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【制作体験談】落書きの駅ホームに置き去りにした、あの日の私たちと消えない文字

夕暮れ時、西日に照らされた電車の窓ガラスは、どこかオレンジ色に濁って見える。その向こう側、劇的に変わりゆく街の景色を眺めながら、私はいつも、もう何年も前に廃線となってしまったあの小さな無人駅のことを思い出している。

私の記憶の中にあるその場所は、いつも湿った雨の匂いと、寂れた鉄錆の匂いが混じり合っていた。

始まりは、1枚の行き先の wrote(書かれた)ない切符

高校3年生の秋、進路という名の見えない怪物に押しつぶされそうになっていた私たちは、ただ「ここではないどこか」へ逃げ出したかった。 彼がポケットから取り出したのは、自動券売機ではなく、窓口で手に入れたという、どこか古びた小さな硬券の切符だった。

「これ、どこまで行けると思う?」

悪戯っぽく笑う彼の顔には、まだ少年のような幼さが残っていた。 行く先なんて決めていなかった。ただ、日常から少しだけはみ出したくて、私たちはガタゴトと揺れる2両編成のローカル線に飛び乗った。

たどり着いたのは、名前の消えかけた看板が寂しく佇む、山あいの無人駅。 改札と呼べるものもなく、あるのは雨風をしのぐための小さな待合室と、木製の古びたベンチだけだった。

2人で指で描いた未来と、ホームの落書き

その駅のコンクリートの壁やベンチには、これまでにここを訪れたであろう誰かの「足跡」が、無数の落書きとなって残されていた。 相合傘、だれかの名前、くだらない約束、そして消えかけた日付。

私たちはそのベンチに並んで腰掛けた。 夕刻が近づくにつれ、冷たい雨が静かに降り始め、ホームを濡らしていく。 沈黙を破るように、彼は人差し指で、湿気で結露した待合室のガラス窓に何かを描き始めた。

「もし、5年後もこうして一緒にいられたらさ……」

彼が指で描いていたのは、歪な円と、その中に書かれた2人の未来の姿だった。 東京へ行くという彼と、地元に残るという私。 交わるはずのない2つの線が、そのガラスの上では、確かに1つの未来を形作っているように見えた。

けれど、言葉にすれば何かが壊れてしまいそうで。 「さよなら」に似たその空気を、私はどうしても壊すことができず、ただ黙って彼の横顔を見つめていた。もしあの時、私がもっと素直に笑えていたら、私たちには違う景色が見えていたのだろうか。

やがて、静寂を切り裂くように、鳴りやまない発車のベルが無人駅に響き渡った。 それは、私たちがそれぞれの現実へと戻るための合図だった。

滲んだ文字を、1人胸で読み直す

あれから長い年月が流れた。 彼が目指した都会の喧騒の中で、私は偶然、あの無人駅の路線が完全に廃止されたというニュースを目にした。

居ても立ってもいられず、私は車を走らせてあの場所へと向かった。 線路は錆びつき、草木が生い茂った「落書きの駅ホーム」は、記憶の中よりもずっと小さく、そして静かに息をひそめていた。

待合室に足を踏み入れると、あの木製の古びたベンチはまだそこにあった。 壁に残された無数の落書き。雨に濡れ、経年変化で滲んでしまった文字たちを、私は指先でなぞるようにして、1人胸の中で読み直していった。

ガラスに描いた彼の指先。 あの日の、名前の消えかけた看板の下で、私を呼んでいた彼の声が、今も耳の奥で微かに響いているような錯覚に陥る。

私たちは、未来を約束することから逃げた。 でも、あの場所に置き去りにした、未熟で、傷つきやすくて、それでも必死だった「若い心」は、今もあの静かなホームで、お互いを待っているのかもしれない。

都会へと戻る電車の窓に、再び夕暮れの光が差し込む。 ガラスの向こうに伸びていく1つの人影を見つめながら、私は今も、あの消えた線をなぞるみたいに、心の中で君の姿を探し続けている。


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