真空管ギターアンプを作ろう~⑩爆音問題!編
キャビネットの材料の手配を終え、いよいよキャビネットの製作かと思いきや、不穏なタイトルである。いったいどうしたというのか…
1 テストドライブのその後…
⑴ 電圧チェックなど
各部の電圧チェックを行ってみた結果は次の通りであった。
①整流直後の電圧 323V(313V)
②EL84のプレート電圧 309V(300V)
③EL84のバイアス電圧 9V(8.6V)
③12AX7のプレート電圧 290V(290V)
※( )内は設計段階での想定
概ね設計段階で想定したような数値である。
整流直後及びEL84のプレート電圧がやや高くなっているが、±10Vくらいは許容範囲という話もどこかで見かけたので、これで良いことにしておこう。整流直後の電圧が想定より高いのに、そこから先の12AX7への電源の電圧が設計通りになっているのが不思議でならないが…
設計が正しいのかどうかはさておき、設計通りに出来上がっていることも検証できたので一安心である。
⑵ 爆音問題…
本機は、小音量で快適なドライブサウンドが得られるいわゆるfor Bedroom な真空管アンプ、がコンセプトである。試奏の結果、小音量でも十分に真空管らしい豊かなサウンドであったことは、前回のご報告通りである。
その後、音量を上げても許されるであろう週末の昼間の到来を待ち、最大音量でのチェックを決行した。
ボリュームを10段階の5が超えるあたりから少しずつ歪みはじめ、7くらいでしっかりとしたクランチサウンドとなるが、この時点での音量はかなり大きい。そして、そこからボリュームをフルアップにしていくと、歪みが深くなっていくとともに愚直に音量も上がっていき…
超爆音!!そして音圧もヤバい!!
はじめてライブハウスに足を踏み入れたとき、あるいは、はじめてスタジオのスタックアンプで鳴らしたときの感覚を自宅で体験できるなんて…アンプを歪ませ、ギターのトーンを絞って弾くLaylaのイントロはまさにウーマントーン、最高である(自画自賛…)。
それにしても、いくら休日の昼間とはいえ、こんな音量で遊んでいたらさすがに近所迷惑だ…
まあ、薄々こうなるんじゃないかな、という予感はあった。本機の製作前の情報収集で海外の自作アンプのフォーラムなどもチェックしていたのだが、「5Wでフルアップできるbedroomがあるなんてどんな大邸宅だよ。1Wだってかなりヤバいぜ」、「5Wでフルアップしたら窓やドアがビビってヤバい」とか、「今4Wのアンプを使っているんだけど、警察に通報されたり、隣人がカチ込んでこない程度にしたいんだが、どうすりゃいいんだ?」みたいな書き込みが散見されていたからである。
アンプの音量を下げてクリーンサウンドに留め、TS系の自作エフェクターで歪んだ音を作ってみると、小音量でもそれなりにいいサウンドである。いわゆる「エフェクターの乗りが良い」という感じ。こういう使い方をすればいいんじゃないか?
いや、違う違う、そうじゃない(ⓒ鈴木雅之)。エフェクターで歪んだ音を作ってしまうなら、トランジスタアンプでも変わらない。出力管が歪んだカッコいい音で弾きたいんだよ!
⑶ アッテネーターが必要だ!
というわけで、今回はちょっと寄り道をして、爆音問題を解決することにする。
このような場合、ひたすら大音声で怒鳴り続ける経営者(アンプ)と、あまり働きたくない現場猫(スピーカー)との間に中間管理職を投入するという対応が一般的である。この中間管理職は、業界では「アッテネーター」と呼ばれているようである。
中間管理職は、高熱にうなされながら額に汗して現場責任者と現場猫の調整を図ったり(抵抗型)、現場猫の代わりに不平不満をその辺に掘った穴に叫んだり(ウェーバー型)して、最終的には現場猫の仕事量を減らしてくれるのである。それにしても、こんなに自由な趣味の世界ですら、中間管理職が必要なのか…
中小企業に傍若無人な経営者が多いアンプの爆音問題に悩むユーザーは多いように思われるが、市場に存在するアッテネーターはそれほど種類は多くなく、金額的にもあまり安価なものはない。やはり、この種の中間管理職に求められる高度な技量に対する対価は安いものではないということだろう。
そこで、市販されている製品群の中から、音質の劣化が少なく、しっかりと音量が下げられ、かつ、コストパフォーマンスに優れたものを選んでさっさと購入してしまえばどんな気分になるのだろうか、と想像しながら、アッテネーターを自作してみることにする。
2 アッテネーターの試作
⑴ 基本構想
アッテネーターには、抵抗式、コイル式、トランス式などいくつかの種類がある。この中で自作に向いているのは、アンプのパワーを抵抗器で消費させる(エネルギーを熱に変換する)抵抗式だろう。抵抗式のアッテネーターで有名なのは、Trainwreck(Dr.z)のAirbrakeやDr.ZのBrake Lite、THDのHot Plateあたりだろうか。
単純にアッテネーターを作るならば、これらのどれかを丸パクリコピーしてしまえばよい。海外の自作系フォーラムなどでAirbrakeの回路図などが入手可能である。
しかし、せっかくキャビネットまで自作するのに、アッテネーターを外付けするというのもちょっと抵抗がある(抵抗式だけに?)。できればアッテネーター自体もアンプ本体に組み込んでしまいたいところである。幸いにも自作アンプのシャシーはかなり余裕を持ったサイズであるため、アッテネーターを組み込むことは十分に可能である。
そこで、まずは別体で実験して、最終的にはアンプに組み込むことにする。
⑵ 具体的検討
調査を進めたところ、抵抗式のアッテネーターは、抵抗器でアンプのエネルギーを熱に変換するという本来の目的と合わせて、アンプから見たインピーダンスをごまかす(といえばいいのか?)ように抵抗を配置する必要があることがわかった。つまり、本来8Ωのスピーカーが接続されるアンプならば、アッテネーターの抵抗とスピーカーの全体がアンプから見て8Ωに見えるようにしなければならないということである。これはなかなか大変そうだ…
簡単お手軽に音量を下げられる良い方法はないだろうか。
楽をするためならどんな苦労も厭わない!といろいろ調べてみたところ、FenderのElic Craptonシグネチャーモデル( TremoluxとかVibro Champとか)に組み込まれている1/4Power Switchにたどり着いた。

この1/4Power Switchを入れると、8Ωの抵抗器と8Ωのスピーカーが直列に繋がって16Ωになる。これとグラウンドに落ちる16Ωが1:1の関係になるので、アンプからの出力を仲良く分け合う形となり、まず出力が半分になる。さらに、直列に繋がった8Ωのスピーカーと8Ωの抵抗器も1:1の関係なので、半分になった出力のさらに半分、つまり4分の1だけがスピーカーに流れていくことになる。一方、グラウンドに落ちる16Ωと8Ωの抵抗器+8Ωのスピーカーは、アンプから見れば並列であり、合成すると抵抗値は8Ωになるので、インピーダンスの問題は生じない。という理解で合っているだろうか…
インターネットで調べると、アッテネーターにはその抵抗の配置によってL型やπ型などがあるのだが、この構成はL型っぽいけどグラウンドに落ちる抵抗がスピーカーと直列になる抵抗の手前に入っているのでそこがちょっと違っているようである。これは何型なんだろう?F(=Fender)型?

LTspiceを活用してパワースイッチ単体でシミュレーションしてみたところ、信号源が0dBに対して、スピーカー出力が-24dBとなった。周波数特性についても検証してみたが、アッテネーターを通したとしても、グラフ上では周波数特性の有意な変化はみられないようである。よく言われるアッテネーターによる「ハイ落ち」という現象は、小音量では高域が聴き取りにくくなることを指しているのだろうか。
LTspice上で、コンデンサをR2(スピーカーと直列の抵抗)に並列接続してみたところ、全体的な減衰量が上がり、高域が持ち上がってくる。本アンプの回路の出口にパワースイッチを追加し、スピーカーと直列の抵抗に大きめのコンデンサ(ここではわかりやすく10uF)を並列接続してシミュレーションした結果は次のとおりである。

なるほど、コンデンサによって高域の補正ができそうである。最適な数値については、実際にヒアリングテストで選定していけばよいだろう。
⑶ テスト機の作成
【部品の手配】
最低限必要となるのは、ケース、入力・出力ジャック、8Ωの抵抗、16Ωの抵抗、スイッチ、配線材である。
ケースは、テスト運用における抵抗器の追加なども想定して、Hammond 1590BB(94㎜×119㎜×34㎜)を用意した。ケースの上面には、内部に装着する抵抗器の位置も勘案しながら丸穴を開口して、抵抗器の発熱に備えている。
などと説明すれば聞こえがいいが、実際には、使っていない自作エフェクターをばらして、そのケースを再利用しただけである。

入出力ジャックも、ドナーとなった自作エフェクターからそのまま流用してしまうことにした。配線材はアンプ製作のために購入した配線が残っているので、新規調達が必要なのは抵抗器だけということになる。
抵抗器は、自作アンプの出力(推定)4Wに対応するため、10W以上で放熱性が高いもの、セメント抵抗やメタルクラッド抵抗などになる。
この手の抵抗器は結構高価なのだが、Amaz〇nで8Ω25Wのメタルクラッド抵抗(アルミケースのカッコいいやつ)が3個セットで929円というものを発見した。必要となる抵抗器は、8Ωが1個、16Ωが1個なのでちょうどいい(8Ω抵抗器は2個直列で16Ωになるので)。
安物なので性能は期待できないが、話半分でも12.5Wなので大丈夫だろう。こういうときに、話半分で8Ωが半分の4Ωだった場合のリスクを考えないのはどうしてだろうか…。
ポイント割引も活用し、805円で抵抗器が入手できた。
あとは、高域補正が必要になった場合に備えて、無極性の電解コンデンサが欲しいところである。同一容量の普通の電解コンデンサ2つをを逆向きに直列すれば無極性として扱うことができるのだが、直列接続によって容量が半減してしまう。ちょうどいい容量のものが手元にあればいいのだが…
【試作】
ポチってから数日でメタルクラッド抵抗が届いたので、早速検品してみる。
抵抗値に問題はなく、いずれも8.1Ωとなかなか優秀じゃないか。


ケースに組み込む前に配線のイメージを…と軽く結線してみたところ…

おや?このバラック状態でもテストできそうじゃないか?
⑷ 試奏その1
とにかくショートさせないように気を付けながら適当に配置した部品たち「バラック1号」をアンプのスピーカーアウトとスピーカーケーブルの間に配置して、試奏を開始する。
まず音量変化であるが、アンプのボリュームが低い状態ではたしかにかなり音量が下がっているが、ボリュームを上げていったときの聴感上の減衰量は2分の1くらいである。もう少し減衰量を大きくしても良さそうではあるが、元々の爆音からすれば十分に扱いやすくなっているので、抵抗値はこのままでよいだろう。
音質の変化については、特に小音量~中音量時では高域が弱まり、全体にぼんやりとしたモコモコとした音になっている。アンプのトーンコントロールの調整で対応できるかどうか、というくらいの変化である。
しばらく試奏してみたが、メタルクラッド抵抗はあまり発熱せず、素手で触れるくらいである。せいぜい5W程度の出力に対して25Wなので余裕ということなのだろうか。これならば、アンプのシャシー内部に組み込んでも問題はないだろう。
⑸ 試奏その2~コンデンサのテスト
【実験君1号】
抵抗器だけでは音質が変化してしまうことが実証できたので、高域補正コンデンサを投入すべく、ヒアリングテストを行うことにする。
しかし、既に中年に達した我が耳には、加齢による高域の聴力の低下という問題がある…これも歳を重ねて中年男性の渋さを手に入れた代償と考えるしかないだろうか(こんな駄文を書き連ねる男のどこに渋さがあるというのか…渋いのはお小遣いの入った財布の紐くらいじゃないのか?)。
そこで、ヒアリングテストには御年7歳の我が子にも協力を仰いだ。彼は乳児のころはDeep PurpleのBurnやAerosmithのI Don't Want to Miss a Thingなどで寝かしつけられるという(間違った)英才教育を受けており、ギターサウンドに対する耳は確かなのである。
我が子にも参加してもらうということを踏まえると、バラック1号のままではさすがに危険である。メタルクラッド抵抗をケースに納めて入出力ジャックをケースに固定し、高域補正用コンデンサをワニ口クリップで簡単に交換できるようにした。

【コンデンサの準備】
今回のヒアリングテストに用いたコンデンサ達を紹介する。
①Mullard Mustard 0.22uF
②フィルムコンデンサ 0.68uF
③バイポーラ(両極性)電解コンデンサ 4.7μF
④バイポーラ(両極性)電解コンデンサ 10uF
の4つである。
①のMullard Mustardといえば、VOXのAC30やプレキシ期のMarshallなどに使われていた「聖杯」と呼び称されるコンデンサである。こんなものがどうして一般民家に転がっていたのかというと…これは、今回ケースのドナーとなってくれた自作エフェクターから摘出したものである。
この自作エフェクターは、パーツ沼に嵌り込んでいた時分に、ビンテージアンプに使われているような部品を使えば良い音になるはず、という勘違いに基づいて作成されたオーバードライブであった。
エフェクターなのにポットは24㎜、抵抗はDALEの高耐圧にAllen Bladleyのカーボンコンポジット、そしてコンデンサにはMullardのMustard(NOS)やらSoZo amplificationのMustard Cap Vintageやら。電解コンデンサもオーディオグレードのやたら耐圧の高いものが投入されている。

こうして組みあがったエフェクターの出音は決して悪いものではなかった。しかし、”大枚叩いて調達した部品で組み上げたのに、活用されることなく長期間放置されていた”という事実は、その出来を如実に物語る…
「認めたくはないものだな、自分自身の、若さゆえの過ちというものを」(©機動戦士ガンダム 第1話より)…
さて、いくらシャア・アズナブルを気取っても、齢7歳の若きテスターには通じないので、さっさとヒアリングテストに取り掛かろう。
まず一番容量の小さい①から試してみる。
「Marshall Plexiにも通じるNOSのマスタードならではの音色が...」などということは全くわからない。が、0.22uFでも高域の出方は明らかに変化している。頼れる若きテスターも「変わったね~、モコモコが減ってるよ!」と喜んでいる。
②の0.68uFは①とあまり変化がないようである。若きテスターも「変えた?変わった?」と不思議顔である。
③のバイポーラ4.7uFはというと、さすがに定数が大きくなっているので、かなりはっきりと高域が補正されている感じである。若きテスターは「パリパリしてる」と。
④のバイポーラ10uFは、③よりさらに高域がはっきり出てくるが、音量を少し上げていくと高域がうるさくなり過ぎる感じで、「高域補正」を超えて「高域強調」になってしまっているようである。若きテスターによるとこの音は「カリカリだよ、カリカリ!」だそうである。
若きテスターと相談した結果、小音量でもモコモコ感がなく、音量を上げてもカリカリし過ぎず、アッテネーターのオンオフでの音質変化の差が一番少ない③バイポーラ4.7uFが一番良いのではないか、という結論に達した。
3 今後の方針
テスト機によるヒアリングテストの結果を踏まえ、4.7uFの高域補正コンデンサを追加したアッテネーター回路をアンプシャシー本体に組み込むことにする。
(追記)
上記のように考えていたが、この4.7uFという定数は、あくまで今接続しているスピーカーにおける最適解に過ぎない、ということに思い至った。
高域補正コンデンサの定数の最終決定は、調達中のスピーカーを実際にキャビネットに組み込んだ状態で行わなくては…
そろそろキャビネット製作のための材料が届きそうである。次は本編に戻り、キャビネット製作に着手する予定である。
次回、真空管ギターアンプを作ろう~⑪キャビネット製作開始編
をお楽しみに!
