価されている。というのも、カナレットたちの描いた都市の景観の多くは、現代までほとんど形を変えないまま残っているからだ。
ヴェネツィアの都市景観画がなぜ現在まで残り、多くの人々に愛され続けているのか。その背景には、18世紀の英国貴族の間で流行した「グランドツアー」と呼ばれる旅行が深く関わっている。グランドツアーは、貴族の子息たちが数年間かけてヨーロッパを巡る教育的な旅行のことであり、主にフランスやイタリアを訪れた。特にヴェネツィアはその華やかで独特な文化、壮大な建築、そして水路の景観によって、旅人たちを魅了した都市の一つであった。カメラのない時代において、彼らはこの旅の記念品として都市景観画を持ち帰ることを好んだ。この需要に応える形で、カナレットをはじめとする画家たちはヴェドゥータ(都市景観画)を制作し、多くの作品がイギリスの貴族の邸宅を飾ることになったのである。
実はカナレットの作品はヴェネツィアだけではなく、イギリスを舞台にしたものもある。これはオーストリア継承戦争の影響でヴェネツィアの観光客が減少し、作品が売れなくなったことを受けて、グランドツアーによってすでに自らの名が知られていたイギリスに活動の拠点を移したことに起因している。例えば、次の絵はロンドンのテムズ川に架かる橋を描いた風景画だ。

この絵は1750年5月の新市長就任日の様子を描いたものとされ、ロンドンの新しい市長が屋根の青い大型の平底舟に乗って、ウェストミンスター・ホールで宣誓するために向かっている場面らしい。なお、ウェストミンスター橋の工事完了は実際には11月であり、カナレットは川面に多数の舟を追加する演出もしたようなので、フィクションも入った風景画である。
展覧会は5つのセクションで構成されており、それぞれがカナレットの芸術の変遷と影響を詳しく解説している。
第1章「カナレット以前のヴェネツィア」
展覧会はまず、カナレット以前のヴェネツィアを描いた作品を通じて、都市景観画の発展を辿ることから始まった。ヴェネツィアを題材にした絵画の伝統は15世紀まで遡り、遠近法の確立により都市景観に対する関心が高まったことが背景にある。鳥瞰図や物語絵として都市のイメージが再現されるようになり、16世紀末から17世紀にかけては北方からの画家たちがラグーナ(潟)の景観を描き、それがヴェドゥータ(都市景観画)の発展へとつながっていった。
この章では、18世紀に国際的に活躍した画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロの作品も展示されている。作品の目的はヴェネツィアの貴族であるラビア家の邸宅の大広間を飾った絵画のための下絵だが、油絵で描かれていて豪華だ。
第2章「カナレットのヴェドゥータ」
次のセクションでは、ついにカナレットが描いたヴェドゥータの世界が広がる。カナレットは1719年頃からヴェドゥータを描き始め、光と影の効果を活かした初期作品から、1730年頃には澄み渡る空や波紋の表現、堅固な建物描写を特徴とするスタイルを確立した。
特に興味深かったのは、カナレットのヴェドゥータが都市風景の単なる写実的な再現ではないという点だ。例えば、『モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む』では、ヴェネツィア政府のトップが住まうパラッツォ・ドゥカーレ(元首公邸)周辺の光景が描かれているが、実際にはこの視点を確保できる高所は存在しない。

まるでドローンを使ったかのような俯瞰的な構図は、カナレットならではの技術によるものである。
また、『カナル・グランデのレガッタ』では、ヴェネツィアの祭りの一環として行われるボートレース「レガッタ」の活気が見事に描かれ、当時の華やかな祝祭の風景が伝わってくる。ここでは、当時のヴェネツィアの文化や人々の生活がどのようなものであったのかを知ることができる点が興味深い。カナレットのヴェドゥータは、単なる街の景色だけでなく、そこに生きる人々の営みや活気も見事に描き込まれている。
第3章「カナレットの版画と素描」
この章では、カナレットの素描や版画作品に焦点が当てられた。18世紀当時、写真技術がなかったため、版画は景観を記録する手段として重要な役割を果たしていた。
また、カナレット自身が手掛けた版画は、より自由な筆致が見られ、彼の創造性がより直接的に伝わるものであった。素描においても、油絵とは異なる生々しい筆使いが感じられ、画家の手の痕跡が残る作品が多く展示されていた。彼の素描は、ヴェネツィアの景観を詳細に記録するだけでなく、光や影、構図の試みを探る重要な手段であったことがわかる。
第4章「同時代の画家たち、後継者たち─カナレットに連なる系譜の展開」
カナレットの影響を受けた画家たちの作品を紹介するこの章では、彼の甥であるベルナルド・ベロットやフランチェスコ・グアルディの作品が並んでいた。

また、ウィリアム・マーローの『カプリッチョ:セント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河』も印象的だった。これはまったく別の場所にあるロンドンのセント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河を組み合わせた幻想的な構図であり、現実には存在しない風景を描く「カプリッチョ」というジャンルの魅力を感じることができた。
第5章「カナレットの遺産」
最後のセクションでは、19世紀のヴェネツィアを描いた英仏の画家たちの作品が展示されていた。カナレットが確立したヴェネツィアの「絵になる」イメージは、後世の多くの画家に影響を与えたことがわかる。印象派のモネもヴェネツィアを訪れた際に連作を制作している。
まとめ
「カナレットとヴェネツィアの輝き」展は、カナレットの作品とその影響を受けた画家たちの作品を通じて、ヴェネツィアの都市景観画がどのように発展し、受け継がれてきたかを知る貴重な機会となった。カナレットの技法や構図の工夫、そして彼の遺産がどのように後世の画家たちに引き継がれたのかを理解することができる。カナレットの絵画はヨーロッパの美術館のコレクションが来日した際にたまに見かける程度だったが、このようにメインで取り扱われると、もはや巨匠といってもいい画家であるのがわかった。
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