辛くて息が詰る日々にさようなら
生きている意味って、今こうして生きている意味ってなんだろうと仕事を辞めてから考えることが増えた。
学生の時は勉強とか部活とかサークルがあって、社会人になってからは仕事があった。
それらの活動のおかげである意味深く考え込まずに生きてこられた。
だけど今は違う。
有限にもかかわらず無限に思える時間、余計なことばかりを考えてしまう脳みそと思考がある。
3日前、ブックオフに行った。
そのブックオフは商業施設の三階に入っていて、いつもエスカレーターに乗って向かう。
入口のすぐそばには買取受付のカウンターがあって、右に行くと懐かしさと流行りを感じさせるトレーディングカードがずらり並んでいる。
そんな光景を横目に店の奥へ奥へと進んでいくのはその先に古本コーナーがあるから。
商業施設には本屋も入っている。しかもそれなりに大きく、文庫、新書、漫画に絵本と品ぞろえも豊富な店舗だ。だけどブックオフに行くときは新品の本は嫌で、誰かが買って読んだ痕跡が残っている古本が欲しい。
日本人作家、外国人作家、歴史小説と分かれて並べられている棚の列をただなんとなく眺めながらうねうねと歩く。なんとなくとは言ったが、何も考えていないわけではない。
どこかに自分の琴線に触れそうな作品はないかとアンテナをとんがらせながら歩いている。
結局たいていは著名な文豪や気になる作家の名前ばかりに気を取られてしまう。
だからまったく知らない人の本を手に取ることは滅多にないのだが、このあいだは瀬尾まいこさんという作家さんの名前に目が留まった。
もしかしたら大学時代の友人、瀬尾くんに引っ張られていたのかもしれない。
彼とは誕生日が一緒だったし、しばらく連絡をとっていなかったのについこのあいだ誕生日おめでとうとLINEしてくれて嬉しかったから。
自分のことに精一杯でこちらから誕生日おめでとうと彼にLINEできなかったことを恥じつつ、連絡をくれて関係を絶やさずにいてくれてありがとうと思った。
いつか誕生日当日に美味しい日本酒を飲もうね。
瀬尾まいこさんの本は棚の中に10冊ほど並んでいて、そのなかに『天国はまだ遠く』という作品があった。気になった理由は明確にあってラブリーサマーちゃんというシンガーソングライターの『天国はまだ遠い』っていう曲が好きだから。

僕はその本を手に取って裏表紙にあるあらすじを読んだ。
仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰りそう。
23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。
自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々。
だが、千鶴は気づいてしまう、自分の居場所がここにないことに。心にしみる清爽な旅立ちの物語。
僕は23歳の千鶴じゃないし、死ぬつもりも今のところない。大らかな村人や大自然に囲まれた経験ももちろんない。
ただ、仕事や人間関係がうまくいかず、辛くて息が詰りそうな日々は痛いほど知っている。
僕はこの本を買うことを決めた。
決めつつも棚にある瀬尾まいこさんのほかの作品に目を通す。『そして、バトンは渡された』という作品があった。永野芽郁さん主演で映画化されている。
2年前に当時の彼女とエアビーで観て引くほど号泣したことをよく覚えている。
あれほど人前で感情を露わにした経験、僕の人生にはそうそうない。
あと覚えているのは数か月前の愛媛・高知旅行で酔いすぎて、友人に酔っていることを小馬鹿にされて揉めて号泣した時くらいだ。
こう色々と要素が繋がってくると偶然手に取ったことが運命のように思える。
だけど僕は最近この「運命」という言葉を安易に使うことをやめにした。
運命という言葉の魅力は恐ろしい。
突然訪れては無条件に人を救ってくれるような暖かなイメージがある。だけどその一方で自分の努力も意思も関係ないというような超常的で人間の営みを突き放すような冷たいイメージもある。
その魅力に取り憑かれるように僕はいままで運命を待つことが多かった。いつか救われる、いつか報われる、いつか出会える。そんなことばかり考えては現状と比較して悲観した。
でももうそれもおしまいにする。
運命は自らの意思で手に取るものだ。手に取る理由はなんでもいい。『天国はまだ遠く』を手に取った時みたいに作家と友達の名字が一緒、好きな曲と作品名が似てるくらいのものでもいい。
そして完璧主義で、何かと確たる理由や意味を求め、好きでもない人の気持ちを慮っては疲れ、起きてもいないことに一喜一憂するのにも慣れよう。
今までよりちょっと冒険的な在り方になるから先がわからなくて怖い。
でもわかんないのなんてずっとだった。
思えば受験もよくわからないままなりに受験校を選んで過去問を対策して、自分の中での戦い方を見つけながらひたすら机に向かっていたら終わっていた。
就活なんかもっとよくわからなくて、急にみんながインターンや企業研究をしだしたのが怖くて真剣に向き合わない姿勢を示して斜に構えた。
本当は自己分析が自分の無能さや空っぽさを白日の下に晒してしまうことが怖くて有耶無耶にしただけ。無能とか空っぽなんてことはありえないのに勝手にそう決めつけて、そう信じ込んでしまった。
そんな過去をようやく正直に受け入れられるようになった。見栄を張ることも無駄に卑下することもなく、ただありのままを受け容れる。
受け容れると不思議なことに息が詰るような思いも、申し訳なく思いながら起きる朝も少なくなった。
生きている意味とか生きていく理由とか相変わらず分からないことは多いけど、ブックオフに立ち寄って一つの本に出会ってそれなりの気楽さを手にしたことは僕にとって大きな一歩かもしれない。
そしてその気楽さでもってこの先を選び取っていくことを勇気というのだと僕は信じる。
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